第四百十話 変装
「ええ。合体は出来ません。それから、ペアリングという設定をしたレインボー隊同士でなければ情報は共有出来ないようにしました。あとは以前アリスさんが言った通りです。レインボー隊は誰かを傷つける事は出来ません。あと、危ない物にも近寄らないと設定しているので、刃物や毒物にも触れないようになっています。小さな子達のおもちゃというのが大前提ですからね。そこはしっかり規制しておきました」
アランの言葉にシャルルが感心したように頷く。
「やっぱりあなたはチートですねぇ。よくそんな複雑な数式をあの小さな頭脳に埋め込んだものです」
「ありがとうございます。ちなみに、細かい規約を決めたのは学園長ですよ。持ち主は契約時に戸籍を見せなければいけませんし、偽造が出来ないようにキリさんのようなサーチがかかった宝珠に触れなければなりません。学園長はそれほどレインボー隊に思い入れがあるのかと少し驚いた程です」
苦笑いを浮かべたアランにアリスは当然だとでもいう様に頷いている。
「当然です! レインボー隊にもちゃんと意志があるんですから! 私からしたら嫁に出すも同義! それぐらいしないととてもじゃないですけど任せられません!」
「それはそうだな。何ならそれでもちょっと甘いんじゃないかとすら思うのに。やっぱりここはお試し期間とか設けて――」
「カイン、落ち着け。今はそれはいい。それで、まずはシュタにレインボー隊を流行らせるんだな? だがどうやって?」
「そんなの簡単だよ。シュタの子供達に無償でレインボー隊を配るんだ。モデル地区になって欲しいとか何とか言ってね。で、それと同時にうちの子達に頼むんだよ」
「なるほどな。とりあえずシュタの件は分かった。ノアから何かないのか?」
そう言ったルイスの視線にノアは頷く。
「あるよ。偽シャルルね、あれやっぱり味方だと思う。あと、姿は現せないみたいだね。師匠の元に現れる時も声だけだって。勝手に手伝っていくって言ってたよ」
「それも妙な話ですよね。何故そんなまどろっこしい事をするのでしょう? アリスは一度偽シャルルに会ってるんですよね?」
シャルルの言葉にアリスは自信満々に頷き、すぐさま首を傾げた。
「うん! 会った! はず……」
「はず?」
シャルルの鋭い視線にアリスはヒクリと頬を引きつらせた。そんなアリスを見て隣に居たキリが白い目を向けてくる。
「お嬢様はあの日、川でキュウリとトマトを盗み食いしていたようで、俺が呼びに行った時には大きな石の上で大の字で寝こけていました。ドレスにトマトの汁を飛ばしていたので、またかと思って部屋には運んだんです。そして目を覚ますと俺が拾ったナイフを見て訳の分からない事を言い出しまして」
そう、全てはあの日から始まったのである。忘れたくても忘れられない。
「そうだったそうだった。アリスがシャルルは僕の同級生だろう? とか言い出してね」
「はい。ですが、お嬢様は多分、今もあの時の事をはっきりと思い出せないのでは?」
「う、う~ん……いや、覚えてるよ! でも……あの時シャルルがどんな恰好してたかとかは覚えてないって言うか、こんなゾロゾロしてなかったような……」
「ゾ、ゾロゾロ……」
指を指されたシャルルは自分の恰好を見下ろして引きつる。そんなシャルルの背中をシエラが慰めるように撫でると、口元に手を当てた。
「つまり、アリスは偽シャルルと会ったし話した事は覚えているけど、それ以外の事があまりはっきりと思い出せないと、そういう事?」
「うん。所々飛んでる感じ。最後の台詞だけはばっちり覚えてるけど、途中の会話とかははっきり覚えてないよ」
「まぁそれは偽シャルルに聞けばはっきりする事だよ。とりあえず僕からの報告は終わりかな。他は?」
ノアの問いに全員が首を振る。
「そ。じゃあ、作戦を開始しようか。セレアル組とグラン組に分かれよう」
