第四百五十三話 諦めないアリス

「僕が転生したのが原因って事?」

『いえ、理由の一つではありますが、それだけではないですよ。あなた達も知っての通り、メインストーリーを無事に終えて、最終決戦も終わらせて、シャルルが強制終了をしたらループ脱出成功です。シャルルには、その条件が全て満たされないと強制終了が出来ないように設定されているので』

「なるほど……それで私は今まで強制終了ボタンを押すことが出来なかった、と?」

『そうです。それはあなた達がキャラクターの枠組みからどれだけ外れたとしても、それだけは絶対に揺るぎません。アリスがバセット家の娘だと言う事と同じぐらい大事なルールなんです。どれほど環境が変わろうが状況が変わろうが、そこは絶対に動かない』

「それも強制力って事か」


 腕を組んで言うルイスにこちらのシャルルが何かに納得したように頷いたが、何かを思い出したように偽シャルルに問う。


「そう言えば、あなたは何故今までのループには手出ししなかったんですか? その力をもっと早く使っていれば、女王が襲ってくる前にループを終わらせる事が出来たのでは?」

『それは無理な話です。あなたも言っていたでしょう? 私が出てくるのも今回が初めてだと。それは何故か。理由は一つです。私がまだ完成していなかったからですよ。だから今まで私は動くことが出来なかった。けれど、今回のループで事態が変わった。一部の機能が解放されたんです。彼にはもしかしたらこうなる事が分かっていたのかもしれないし、そうではないかもしれない。ただ一つ言えるのは、ループの原因は支倉乃亜が仕組んだ事で、彼はずっとこの世界を愛しているという事。ただそれだけの為に生きて来たような男だと言う事です』

「アリスではなくて?」


 キャロラインが言うと、偽シャルルは声を出して笑った。


『あはは! いや、もちろんアリスもですがそれだけではありませんよ、流石に。支倉はアリスやあなた達全員を愛していた。そして尊敬していました。その強すぎる想いが今回の事態を招いてしまったんですよ。そしてその土壌を作る為の技術が彼にはあった。それだけです』

「……よく分かんない」


 リアンが顔を顰めて言うと、ライラも隣で頷いている。


「つまり、俺達は今まで通り最終決戦に向けて準備すればいいって事っすか?」

『ええ。そして私を解放してください。私はシャルルと対の存在なので、彼には使えない攻撃魔法に特化しています。女王は恐らく三千近い兵を連れてやってきます。レヴィウスの教会の連中が次々にアメリア派に寝返ってるんです。エリスのせいで』

「師匠⁉ なんで!」

『エリスがあちこちで暴れた挙句、あちらの総本山はもう解体寸前です。そこにアメリアは大量のオピリアで洗脳を始めました。その結果、彼女の兵士は今や物凄い数ですよ』

「アメリア……めんどくさい女だな、相変わらず……」


 思わず口調をあらげたノアの言葉に偽シャルルは鼻で笑った。


『あなたは面倒な人に好かれますね、あちらでもこちらでも。本当に、そういう呪いにでもかかってるんですか?』

「……そうなの?」

『ええ。あなたの財産を狙う連中がわんさか居ますよ。ただねぇ……あなた、本当に誰も信用しないので、いつもいつも。あっちの連中はそれも知らずに自分達の首を締めてますよ、一生懸命今も』


 呆れたような偽シャルルの言葉にノアは黙り込む。


『まぁ、そこでは楽しそうで何よりですよ。あれほど面倒な人達に振り回されているのに、よりにもよって選んだのがゴリラだなんて……そんな自ら一番面倒そうな所に行かなくても良さそうなものですけどね』

