第五百十四話 それぞれの場所へ……

「お前、それであの時アメリアから装飾品全部取ったのか! 自死しないようにとか言ってたくせに!」

「そうだよ。もちろん自死防止もあるけど、僕をレヴィウスの王子だと証明したのはブローチなんだ。つまり、アメリアもそれ系の物を持ってるはずだからね。まぁ、おばあちゃんがアメリアの物持ちだしたって、どのみち信用されないだろうけど、一応ね」


 ノアの言葉に、ようやくルカ達は納得したように頷いた。


 ノアの言う事が本当であれば、アメリアもエミリーも今頃すっかり年を取っていて、自らかけた契約のせいでこちらに来る事も叶わず、おまけに妖精とも繋がりを持てない。


 あれだけ美貌に執着していたアメリアからすれば、何よりもキツイ罰になったのではないだろうか。エミリーにしても、事情を知っているのはアメリアだけなのだ。嫌だと思いながらもアメリアと共に居るしかあるまい。


「考えたな。確かにただ処刑するだけでは腹の虫が治まらんが、それがあの二人には一番酷かもしれんな。さて、我々も撤収するか。捕まえた兵士達の処分も決めなくては。それでは妖精王、我々は先に失礼します。今回の礼はまた、後程伺います」

「うむ。急がずとも良いぞ! どうせ我はしばらく婿殿の所に厄介になる故!」

「そうですか、分かりました。では、何か珍しい菓子を持ってご挨拶に行きます」

「ああ! そうしてくれ!」


 嬉しそうに笑った妖精王に頭を下げて、ルカは馬車に乗り込む前に一瞬ルイスを見て軽く頷き、馬車の中に消えてしまった。


「それでは皆さん、褒賞などの話はまた後日。カイン、後は頼みます」

「分かった。あ、その前に俺、兄貴にも連絡しなきゃ。武器作るのに鉱夫達と一緒に石削りだしてくれたみたいだし。あと、動物たちの鎧、あれも兄貴だよね?」


 ルードは今回はここには参加しなかった。彼は廃嫡された身で、今や一般人だからだ。


 けれど、やはりこの戦争には強い思い入れがあったようで、自ら武器作りの為にあちこち走りまわってくれていた。カインに黙って動物たちの鎧まで作っていたのだから驚く。


 普段あまり表に感情は出さないルードだが、流石に深夜に出陣する事が決まると、涙を浮かべてロビンとカインを交互に抱きしめて、必ず戻れ、と強く念を押されてしまった。


「それは俺から言っておく。お前はここを頼んだぞ」


 カインの言葉にロビンも出掛けのルードを思い出したのか、苦笑いを浮かべる。


「分かった。じゃ、俺達は後片付けするか!」

「そうね。アリスもまだ寝ているし、お世話になった妖精達全員にまだお礼も言えていないわ」

「キャロライン、私達からも礼を伝えておいてくれ。問題が片付いたら我々も改めて行くが、後は任せたぞ」


 ヘンリーの言葉にキャロラインは深く頷いた。そんなキャロラインを見てヘンリーは誇らしげに頷き、ルカとロビンの待つ馬車に乗り込んでいく。


 馬車は全員が乗った事を確認すると、御者も居ないのにスルスルと動き出した。そしてここに来た時と同じように、フィルマメントの作ったフェアリーサークルの中に消えてしまった。


 

