第五百二十三話 疼くカップリング魂
「次にオスカー。お前はカインとは乳兄弟だったな。カインはお前には何の隠し事もしないと聞いている。本当の兄弟のように仲の良い関係なのだと。宰相という立場は、人々の矢面に立ち全ての意見に耳を貸さなければならない重要な仕事だ。カインがその責務に潰れそうになった時は、どうか今までの様にカインを助けてやってくれ」
どんどんやつれていくロビンを見ていると、ルカはいつも申し訳ない気持ちで一杯になる。もしかしたらカインもロビンのようにやつれる事もあるかもしれないが、オスカーが居れば大丈夫だろう。
ルカはチラリと次のメンバー、キリを見た。そして小さなため息を落とす。
「最後にキリ。お前の話は色々とルイスから聞いているぞ。何と言えばいいか、ノアとアリスにしてこの従者あり、と言うしかないな。バセット家の従者で居るという事は、さぞかし苦労も多いだろう。ノアは優秀が故に手を焼くだろうし、アリスに関しては言わずもがなだ。今更この二人の事を私から頼む事も無い。そんな私から一つだけお前にお願いをしたい。どうか、近々そちらに行くホープキンスを助けてやってくれ。何せホープキンスは由緒正しい伯爵家出身だ。きっとバセット領では色々戸惑うだろう。その時は、彼を助けてやってほしい」
「分かりました。早くホープキンスさんが慣れるよう、尽力します」
淡々と言って勲章を受け取ったキリに、ルカは引きつって慌てて言い直した。
「あ、いや! あまりしごいてやってくれるなよ? ああ見えてあいつ、もういい歳なんだ」
「バセット領では年齢をあまり考慮されません。なので、それはお約束出来ません」
「……そうか……ハンナに頼むか……」
きっぱりと言い切ったキリにルカは部屋の入り口で青ざめているホープキンスを見て苦笑いを浮かべながら言った。
「これで個人への勲章の授与を終了する」
ルカの声に、もう一度全員で頭を下げて一人ずつ部屋を退出する。この後は団体への勲章の授与だ。そこにはいつの間にか騎士団の一員に認定されていたアーロの姿もある。
裏切者から一転、まさかの勲章授与にアーロは未だに変な顔をしていた。
部屋から出た所でロビンが皆を見渡してニコリと笑った。
「お疲れ様でした、皆さん。では、パレードに向かいましょう」
ロビンが言うと、皆が口々に返事をする。
そしてそのままロビンについて外まで移動すると、外には鎧を付けた動物たちと、シルバーのネームプレートを下げたドンブリとスキピオ。そしてレインボードラゴンとレインボー隊が既に準備万端でまだかまだかとソワソワした様子で待っていた。レインボー隊はお揃いのチョッキと蝶ネクタイをしてちゃんと正装している所が可愛らしい。
「う、美しい! やはり美しすぎるっ!」
「ヤバイな! これは壮観すぎるだろ! 親父、写真写真!」
「いいから後にしておけ、二人とも」
はしゃぐロビンとカインを止めたのはルイスだ。団体の授与が終わったルカ達が前の馬車に乗り込んで行ったのが見えたのだ。
暗に時間が無い事を伝えたルイスに、ようやくロビンとカインが落ち着きを取り戻した。
「では、私はあちらの馬車なのでこれで失礼します」
小さな咳払いをしてそそくさと前に停まる屋根の無い馬車に乗り込んだロビン。
「さあ、では俺達も乗ろう!」
「ええ、そうね」
ルイスとキャロラインの言葉に従って全員が馬車に乗り込むと、ゆっくりと馬車が動き出す。その後から動物達がついてきて、空にはドラゴン達が旋回しながら優雅に羽を羽ばたかせている。最後にあのお馴染の馬車に乗ったチャップマン商会が少し遅れてやってきた。
「ダニエルはこちらに乗らなくて良かったんですか?」
シャルルの問いにオリバーがコクリと頷いた。
「一応誘ったんすけど、エマがあっちに居るから、俺はいいって言われたんすよ」
「アーロさんでさえこっちに乗ってんのにね」