「アリスは面倒じゃないよ! 全然面倒じゃない!」

『まぁ素直ではありますけどね。でも違う意味で面倒でしょ、それは』

「兄さま! コイツ、実体が出来たら殴ってもいい⁉」


 偽シャルルの呆れたような声にアリスは怒った。ていうか、何でゴリラでノアにも通じるのか! 意味が分からんし腹立たしい。


「いいよ。思う存分殴っていい。僕が許す」


 ノアの言葉にアリスは頷いて拳を握りしめた。そんなアリスを無視して偽シャルルは話し続ける。


『ダニエルの元にようやくコーネルの仕掛けた宝珠が戻りました。多分、すぐに連絡が入るはずです。それでは、私はこれで』

「え! ちょ、待って! ……もう居ない……?」


 慌てたカインが止めようとしたが、偽シャルルからの声は完全に途切れてしまった。皆は沈黙してそれぞれの顔を見合わせる。


「えっと……とりあえずノア、お疲れ」

「なに、急に」

「いや、面倒なのにばっか好かれるって大変だなって」

「まぁ、それは別に無視してれば済む話だしね。それよりも、兵士が三千は本気でヤバイよ」

「それだ! どうする? そんな兵士の数にどうやっても太刀打ちできないぞ! たとえ妖精達の力を借りたとしても、それは無理だ!」


 ノアとルイスの言葉に仲間たちは俯いた。皆拳を握りしめて悔しそうに唇を噛む。そんな仲間たちを見てアリスはダン! と机を叩いた。


「諦めない! 私は絶対諦めないよ! 何なら私が一人で千人狩ってみせる!」


 俯きかけた仲間たちにアリスが言うと、キャロラインがハッとして顔を上げた。


「……そうね。ここで私達が気持ちで負けたら、その時点で終わるわ」

「アリスの言う通りっすね。何か手があるはずなんすよ、何か」

「普通に考えれば罠だよね。古典的だけど落とし穴とか? 会場はこっちで用意出来るんだからさ」


 リアンの言葉に、それまで俯きかけていた皆が頷く。


「そうだったね。戦闘する場所はこちらで指定出来るんだからそこに罠を張る事は出来るね。アリス、ありがとう。いつも発破かけてくれて。でも一人で千人狩るのは止めてね、流石に怖いから」


 にっこり笑ってそんな事を言うノアに、アリスは安心したように抱き着いた。


「いいよ! 皆、私が居ないとダメダメだからなぁ!」


 テヘペロを披露しながらそんな事を言うアリスに、すかさずキリのげんこつが降って来た。


「はい、調子に乗らない。ですが、一理あります。お嬢様のお仕事はその底抜けなお気楽さで皆の士気を煽る事です。これからもどうかそのままで居てくださいね。そう、一生バカなままで居てください。これに知恵がついたら色々厄介なので」

「だから! いっつも一言多くない⁉ 褒めるかけなすかどっちかにしてよ! 心が忙しいよ!」


 いつも通りのアリスとキリに場が少しだけ和む。そして調子に乗るアリスに少しだけ皆がイラっとした事は内緒である。


 その時、リアンのスマホが鳴った。着信相手はダニエルだ。思わず皆が顔を見合わせると、リアンはスマホを手に取った。


「ダニエル? 久しぶりじゃん。どうしたの?」


 まるで何でもないようにスマホに出るリアンは、やはり役者に向いている。


『おお、リアン。わりーな、ちょっと急ぎでさ。あれ、アラン様の宝珠回収してきたから取りに来いよ。あと王様から全部の商会に通達が来たんだが、知ってるか?』

「通達? 何の?」

『ああ。なんか、今あちこちで変な武器持った奴がウロウロしてるって。普通の武器じゃないから応戦せずに逃げろって』

「そうなんだ。知らなかった……でも、何でそんな武器流行ってんの?」


 これがさっきルイスとカインの言っていたあちこちで頻発している住民同士のいざこざなのだろうと判断したリアンは、それ以上の情報がないかダニエルに聞いた。すると、ダニエルから意外な言葉が返ってきた。


『流行ってるってか、配られてるっぽいな。ある一定の人間達に。で、それを配ってんのが恐らくシュタだ』

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