第四百九話 妖精王のイメージ戦略
それを聞いた妖精王は満足げに頷き、にんまりと笑う。
「良い良い。後は年寄り達だな。こぞって頑固者が多いから、あれを動かすのは大変だぞ。フィル、何かいい案はないか?」
「あるよ! あのね、キャロに手伝って欲しいんだけど」
「私?」
「うん! 宝珠にすんごい着飾って、皆に逃げてって言って欲しい。そしたら皆、すぐ動くと思う!」
「ど、どういう事?」
戸惑ったキャロラインに、フィルマメントは胸を張って言った。
「フィルが考えた! 妖精界でもキャロは聖女! 聖女からの声明文はパパよりも効力ある!」
「……待て、フィル、それはどういう意味だ?」
「お年寄りはパパの事あんまり信用してない。でも、スマホとかラーメンとかの話は妖精界でも流行ってる! それ作ったの、キャロって事になってる。だからキャロが言ってくれたら、多分皆動く!」
「……」
フィルマメントは、フィル偉い! と喜んでいるが、妖精王はそんなフィルマメントをはっきりと睨みつけている。
そんな妖精王の肩を慰めるようにシャルルが撫でると、妖精王はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
今の妖精王はまだ若い。だからフィルマメントの言い分も分かるが、何故聖女の方が人気なのだ! そんな事を考えながらチラリとキャロラインを見ると、キャロラインは恥ずかしそうに耳まで真っ赤にして困惑顔をしている。
「……まぁ、可愛いから仕方ないな。よし、ではキャロラインよ、今すぐ宝珠を撮れ。アラン、どうせそなたはいつも持ち歩いているのだろう? すぐさま出せ」
「は、はい!」
「い、今ですか⁉」
「今だ。善は急げと言うだろう。ついでに我も映るぞ。キャロライン、我を膝に抱き上げよ」
「な、何故?」
「その方が我と聖女が仲が良いと思わせられる。ついでに可愛く見えるだろう?」
「……はあ」
「パパズルい! キャロ使ってイメージ戦略しようとしてる!」
「うるさい! 我だって人気は欲しい!」
とうとう言い合いを始めた妖精王とフィルマメントを無視してカインが言った。
「あれは置いといて、次は俺がいくよ。ノアから聞いたシュタ、やっぱり位置的に向こう側と同じ場所にあったよ。つまり、そういう意味の心臓って意味かと思う」
「世界の中心って事か、やっぱりね。それで?」
「ああ。あそこ、先導者が変わったって話したよな? あれ、やっぱり先代とは血縁でも何でも無かったみたいだ。調べたら、キャスパーの腰巾着だったアーロって奴の仕業だな。出身はルーデリアだけど、問題起こして廃嫡されてる。キャスパーとは学生時代からの付き合いがあるみたいで、こいつが手引きしてキャスパーを城から逃がしたみたいだ。で、こいつらがさ……あー……ユアンとも仲良かったみたいだ」
一瞬言い淀んでチラリとノアを見たカイン。そんなカインを見てノアは一瞬眉を顰めたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「兄さま、ユアンって誰?」
「ん? ああ、ちょっと前に処刑された極悪人だよ。なるほどね、そこと繋がってるのか」
ノアは不思議そうに首を傾げるアリスの頭を撫でて笑った。
アリスの本当の父親であるユアンは本気で悪党だった。
しかし、そこと繋がっているという事は、やっぱりキャスパーもアーロというのもろくでもないに違いない。
「アーロ……そういや、あの誘拐事件の時に、その名前を言ってる奴が居たっすね。確か、キャスパーやアーロみたいに幹部になれるとか何とか言ってたっす」
「なら、さっきの情報は間違いないな。それで、こっからは兄貴の情報なんだけど、シュタでも相当な範囲で目くらましを使われてる事が分かったよ。それが分かったのは妖精達のおかげなんだけど、下手したら領地の半分ぐらいは目くらましがかけられてる。ちょっと異常だろ?」
