第四百二十七話 秘密会議
「それでどうしたのさ? 僕達だけって、また何かあったんでしょ?」
草木も眠る深夜、秘密基地にはこっそりそれぞれの部屋を抜け出したキャラクター外の人達が集まっていた。
今回ここにはリアンとルーイ、ユーゴ、トーマスにオスカー、そしてミアとシエラまで居る。確認した所、シエラはキャラクターと設定されはしたものの、シエラ自身の言葉はゲーム機には反映されないと分かったのだ。あのゲーム機に反映されるのは、あくまでもゲームの主要人物達だけらしい。
「あー……いや、凄く言いにくいんだけどね、昼に僕一人だけ偽シャルルと話したって言ってたでしょ?」
「言ってたね。でも大した話してないんでしょ?」
「いや、黙ってただけ。めちゃくちゃ重要な事言われたんだ」
珍しく眉を下げたノアに、皆顔を顰めた。それまで眠そうに目を擦っていたリアンが机に乗り出してノアの顔を何か言いたげにじっと見て来る。
「ごめんってば。でも、あの場で言えなかったんだよ。ていうか、メインキャラクターには言えなかったんだ」
「なんで」
「シャルルに筒抜けになるからだよ。単刀直入に言うと、僕らが最後の敵として戦わなければならないのは、偽シャルルじゃなくて、シャルルの方らしい」
その言葉にシエラがヒュっと息を飲んだ。顔色は真っ青で、それを心配したミアがシエラの背中を撫でてやっている。
「では、そういうお芝居を今までのようにしてもらうのですか?」
トーマスが言うと、ノアは首を振った。
「それなら直接シャルルに言うよ。違うんだ、シャルルを闇落ちさせなきゃダメなんだって」
「ど、どうして⁉」
シエラが青ざめたまま身を乗りだした。
「そうしないと偽シャルルが生まれる意義が無くなるって言ってたけど……」
「生まれる……意義?」
ノアの言葉に辺りは静まり返った。
「ていうかぁ、そもそも偽シャルルは何者なのぉ?」
「そうだな、まずはそこが分からん事にはこちらも手の打ちようがないと思うのだが」
「でも今のノア様の言い方だと、シャルル様が闇落ちする事で偽シャルルは初めて生まれる事が出来るという風に聞こえるんですけど」
オスカーの言葉にノアも頷いた。
「僕もそういう意味だと思うんだ。シャルルが闇落ちして僕達と戦う。それによって偽シャルルが生まれる事になるって事なんだと思う。シエラさん、『花冠3』の最後の決戦のストーリー、分かる?」
まだ驚きを隠せないと言った感じのシエラに言うと、シエラはコクリと頷いて静かに話し出した。
「ええ、分かるわ。闇落ちしたシャルルはこの島全体を黒い霧で覆って襲ってくるの。そして、アリス達に負けて浄化されて消えてしまうの。全ての魔力を使い切って……そして、世界は平和になる、というのがメインストーリーの最後よ」
「え……悲惨じゃん……それやらなきゃいけないの? てか、そこまでして偽シャルル、生まれる必要ある?」
今のままでは駄目なのか。サラリととそんな事を言うリアンにトーマスもユーゴも頷く。
「僕もチラっとそう思ったんだけどね、今までのループみたいに女王とかが居ないならそれでも良かったと思うんだ。でも、今回はその後にさらに戦争が起こる予定なんだよね……その時に偽シャルルが居た方が、僕はいいと思うんだ」
「で、でもそれは……シャルル様を選ぶか偽シャルルを選ぶかという話になるのでは……」
震えるミアの言葉にシエラがハッとした顔をしてノアを見て来る。
「いや、話はまだあるんだよ。偽シャルルは言ったんだ。シャルルも幸せになれるよう、ストーリーを書き換えたって。だから最後ぐらいは自分に従え、って。それって多分、シャルルを倒してもシャルルは消えないって事じゃないかなって思うんだ。どうやら偽シャルルも女王との戦争に参加したいみたいだし、自分の代わりにシャルルが居なくなるのは困るんだと思う。つまり、それぐらい女王の勢力は強いって事なのかもしれない」