「ルイス王子~! キャロライン様~! 僕達もそろそろ戻ります!」


 ひとしきり挨拶を終えたレスターが言うと、ルイスとキャロラインは寂し気に視線を伏せた。二人にこんな顔をされるのは、嬉しいような恥ずかしいようなレスターである。


「そうか……もう戻るのか」

「はい! 今日はこれから新しく出来た乾麺工場を父様と母様と一緒に視察に行くんです」

「ダメよ! 今日はちゃんと休まないと、体を壊してしまうわ!」

「そうだぞ! お前も戦ったんだ! もちろん、皆もだぞ!」


 キャロラインとルイスが言うと、レスターはおろか水の妖精もエントマハンター達も皆して首を横に振る。


「俺達は弓を撃っていただけだし、ロトなんて指示出してただけだ。問題ない」

「それに、アレックスから新しい薬品の相談もきてるんだ!」


 カライスと仕事を放りだして駆けつけてきてくれたエントマハンターが言うと、他のエントマハンター達も仕事を思い出したかのように慌てだす。


「そうだった! 俺達仕事放り出してきちまったんだ! 早く戻らないとアレックスのチームが困ってるぞ!」

「ルウも新しい川を作る準備がある! 父様と母様に森に小川を作ってくれと頼まれている!」

「お前はまだ嫁いでないだろ! ロンドのおっちゃんとルーシーが厚意でそう呼ばせてくれてんだからな!」

「うるさい! チビロトめ! ルウは皆に好かれてる!」

「それは俺もだ! このバブルウ!」


 いつもの様に言い合いを始めてしまったルウとロトを見てカライスは大きなため息を落とした。


「……その発想が俺は怖い」  

「あはは! 大丈夫、父様も母様も領地の皆も君達の事大好きだよ! そんな訳なんでルイス様、キャロライン様、僕達は戻ります!」

「あ、ああ。また近々落ち着いたら連絡する。気をつけてな! ありがとう、皆」

「本当に、力を貸してくれてありがとう。また近いうち遊びに行くわね」

「はい! さ、ジールさん達も行こ! 人間界を案内します。お土産一杯持って帰ってください」


 レスターが言うと、すっかり小さくなった水の妖精達がまるで少女のように喜びだした。


 口々にスマホ買うー! だとか、焼き菓子持って帰るー、とか言っているのを見ると、妖精も人間も変わらない。レスターはもう本当に妖精達の友人なのだろう。


 そんな光景を見て、相変わらずルイスとキャロラインは涙を拭ってフェアリーサークルに消えて行くレスター達を見送った。

 


「エマ! ドロシー、マリーにフランも! 迎えに来てくれたのか!」


 全ての動物たちがバセット領に戻り、戦いに参加してくれた戦士妖精も無事に戻ったのを確認したダニエルの目の前に、突然馴染のチャップマン商会の馬車が現れた。


「ダニエル! 無事⁉ どこも怪我してない? 皆は!?」


 エマはダニエルを見つけるなり馬車から駆け降りて来てダニエルの体のあちこちを触って怪我がないか確認している。


「大丈夫だ。ケーファーもコキシネルも無事だぞ。もちろん、他の戦士妖精達も動物たちもな」

「そっか……良かった!」


 それを聞いてエマはホッとしたように微笑んで崖下を見下ろして息を飲んだ。そこには、綺麗な布の上に寝かされたアリスが居て、そんなアリスの上にこんもりと花が積もっている。そこにさらにドラゴン達が花を積み手を合わせているではないか!


 エマ達はそんな光景を見て青ざめた。まさか……アリスが犠牲になったのか?


 そんな事を考えながら無言でダニエルを見上げると、ダニエルは苦笑いを浮かべて言った。


「さっきから聞こえるこの地鳴りみたいな音、何だと思う?」

「は? いや、それどころじゃないでしょ⁉ アリス……死んじゃった……の?」


 嫌だ! そんなの嫌だ! 付き合いはさほど長くはないかもしれないが、アリスには本当に色々お世話になったし、まだ何のお礼も出来ていない。


「私、生き返らせる! 魔法、使うから!」


 誰に止められても、アリスは絶対に生き返らせる! 意気込んだドロシーにマリーとフランも真顔で頷いたのだが、ダニエルとケーファーとコキシネルがそれを止めた。


「大丈夫ダ。この地鳴りはアリスダ」

「?」

「ケーファー、主語がなイ。これ、アリスのお腹の音だヨ。アリス、エネルギー切れで寝てるだケ。あれは妖精達の感謝の儀式。死んでなイ」

「えっ⁉」


 それを聞いてチャップマン商会の面々は全員何とも言えない顔をしている。


「俺も最初見た時焦ったんだけど、ケーファーとコキシネルに聞いてさ。ビックリするよな? でも、元々妖精達の習慣だったらしいぞ。感謝の印に花を渡すんだってさ。で、たまたまアリスは寝てるから、ああなってるだけなんだってさ」

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