43. 対決
『対するは謎の転入生!記憶喪失ながら入試で選んだ数学の点数はなんと92点!魔族の赤魔法に対抗する
闘技場に響いた歓声は、若干さっきよりも大きい気がした。
俺とジュルペは、10mほど離れて対峙した。
「逃げなかったことだけは褒めてやるがな。今あの女を渡せば重傷で済ませてやるぞ?」
「生憎だが、お断りしておくよ。リーサを渡したら研究室の先輩に殺されてしまうんでね」
イルク先輩の発言を勝手に捏造して答える。
「はっ。どうやら、数学はできても賢くはなかったようだな。魔道具を持たぬところを見ると肉弾戦を挑むつもりだったようだが…赤魔法使いの魔族である俺様に素手でかかってくることがどういうことか、教えてやる」
どうやら腰に下げた銃は飾りとでも思っておりらしい。
それ以上はもう答えるのもばかばかしく、黙っていた。
「ふん、気圧されて声も出ないか。まぁいい」
ジュルペは手に持った杖をガツンと地面に立てた。
それを合図に、開始のアナウンスが流れる。
『敗北条件は戦闘不能になるか降参するかのどちらかです!では、戦闘を開始します!3、2、1、はじめ!』
号令と同時に、俺は腰から銃を抜き、銃身に走る溝に指を押し当てた。
「はぁっ!」
しかし、それより一瞬早くジュルペが杖の魔法陣に魔素を流していた。
当たるわけにはいかない。俺は横にステップして射線を外れる。次の瞬間、炎の弾が猛スピードで俺の横を飛んでいく。
危なかった、と思うのもつかの間、背後でものすごい爆発音と悲鳴が上がった。
「チッ、避けたか」
魔法理論を知る俺だからこそわかる。
アレは赤魔法使いの魔族だからこそできることだ。
魔法陣こそ俺が買った杖に刻んであるやつと同じではあるが、あいつはそれを大量に、しかも同時に発動させた。
多分魔法陣を小さくして、これでもかというほどの密度で詰め込んでいる。
それらを同時に発動できるのは、瞬間魔子放出量が優れている証拠だ。
…だが、弱点もある。
「おいどうした!来ないのか?それとも俺様の圧倒的な力に怯えたか?」
露骨な挑発。
時間稼ぎだと言っているようなものだ。
つまり、アレは体内の魔子をごっそり持っていく技。
まあ、コイツのことをよく知っていたり、初対面であんな圧倒的な力を見せつけられたりしたら、怯んでしまう人がほとんどだろう。
その隙に魔子を空気から取り込んで回復し、相手に二撃目をブチ込むという寸法なのだろう。
一瞬の間でそんな思考を巡らせ、俺は再び銃を向けて魔法を発動させた。
同時に、ジュルペに向かって駆け出す。
「なっ…!?」
ジュルペが驚きを顔に浮かべた。
俺が冷静に動けたことが、こいつの間違いだ。
だが、腐っても赤魔法使いの魔族。それなりに戦った経験はあるらしく、すぐに杖を構え直し、魔法陣に触れる。
「吹っ飛べ!!内臓ごとな!!」
そうして指先から魔子を放出しようとする。
だが、俺の放った銃弾…魔法陣が着弾するほうが僅かに早かった。
魔法は――発動しない。
「吹っ飛ぶのは、お前だ!!!」
ジュルペの喉を、勢いのまま横薙ぎにチョップする。
潰れたカエルのような音を発して、ジュルペが後ろに吹っ飛ぶ。
そして地面に倒れ、後頭部を強かに打った音が聞こえた。
「うがぁっ…!?」
ジュルペが杖を手放したのを見逃さず、さっと奪い去る。
そして俺は馬乗りになり、拳を握り、腕を振り上げた。
「これは、リーサを怖がらせた分!」
そうして顔面に、鼻っ柱を物理的にへし折るつもりで拳を振り下ろす。
ぐしゃ、という音が響き、観客席から「おぉ!」と声が上がる。
「これは…ええと、俺の手間を煩わせた分!なんかみんなに迷惑かけた分!赤魔法使いの魔族の印象を悪くした分!」
言い分が思い浮かばず、適当な理由をつけてぶん殴る。
そのたびに歓声が上がった。
「て、め…」
「おっと危ない」
ジュルペが腕を動かそうとしたので、俺は馬乗りの体勢を解除して立ち上がった。
どうも無駄に頑丈らしいジュルペはなんとか起き上がろうと腕を動かす。
「やらせっかよ!」
俺は杖を振り上げ、そして薪でも割るかのように振り下ろす。
ジュルペの腹に、先端がクリーンヒットした。
「ごぁっ…!」
血と一緒に変な汁を吐き出したジュルペをよそに、俺は最後の一撃を加えんと杖を振り上げた。
その瞬間。
『そこまで!!勝者、ヒロキ・アモン!!』
俺の勝利を告げるアナウンスが響き渡った。
一瞬遅れて、闘技場は歓声に包まれた。
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