第四百五十八話 モジモジするアリス
「無事に終わると思う?」
「思います。と言うか、終わらせてもらわなければ、困ります」
何が何でもキリはミアと結婚する気である。もしもここでまたループなど繰り返されたら堪らないし、何よりもチマチマと作り続けているアレが無駄になる事だけは何が何でも避けたい。
真顔で頷いたキリを見て、ノアも真剣な顔をして頷いた。そしてポツリと言う。
「キリ、詳しくは言えないけど、僕は絶対に君達だけは裏切らないからね。この先僕が何をしたとしても、それだけは絶対に覚えておいて」
「……分かりました。それもお嬢様の為、ですか?」
「いや、これは皆の為だよ。僕はずっと、多分転生前から凄く自分勝手に生きて来たと思うんだ。でも、今回ばっかりは……皆の為に生きたい」
視線を伏せてそんな事を言うノアを見て、キリはゆっくりと頷いた。そして考える。きっと、ノアがこんな事を言うという事は、これからきっと何かノアがしでかすのだろう。それは恐らく自分達を裏切るような事なのだ。
でも、一見裏切って見えたとしても、ノアは裏切ってる訳じゃない。それを覚えておけという事か。まるでバセット家にやってきた時のようだと思いながら、キリはもう一度頷く。
「約束だよ? アリスをお願いね。ていうか、暴走しそうになったら止めてね」
「……頑張ります」
それこそ無理では。そうは思うが、とりあえずキリは頷いておいた。
その頃アリスはグランに居た。突然現れたアリスにグランの人達はビックリしていたが、それよりもあの時こき使われた事を思い出したのか、誰もアリスに近寄って来ようとはしなかった。
そんな中、アリスに気付いて声をかけてくれたのはあのコロンボンの手帳を買ったんだと喜んでいた妖精だ。彼は今、ミランダの酒場で働いているらしい。
「誰かと思えばアリオ! こんな所で突っ立って何してるの?」
「今日はアリスでいいよ! あのね、リズさんを探してるんだけど、今ってお仕事中かな?」
「リズ? ああ、エリザベスか! どうだろう……ちょっと家に行ってみる?」
「うん!」
そう言って妖精に案内されたのは、グランの端っこの方だった。少しだけ小高い丘になっていて、裏には一面の小麦畑が広がっている。家のすぐ横には小川が流れていて、覗き込むと小さなエビが泳いでいた。
「ここだよ、アリオ」
「アリスだってば!」
「はは! 何かしっくりきちゃって。じゃ、僕は仕事に行くよ。今から稼ぎ時だからね!」
「もう! いいよ、アリオで。案内してくれてありがとね! またね!」
お互い元気に手を振って別れると、アリスは何のためらいもなくエリザベスの家のドアを叩いた。
すると、しばらくして手を真っ黒にしたエリザベスが現れて、アリスを見るなりギョッとした顔をして一歩下がる。
「ど、ど、ど、どうしてここに⁉」
「あのねー、リズさんにねー、会って欲しい人が居るんだぁ!」
「私に会って欲しい人……? 誰かしら」
「誰だと思う? きっとビックリするよ!」
アリスはそう言ってドンがよくやるように手と足をモジモジとすり合わせた。ノアはここに来る前、アリスに言った。
『アーロは、もしかしたらリズさんを好きかもしれないんだよ。今回の一連の事は、もしかしたらアーロがリズさんの為にしていた可能性があるのかも』
と言っていた。それを聞いたらアリスはカップリング厨の名に懸けておせっかいを焼かない訳にはいかない。
エリザベスは大好きな旦那さんに先立たれて、今もノア(ジョー)と暮らしているが、もしもこの先ノア(ジョー)が誰かと結婚したら、エリザベスは一人ぼっちになってしまうかもしれないのだ。エリザベスはまだ若い。この先ずっと一人だなんて、そんなのは寂しすぎる。
モジモジするアリスにエリザベスはしばらく首を傾げていたが、そこにノア(ジョー)が戻って来た。
