第四百六十七話 深夜の作戦会議
最終決戦が始まるまでにアリスは流行病で亡くなったとシャルルは言っていた。それはつまり、シナリオの強制力よりも先にキャラクターの強制力が働いてしまったという事なのだろう。
それを説明すると、リアンとユーゴは腕を組んで頷いた。そこに仕事を終えたであろう、オスカーとルーイ、そしてトーマスがやってきた。
「遅れてすみません。カインはルイス様とこれから会議に出席するので、今のうちにやってきました!」
オスカーが言うと、トーマスとルーイも同じように頷く。
「じゃ、会議が終わるまでの時間しか無いって事だね。リー君が全部まとめてくれるから、集まれない人にはメッセージを送るようにしとこうか」
「何で僕ぅ⁉」
「一番まとめるのが上手いからだよ。余計な事書かないでしょ? リー君は」
「……もう、仕方ないなぁ!」
まんざらでもないリアンはスマホを取り出すと、今さっき話した事をまとめだす。
ノアは到着したばかりの三人に今話していた事を簡単に説明してから続きを話し出した。
「で、アリスの誕生日、これはシエラさんと同じ日じゃない? この日にパーティーか何かをするって事で集まって、そこでシエラさんを殺そうかと思って」
「ですが、それで果たして本当にシエラさんの死亡フラグは折れるのでしょうか? 死ぬ振りで超えられるような強制力なら、大した事が無さすぎませんか?」
「それは言えてるよねぇ。それでいいんなら、アリスちゃんにだって死んだふりしてもらえば済む話なんだしさぁ」
トーマスの言葉にユーゴが腕を組んで言う。そんな二人にノアは言った。
「僕ね、思うんだけど、ゲームの上で死ぬってどういう事だと思う?」
「……どういう、とは?」
「つまり、ゲーム外に出てしまえば、それは死ぬって事なんじゃないのかな?」
「……ですが! それをしてしまったら、キャラクターであるシエラさんは消えてしまうのでは⁉」
「いや、大丈夫なんじゃないかな」
「なんでそんな事分かんの?」
「だって、アーロさんとキャスパーが自由に出入りしてるんだよ? あの人達は設定はないけど、元々こちらの人間だよ」
「!」
ノアの言葉に仲間たちは目を見開いた。言われてみればそうだ。あの二人は自由にこちらとあちらを行き来している。
「でもシエラさんはキャラクター設定されてるんだよ⁉」
「そうだけどモブだよ。あ、オリバーの事じゃなくて本物のモブね。設定って言っても、シエラさんについてるのは十八で死ぬかもしれないって言う設定だけ。つまり、アーロさん達と何も変わらないんだよ。メインキャラクターが外に出れば、何か問題が起こるかもしれないけどね」
『その通りですよ。このゲームは少し特殊でね、この島と紐づけられているのはメインキャラクターだけなんですよ。つまり、モブはこの島から出たとしても、大してゲームに影響は無いんです。島の人口が増減するだけ。これだけ言えば、分かるでしょう?』
突然割り込んできた偽シャルルの言葉を聞いて、皆が何かに気付いたように頷いた。
「つまり何か。シエラ嬢が外に出てこの島の人口を減らせば、その時点で彼女は死亡した扱いになるという事か」
『ええ。この島から出た時点でゲームの強制力はその人に効かなくなります。つまり、シエラには最終決戦が終わり、シャルルの強制終了が終わるまで外に出ていてもらえばいいんですよ。ただ、先ほども言ったようにメインのアリスはその手段は取れません。彼女の強制力はこの島自体と連動されてしまっています。彼女がこの島を出た時点で、ゲームは破綻してしまう。またループの始まりです』
「なるほどぉ……何でそんなややこしい事しちゃったんだろうねぇ」
「う~ん……ごめんなさい」
素直に頭を下げたノアにユーゴが苦笑いを浮かべた。冗談だよ、とノアの肩を叩いて来る。
