第30話 討伐依頼開始

 そうしてついに当日。各地から集結した兵士と冒険者アドベル傭兵ソルディア達は町の外に集合していた。

 【万視の瞳マナ・リード】で確認してみるとその総数が分かる。

 兵士が二百人。冒険者達が百名弱と言ったところだろう。

 しかし兵士の内、百五十人くらいは領兵だ。領主の直属直轄兵自体は五十程度だった。果たしてその内の何名が強者と言えるのだろうか。

 ようは数を集めただけの烏合の衆みたいなものだ。まぁそれを言っては冒険者達なんて普段一緒に活動している訳じゃないから文字通りになるんだけど。


「冒険者、傭兵諸君! 良く集まってくれた!」


 今回集まった軍――部隊かな。その隊長だろう兵士が急遽作られた壇上で声を張り上げた。壇上の横には斡旋所の人と補佐役みたい人が立っている。


「これから我々は四方向から魔獣を捜索していく。発見したならば即座に合図を出し皆でかかる! 具体的な動きに関してはそれぞれに付く斡旋所の方より説明がある! 今からは分ける人員について説明する!」


 そう言って分けられたのは、連携や意思疎通という観点での動き易さを基本に置いた組み分けだった。


 第一班は領主兵百五十。

 第二班は噂の連盟第5段階ギルドランク5連盟ギルド『レイナース』と領主兵五十。

 第三班は『リリアーノ』や『グリーグ傭兵団』など、連盟集合体ギルドパーティーが五組。

 第四班は僕達みたいな野良の集合体パーティー単独活動者ソロランナーを集めたもの。


 連携の取り易さ、と言う意味では分からないでも無いが、第二班の連盟に付けられた兵士は予備と雑用。第四班なんて数合わせにしか見えない。実力はそこそこにある面子も居るのだろうけれど、これでは本当の意味での連携などはまず取れない。役割としては捜索が主と言ったところだろう。

 纏め役リーダーは斡旋所の人の手腕に期待するしかないだろう。


 探索は左から第三班、第一班、第二班、第四班という並びだった。左右端のどちらかで見つけたら実際に討伐する担当である第一班と第二班がいつでも駆けつけられるように、と言うことだろう。


 もし発見した場合はすぐさま斡旋所の魔術士カラーズに報告する。そうすると魔術士が【染光球アンセル】と【炸裂球メーネ】と言う魔術を空に打ち上げるらしい。【染光球】は望んだ色に染まった、強い光を発する魔力球。【炸裂球】はかなり遠くまで届く程の爆音を発する魔力球らしい。

 【光よ在れライト・レイズ】の応用であり、戦場では良く使われる魔術らしい。良いことを聞いた。


 さてでは出発、と思ったら、どうやら指揮をするのは斡旋所の人では無いらしい。


「今回この班の指揮を執らせてもらう、集合体『ドラリアル』のリーデンだ。冒険者段階アドベルランクは5だ。これは斡旋所からの指名なのでどうか従って欲しい」


 冒険者第5段階と来たか。これは本物だ。有名なのか誰も何も言わない。


「ありゃ今回、わざわざ王都の方から呼んだんだ。『ドラリアル』つったら集合体単位じゃあかなり有名だぞ」

「ねぇ、今回ってそんなにやばい依頼だっけ?」

「いや、やばいか分からねぇからこその保険だな。何せ魔獣の詳細が殆ど分からねぇんだからよ」


 今回の討伐対象、『クレイウッド』なんて名づけられたそいつは、身長は十メートルを優に超え、幅は大きな宿くらいはあるとか。人型をしていて、分かり易く言えば埴輪はにわのようだと言う。

 丸く太い胴体と腕。足は木の根のような形をしており、頭上には木の枝葉がかぶさるように生えているという。ああ、だから『木で出来た埴輪クレイウッド』か。


 調査隊はそいつに瞬く間にやられたと言う訳だ。

 聞けば振りかぶられた腕の先から急激に成長した木の幹のような手が生えて、それで叩きつけられただけで勝負が付いたとのこと。

 それだけで十分脅威ではあるけれど、逆に言えばそれだけしか分かっていないことに問題がある。何せそれ以外の攻撃方法が不明なままなのだから。


 多分物理攻撃は足を削るくらいしか出来ないだろうから、今回は魔術士主体の討伐になるだろう。木の魔獣は極端に火に弱いと言うから、ばんばん火属性魔術フレイム・カラーを使って貰おう。


