20. お花摘み(物理)

「おっ、あったあった。あれがシェロイだ」

「うお、めっちゃ生えてる」


 濃厚な紫色の花弁が特徴的なシェロイが、一箇所に群生していた。

 少しいい香りがする。


「この分なら300ガッドくらいは稼げそうだな」

「300か…キツいな」

「まぁ、上達したら4級や3級の依頼を受ければいいんだよ。3級さえ受けときゃとりあえず生活はできるからな。2級とかも受けたいんだが…さすがにそのあたりからはキツい」

「冒険者ってそんなキツい職なのか」

「少なくとも、それ一本で食っていくなら普段から2級くらいはバンバン受けないとな。1級や特級は、それこそ赤魔法使いでもなきゃ受けられるもんじゃないけどよ」

「…そうか」


 俺も頑張れば、いつかは1級や特級の依頼を受けられるんだろうか。


「そういや兄ちゃん…いやもうヒロキでいいか。ヒロキは魔法どうなんだ?」

「…赤魔法が使える。しかも魔族らしい」

「…こりゃ驚いた。赤魔法使いの魔族はもっと傲慢なやつだと思ってたが」

「俺はこの世界のことはほとんど何も知らないし、赤魔法使いの魔族がどれくらい偉いのかも知らないからな。傲慢にやって失敗したら恥ずかしいだろ」

「…赤魔法使いの魔族とは思えねえ発言だな…」

「赤魔法使いの魔族ってのは、そんなに酷いのか?」

「少なくとも俺が知ってる奴はな。リーサのとこにいる奴は言わずもがなだし、俺らが前いたとこの領主も自分の力を笠に着て好き放題やってるような奴らだった。だから逃げてきたんだが、資金が尽きた。それであんなことをしようとしたわけよ」

「…そうだったのか。大変だったな」

「そう言ってくれる赤魔法使いはヒロキくらいなもんだ。…さっきは悪かったな、悪く言っちまって」

「実際それで辛い目に遭ってるんだろ?しょうがないさ」

「まったく、人格ができてんな…ん?おいあれ、アルスレーウサギじゃねえか?」

「え?」


 ガルゼが指す方を見てみると、そこには必死で木を齧るウサギの群れ。


「あれだけじゃわからんな…」

「元々アルスレーウサギは害獣指定されてるからとりあえずとっ捕まえればいいのよ。ただ、遠距離攻撃は俺の専門外だからな…」

「んー…じゃあ俺がやってみてもいいか?」

「別に良いが…どうするつもりだ?」

「ちょっと待ってな…」


 俺は脳内魔法陣展開の印を組もうとして、考えた。

 印を組んでから戦うのはビジュアル的にはかっこいいが、実際の戦闘の場ではそんな余裕はないかもしれない。

 俺は手のひらに流れる魔素を操作し、体内に魔法陣を作ることにした。

 魔法手型はそんなに複雑じゃない。十分再現できるはずだ。

 すぐに手応えがあった。


「よし!」


 俺はそのまま脳内に魔法陣を思い浮かべる。

 そのまま人差し指をウサギの群れに向け、魔法を発動する。

 指先から赤い光の線が何本も発射され、ウサギたちはなすすべもなく昏倒した。


「今のうちだ、回収しよう!」

「なんだ今の…赤魔法使いってのは、こんなことができるのか…」


 驚くガルゼに、俺は返す。


「いいや、これができるのは世界でも俺だけだ」

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