「俺でさえ、とはどういう事だ、リー君」
「あんたまで僕をリー君って呼ぶの⁉ もしかして僕の本名、皆知らないんじゃないの⁉」
ここまであだ名で呼ばれ続けると、流石のリアンも不安になってくる。
「そんな事ある訳ないじゃない、えっと……」
ノアが言うと、リアンが眉を吊り上げる。
「うそうそ! リアンでしょ? 知ってるって」
「そうすよ、リー君。リー君なんて、まだ頭文字取ってもらってんだからいいじゃないっすか。それに比べて俺は……」
「まぁ確かに、あんたに比べりゃ僕なんて全然マシだよね。ごめん、モブ」
「いや、この流れは普通名前呼ぶっすよね⁉」
「ははは! お前達は相変わらずだな!」
ルイスの言葉に皆笑った。
ようやくこれから未来が始まるのだ。
本当の、未来が。
城門が開き、ルカ達が乗った馬車が城を出た。それと同時に拍手と歓声が聞こえてくる。
続いてアリス達の乗った馬車が城を出ると、あちこちから小さな花が降って来た。ふと上を見ると、そこには小さな妖精達が沢山集まってきて花を降らしてくれている。花のシャワーを通り抜けると、さっきよりも大きな歓声が聞こえてきた。
「すご……」
馬車の上から見ていても分かる。一体王都にどれだけの人が集まっているのかが。
いや、人だけではない。羽の無い妖精達も、明るい顔をして沢山集まって来てくれていた。
「フィル、感動してる! 皆、ちゃんと笑ってる!」
「ああ、そうだね。皆ちゃんと笑ってる。フィルやマーガレットが頑張ってくれたからだな。ありがとう、妖精達との縁を繋いでくれて」
カインがフィルマメントの頭を撫でながら言うと、オスカーも隣で頷いて涙を零すマーガレットにそっとハンカチを差し出した。
「マーガレットさん、泣かないでください。ほら笑って手を振りましょう。きっと皆あなた達の笑顔も見たいと思います」
「! はい、オスカーさん!」
オスカーの言葉にフィルマメントとマーガレットが妖精達に手を振ると、妖精達は涙を浮かべながら手を振り返してくれた。彼らはもう妖精界では暮らせない。
けれど、そんな事はまるで何てことないかのような顔をしてこのパレードに駆けつけてくれたのだ。
「リー君、凄いね!」
「うん。あ、ライラ、ほら、あの子教科書持ってるよ!」
「ほんとだわ!」
ライラは嬉しくなって、教科書を振っている子供達に手を振った。すると、子供達から、ありがとー! と声が返ってくる。
それを聞いて、ライラは初めて自分のしてきた事を実感した。
最初はアリスを助ける為だった。それがこんな風に子供達にお礼を言われるような事になるなんて、あの時は少しも想像していなくて思わず涙ぐむ。
「言ったでしょ? ライラは凄い事をしたんだって。本当のライラは凄く強くて、すっごく頑固でやたら勘が良くてそれから……可愛いん……だよ」
そう言ってそっぽを向いて耳まで真っ赤にしたリアンは、無言でライラに手を差し出した。
そんなリアンの手をライラが掴んでリアンの耳元にそっと口を寄せて囁く。
「リー君もちっちゃい頃から何も変わらない。ずっと、私のヒーローなんだよ」
「!」
それだけ言って、ライラも頬を染めた。
「お嬢様、見ちゃいけません」
「えー! へへへ、カップリング厨が疼くなぁ! で、キリは? キリはミアさんに何か言わないの?」
「俺ですか? 俺はもう言いましたから。ああ、でもはっきりとは言ってませんでした。ミアさん」
突然のキリの呼びかけに、手を振っていたミアがふとこちらを向いた。そんなミアをキリはじっと見つめて真顔で言う。
「ミアさん、お嬢様が卒業して、俺がバセット領に戻ったら、その時は俺と結婚してもらえますか?」
突然のキリの発言に、ミアも焚きつけたアリスもノアもルイス達でさえもギョッとした顔をしてキリを見た。
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