「基本的には集合体単位で固まり、二列を作って一定の距離を空けて進んで行くことにする。単独活動者はすまないが単独者ソロ同士で複数人集まるか、近くの集合体に入れさせて貰ってくれ。距離を空けたまま移動して周囲を警戒だ。作戦予定日数は三日。それ以内に見つからなければ一度帰還する。何か質問はあるか?」


 誰も何も言わない。


「無いな? では出発する!」


 進み始めたリーデンに付いていくように、次々と進み始める。冒険者と言うものは凄いもので、普段孤高を貫く、あるいは貫かなければならない単独活動者ですら自然と固まり始めている。コミュニケーション能力の無さとかは依頼の前には関係無いらしい。

 そういえばニールも初めての時から偉く親近感ある態度を取っていたけれど、そう言うものなのかも知れないな。


「俺達はそのままみたいだな」

「ああ、もう他は良い感じで固まってんな。俺達も進みながら周囲とは徐々に距離をとっていこう」

「聞いてはいたけど、三日もこの集団って大丈夫なのかな?」

「早く見つかりゃ一日さ」

「捜索だけで一日仕事。良いね。是非魔獣には襲って来て欲しい」

「まぁどうせ会うなら早めが良いわな。俺としては是非第三班の方に現れて欲しい。なぁに応援に向かう頃には倒してくれてるさ」

「ニールって、良い性格してるよな」

「お前には言われたくないって気持ちで一杯だわ」


 何故だ。僕は至って普通の性格をしているのに。感性は一般人とは違うと言う自覚はあるけど。


 そんな感じで周囲を確認しながら歩いて行く。僕達は左右二列の左側の丁度真ん中辺りを歩いている。前後の距離は大体百メートル程。左右で大体五組ずつ別れているので、先頭から後尾までの感覚は大体四百メートル程だ。ちなみに左右の感覚は大体二百メートルくらいになる。


 聞いている話では相当な巨体なのだから、あまり分散しても意味は無いようにも思う。

 それに正直に言えば、僕は【万視の瞳マナ・リード】を凡そ五キロくらいの範囲に広げているので、まず見落とすことは無い。多分他の面々だって、何かしらの手段を使っているだろう。


「おいジャス。ぼんやりしすぎるとリーデンリーダーにどやされんぞ」

「大丈夫、ちゃんと見てるから」


 空を眺めている僕に、ニールが呆れた風に指摘してくる。

 疑うような目を向けてくるので、ニールの前方を指差してやる。


「今から二十五歩目。足元に十センチくらいの石が落ちてるよ」

「あん?」


 足元はちょっとした草原になっているので、そんなものは近づかなければ決して分からない。ニールはホントかよと言いながら二十五歩を歩きしゃがみ、僕が言った通りの石を拾い上げた。

 マジかよ。そんな感じの視線を送ってくる。


「言ったろ。ちゃんと見てるって」

「おう……」


 それ以降、ニールが何か言ってくることは無かった。リーデンとやらに何か言われたら同じことをしてやろう。


 しかしながら僕が何を言われることも無く、また何かを発見することも無く、夜を迎えた。

 野営は各自の判断に任せるが、一人は必ず見張りを付けるようにとのこと。

 まぁ十組いるので、一人付けるだけで確かに十分だろう。


「しかし、何も見当たらねぇな。まだ初日とは言え、本当に居るのかよ」

「確かにな。あれだけ緊急招集をかけた割にはのんびりし過ぎてる」


 ニールとガガールが腕を組んで唸っている。その左右隣では女性陣二人が炎を静かに見ていた。


「逆に言えば。何も見当たらないのが良くないのかも」


 ぽつりと呟いたイリールに、視線が集まる。


「そりゃどう言うこったよ」

「おかしいじゃない。ここはそんな頻繁に魔獣の駆除がされている訳じゃない筈よ。依頼だってそもそも少ないんだし。じゃあどうして魔獣が一匹も襲って来ないの?」


 言われてみれば、と言う風に皆が黙った。


「単純に考えたら、より強大で凶暴な魔獣が要るから、だな」

「そうね」


 ガガールとシリルが重たい口調で頷いた。

 暫く四人で推論を述べていくも、どれもあってもおかしく無い、と言う内容だった。


「ジャス、お前はどう思う?」


 話題を振られてもな、と言う気持ちでいっぱいだ。


「最初にニールが言ったようにまだ初日だからね。ただイリールが言ったように、魔獣が居ない理由がそいつなら、第四班が担当しているここだけが居ないのか、全体の班の担当領域にも居ないのか、それで考えは変わるんじゃない?」


 そう、もしもここだけが居ないのであれば。


「そうじゃないんだったら。四つの班がある中で一番危険なのはここってことになるよね」


 僕の言葉に、全員が黙った。

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