「待って待って! ストーリーを書き換えるって、あいつにそんな事出来んの? なんで!」
というよりも、そんな事が出来るなら何故今までやらなかったのか! リアンの問いにノアも頷いた。
「書き換える事が出来ても実行が出来ないみたいなんだよね。それをやるのがどうやら僕って事みたいなんだけど、そうしたら僕は何かを失うらしい」
「……失う? 何を」
「分からない。ただ、それをしないと偽シャルルは生まれる事が出来ないし、もちろんシャルルが幸せになるストーリーも適用されないって事なのかな、って」
考え込んだノアに、皆黙り込んだ。
「つまり、シャルル様を闇落ちさせて俺達と戦ってこちらが勝ち、偽シャルルを生まれさせてから女王との戦いに備える、とそういう事か」
「まぁ、簡単に言えばそういう事ですね。僕はだから、それまでに全てを思い出さないといけない。シャルルの幸せになるストーリーを実行する為に」
最悪でもシャルルが倒される前には何としてでも思い出さなくては。
「……それで、私達を呼んだの?」
シエラがポツリと言った。その顔は何の表情も浮かんでいない。
「そうだよ。特に君には、絶対に報せておいた方がいいと思って」
シャルルを闇落ちさせるなど簡単な事だ。シエラをどうにかすればいい。シャルルの目の前で。
ノアがそんな事を考えているとリアンは早々に気付いたのか、どんどん顔色が悪くなるシエラを横目に早口で言った。
「で、でも、そこはお芝居でいいんでしょ? 別にシエラを本気でどうこうしないよね?」
「もちろん。本気でどうこうする気ならそもそもここに呼ばない。もう一個、皆に大事な話をしておくよ。最初は黙って置こうと思ってたけど、もうこうなったらヤケだ。シエラさんもアリスも、十八になったら死ぬよ、多分」
ノアの言葉に一瞬部屋の中は水を打ったように静まり返った。そして――。
「……はぁ⁉」
「ど、どういう事なんですか⁉」
「あれは気のせいでは……?」
口々に言う仲間たちの声に、ノアは静かに首を振った。
「前に僕の家系図を見る為にお城に行った時、シャルルに聞いたんだ。最初のアリスはメインストーリーをクリアしたって。でも、その後のストーリーを進める前に、アリスは十八で流行病で亡くなった。そこからループが始まったらしいんだ」
「そ、それはどういう事ぉ? 一回目はそうかもしれないけどぉ、今回もそうとは限らないでしょぉ~?」
「偽シャルルは、オリジナルと同じであれば十八で死ぬって言ってたよね? それは、アリスには元になる人格があったって事だと思うんだ。そしてその人は十八で亡くなった。つまり、アリスというキャラクターが元のオリジナルを完全に模して出来たキャラクターであれば、やっぱり十八で亡くなる可能性が高いって事なんだと思う。それが、アリス達に課せられた設定なんじゃないのかな」
「そんな設定なんでわざわざ付けたのさ⁉ 外せばいいじゃん!」
「出来なかったんだと思うよ。よりオリジナルに近づける為には、その設定も含めてアリスを作らないといけなかったんだと思う。そうでなければ、アリスはアリスではなくなってしまうと、そう思ったのかもね」
「そんな他人事みたいに……作ったのあんたなんでしょ?」
呆れたリアンにノアは困ったように頷く。
「そうなんだよね……僕がさっさと思い出せば全ての謎が解けるのに……本当にごめん」
珍しく視線を下げたノアを見てリアンは大きなため息を落とす。
「いや、まぁ別に責めちゃいないけどさ。仕方ないじゃん、それは。でも、だとしたら十八でアリスが死ぬって言う設定だとして、それに強制力が働く可能性があるって事?」
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