「そうね。もう不織布は届いているそうだから、きっと私達が来るのを待ってるわ」
立ち上がったキャロラインはそう言って男性用の帽子を被って伊達眼鏡をかける。他の皆もそれぞれ妖精王に頼んで作ってもらった個室に入ると、着替えて出て来た。
「ねぇ! 何で僕、また女装なの!」
淡いピンク色のドレスに身を包んだリアンが声を荒らげながら個室から飛び出してきた。
「安心して。今回はリー君だけじゃないよ」
そう言って個室から出て来たノアを見て、皆がギョッとした顔をしている。
「お、おま!」
「うわぁ~……ノア、違和感無さすぎない? お前、俺達と同い年だよな?」
「……何でそんな女装似合うんっすか……だからフォルスで脱がされそうになるんすよ」
「でもな、オリバー、こいつ脱いだら腹バッキバキだぞ?」
ブルブル震えながらそんな事を言うルイスにオリバーは何かを思い出したように青ざめて頷くが、アリスは女装ノアを見て喜んでいる。
「兄さま、きれ~い! びじ~ん!」
「ありがとう。でも僕だけじゃないんだよ、これが。キリ」
そう言ってノアは自分が出て来た個室に視線をやると、そこから真っ黒のドレスを着たキリが姿を現す。
「……俺もこれ、必須でしょうか……」
「……」
真っ黒のドレスに身を包んだキリが現れた途端、流石のアリスも手を叩くのを止めてポカンとしている。
美人だ。とても美人だが、何だろう。妖艶な未亡人感が半端ない。
キリは思っていた。今日ほどノアに仕えているのは失敗したかもしれないと思った事はない、と。そんなキリの心とは裏腹にノアは一人嬉しそうに手を叩く。
「似合う似合う! 大丈夫、全然いける!」
「……そうですか? ノア様程ではありません……もしかしてどこかで隠れて女装してました?」
「え、何で?」
「いや、あまりにもしっくりきすぎて……すみません。失言でした」
しっくりきすぎているノアにそっと頭を下げたキリを見て、ようやくリアンが口を開いた。
「僕だけじゃないならいっか! で、どう組み分けするの?」
「リー君! それでいいのか⁉」
「別にいいよ。僕だけ笑い物になるの嫌じゃん」
ルイスの言葉にそう言ってそっぽを向いたリアンを見て一同は思う。
いや、笑いものどころか、こういう淑女いるよな……と。
「何か……あれだな。そうやって三人並ぶと三姉妹みたいだな~。美人三姉妹って所かな」
「全員男だがな……一体どうなってるんだ……」
何故こんなにも女装が似合うのだ? ルイスはそんな事を考えながらトーマスに髪を弄られている。
「こんなものでどうでしょう?」
「おー! いいじゃんいいじゃ~ん! どっからどう見ても農夫だよぉ~」
「本当ですね。あ、そばかすとか描いてみたらもっとそれらしいんじゃ?」
「団長良い事言う! ちょっと王子じっとしててくださよぉ~」
そう言って小指の先に染め粉をつけてルイスの鼻の頭に細かいそばかすを描いて喜ぶユーゴを見て、思わずルイスは言う。
「お前達、俺で遊んでないか⁉」
「まさかまさかぁ~! 絶対バレちゃ駄目なんだから、これぐらいしないとぉ~」
「そうです。俺達も今日は剣の代わりに持つのは鋤と鍬です」
そう言って自信満々に胸を張ったルーイもユーゴもルイスと同じように農夫の格好をしている。
けれど、トーマスだけは何をやってもトーマスだった。いくら農夫の恰好をしても、とてもじゃないが農夫には見えなくて諦めた次第だ。
「俺達も案外馴染んでるんじゃない?」
髪を黒く染めたカインの言葉に、トレードマークのフード付きのローブを脱いだアランが頷く。
二人は今、伯爵家の恰好をしていた。ちなみにオリバーは元が地味なので農夫の恰好をするだけで出来上がりである。
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