シュタという場所は古くから聖地と呼ばれていたらしく、人が足を踏み入れてはいけない禁足地と言われている場所があるらしい。その中心にシュタの教会があり、月に一度だけそこへ行く道が現れるという伝説があるそうだ。
けれど、それでは祈りを捧げたい人達には不便だという事で、昔の指導者がわざわざ町中に違う教会を建てたそうだ。人々はそこに毎週祈りを捧げに行くのが習慣だったのだが、指導者が代わってからというもの、指導者は月に一度も町の教会には姿を現さなくなったと嘆いているとルードは言っていた。
この話を聞いて何かおかしいと感じたルードはすぐさま妖精達に頼み目くらましの結界を調べてもらった所、禁足地一帯には広範囲で目くらましの魔法がかかっていたという。
「で、怖いのはこっからだぞ。その禁足地にある教会を妖精達に調べてもらったら、地下にデカイ空間がある事が分かったんだ。そこで何してるのかは分からなかったみたいだけど、確実に何かはしてるんだろうな」
「な、何だと⁉ それでルードはどうしたんだ⁉」
「兄貴にはどうしようも出来ないよ。でも親父に伝えたら親父はもう少し様子を見ようって。俺もそれが一番いいと思う。こっちの用意がまだ何も整ってない状態で仕掛けても、結果は見えてる」
「そうだね。こっちの準備をしっかり整えてからが一番いいだろうね。そもそもその地下で何してるのか分からないのが厄介だよ。で、そこには今も妖精達が居るんでしょ?」
「ああ。見張りの役を何人かがやってくれてるみたいだけど、俺はそれはあんまりさせたくないんだよな」
そう言ってカインは視線を伏せた。そんなカインを見て妖精王もフィルも首を傾げる。
「どうして? 妖精、見えない。気づかれない。見張りには持ってこい」
「そうかもしれないけど、何かの拍子にうっかりって事もあるだろ? 向こうはいつでも羽根を使える状態にしてる可能性もあるし、俺だってこれ以上妖精の犠牲を出したくない」
「……カイン……」
「……婿よ……」
二人は感動したようにカインにヒシっと抱き着く。カインはそんな二人を気にもせずに話を続ける。
「向こうの狙いが妖精だってはっきりしてる以上、妖精達には出来るだけシュタには近寄って欲しくないんだ」
「そうですよ! 危ない事はしない! 宰相様も言ってました!」
向こうが妖精の羽根を自在に操るのであれば、むやみにそこには近寄らない方がいい。ロビンが言ったように、命に関わるような事はしない方がいい。
何かいい案は無いか――。
アリスは腕を組んで考え込んでいたが、しばらくしてポンと手を打った。
「そうだ! レインボー隊にお願いしよう!」
「レインボー隊?」
「うん! レッド君達にアランさまの盗聴宝珠を色んな所に置いてきてもらうの!」
「なるほど、それはいいかもね。あっちはレインボー隊の存在は既に『傍受』で知ってるかもしれないけど、それがどんな姿なのかは知らないはずだし、妖精でも無いから危険でもない」
「でも万が一見つかったら?」
ノアの言葉にキャロラインが不安気に言うと、ノアはカラリと笑った。
「大丈夫。どこからどう見てもレインボー隊は小さな子供のおもちゃにしか見えないから。見つかったらすぐにその場に倒れて動かないでいてもらえばいいよ」
「……なるほど」
確かにノアの言う通りかもしれない。レインボー隊はどこからどう見ても子供のおもちゃにしか見えない。
「そうと決まれば、チャップマン商会の出番だよ、リー君」
「え? なんで?」
「シュタにレインボー隊をレンタルに行ってきて」
「それは構わないけど……ああ、そっか。町の子達が持ってたら、誰も怪しまないか」
「うん。誰かが禁足地に間違えて人形放り込んじゃった、ぐらいにしか思わないでしょ? それに、レンタルするレインボー隊には沢山制限つけたんでしょ?」
ノアの言葉にアランが頷いた。
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