「えっと、まとめるとこういう事ですか? 最終決戦に必要な人数はヒロインと攻略対象を全員合わせた十五人。この人数でシャルル様を倒さなければならないと、そういう事ですか?」
『そういう事ですね。誰か一人でも欠けた時点でゲームは即終了です』
「……なるほど……そこらへんはシビアですね」
トーマスがぽつりと言うと、仲間たちが頷く。
「つまり、勝つしかないって事か。後は誰が最終決戦に行くかって事だね。ここに居るメンバーはもちろん強制参加だけど、ミアさんとライラちゃんは連れて行けないよ。エマちゃんとドロシーも」
「当然でしょ! ライラにそんな事絶対させないからね!」
「分かってるよ。むしろ居ても邪魔になっちゃうでしょ? でもそれだと二人足りないんだよね。妥当なのは、アーロさんとレスター王子辺りかな」
「レスター王子は元々攻略対象ですし、いいんじゃないでしょうか。それに、アーロについても事情を話せば参加してくれるでしょう」
ノアの言葉にトーマスが言うと、皆が頷く。何ならこの最終決戦を終わらせなければキャスパーに復讐が出来ないのだ。喜んで手を貸してくれるだろう。
「すみません! お待たせしてしまいました!」
「私も、ようやくシャルが解放してくれて! すみません、遅くなってしまって!」
そこへ、ミアとシエラが揃ってやってきた。ふと時計を見ると、時間は既に夜である。
「全然大丈夫だよ、二人とも。ところシエラさん」
「はい?」
「アリスと君の誕生日に、計画を実行する事になったからよろしくね」
「はい! えっ⁉」
とてもいい返事を返したものの、突然のノアの言葉にシエラは思わず周りを見渡した。皆の顔は真剣そのものである。
「あんたさ、ちゃんと説明してやんないと分かんないでしょ!」
「ははは、リー君に怒られた!」
何故か嬉しそうに笑うノアに、ユーゴが呆れたような顔をしている。
リアンに叱られた事でノアが二人に事情を説明すると、二人は神妙な顔をして頷きお互いの顔を見合わせている。
「お嬢様は戦いに参加しなければなりませんか?」
不安そうに尋ねたミアの手をシエラが握ってくれた。何だかこうやっていると、アリスに手を掴まれているようで安心する。
「そうだね。キャロラインの魔法は外したくないかな。でも、前線には立たせないよ。ルイスもカインもレスター王子もモブも。あくまでメインで戦うのは僕達だよ」
そう言って皆を見渡すと、皆も覚悟を決めたように頷く。
メインキャラクターは何としてでも守らなければならない。もしもここで失敗してループが始まってしまえば、あっという間にレヴィウスにルーデリアが支配されてしまうだろうから。
「そういう意味ではあんまりアリスも前線には行かせたくないけど、まぁそれは無理だろうからね。ていうか、闇落ちしたシャルルと互角に張り合えるの、多分アリスだけでしょ」
「それは言えてるよね。闇落ちなんちゃって妖精がどんな風になるのか分かんないけど、多分、あいつには敵わないんじゃないかなぁ……」
そう言って遠い目をするリアンに、皆が頷く中、シエラだけが青ざめて言った。
「ア、アリスにシャルを殺してしまわないよう言っておいてくださいね⁉ 絶対ですよ⁉」
「分かってるよ。アメリア戦の時にシャルルの力は必須だから。あくまでもこれはお芝居だよ」
だから誰も本気など出そうとは思ってなど居ないが、どうなるかは分からない。
「じゃ、作戦立てようか」
「そうだな。とはいえ、どうやってシエラ嬢を裏切者に見せかけるんだ?」
「それはね、もう考えてあるよ。アーロさんが捕まった時点でね、僕は手紙を書いたんだ」
そう言ってノアはボロボロの手紙を胸ポケットから取り出して机の上に置いた。それを見てリアンがギョっとする。
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