「あれ? アリス? どうしたの、こんなとこで」
「ノア、お帰りなさい」
「ただいま、母さん。お土産買ってきたよ。ていうか、中に入ってもらえば? 昼食にしようよ」
「お昼ごはん⁉ わぁい!」
誰も誘ってなど居ないのに勝手に喜びだしたアリスに、エリザベスとノア(ジョー)は互いに顔を見合わせて笑う。
「そうね。ちょうどパンが焼けた所だったの。アリスちゃんもどうぞ」
「おっじゃまっしま~す!」
「アリスはいっつも元気だな」
大声で挨拶をして家の中に入って行くアリスの後ろからノア(ジョー)が言うと、それを聞いてエリザベスも泣きそうな顔をしながら頷いた。
「ほんとね。見てるとこっちまで元気になるわ」
エリザベスはうっすら浮かんだ涙を誰にもバレないようにそっと拭くと、昼食の準備に取り掛かった。
昼食はノア(ジョー)がミランダの店で買ってきたソーセージとエリザベスが焼いたパン。それに目玉焼きと簡単なサラダだった。とてもありふれた食卓だが、それでもアリスは目を輝かせる。
一心不乱に机の上に並んだ豪華とは言えない食事を端から綺麗に平らげていくアリスに二人は目を丸くしながら食後のお茶を飲みながら見ていたが、ふとエリザベスが思い出したように言った。
「そう言えばアリスちゃん、私に会わせたい人って?」
エリザベスの言葉にアリスはハッとして口に入っていたパンを飲み込んで、慌てて話し出した。
どうやら本気でここに来た理由を忘れていたらしい。娘とは言え、色々不安なエリザベスである。
「そうだったそうだった! あのね、リズさんアーロさんって覚えてる?」
「アーロ? もちろん。同級生よ。とてもお世話になったの。忘れる訳ないわ」
「そっか! そのアーロさんがね、捕まっちゃったんだ! だからリズさんに会って欲しいなって思って」
アリスの言葉にエリザベスはギョッとしてアリスを二度見した。そんな中、何の話かさっぱり分からないノア(ジョー)が、エリザベスに問う。
「母さん、誰? アーロさんって。俺知ってる人?」
「一度だけ、あなたがまだ赤ちゃんの時に抱っこしに来てくれたわ。でも、小さすぎてあなたは何も覚えてないんじゃないかしら……そんな……アーロが……捕まった? 何故……」
「えっとね、リズさん達は女王の噂知ってる?」
「知ってるわ。ミランダの店でもたまにお客さん達が話してるわ。まさか、それと関係があるの⁉ あの人、何したの⁉」
思わず立ち上がって叫んだエリザベスに、アリスとノア(ジョー)が慌ててエリザベスを宥める。
「違う違う! いや、違わないんだけど、アーロさんは自首してきたんだよ。女王の手下の振りをして、女王の悪事を暴こうとしてたんだって。でも、結果的には向こう側に居たのは事実だからって捕まってるの」
今朝、キャロラインから届いたメッセージにはそう書かれていた。
アーロは朝早くにわざわざ城の門番の所までやってきて自首をしてきた、と。そのまますぐに拘束され、ルカとロビンに直接尋問をされたらしい。
アーロは女王の正体やその周りに居る仲間たちの事、そして外に居る兵士の事や捕らえられている妖精達の事を淡々と話したらしい。何よりも、シュタの地下に入る為の呪文まで話したそうで、流石のルカもロビンもそれ以上追及する事は出来なかったという。
アリスはキャロラインからのメッセージをエリザベスに見せた。すると、それを見てエリザベスは顔を歪める。
「どうしてこんな事……昔から、本当にあの人は……」
「母さん、このアーロって母さんの何だったの?」
あまりにもエリザベスがアーロの事を心配するからか、不審に思ったノア(ジョー)が聞くと、エリザベスはポツリポツリと話始めた。
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