第四百五話 カインの魔法
こんな具合に、さりげなく会話の端々に次の休みの予定を織り交ぜて話す。
今、どこで誰がこの会話を聞いているのかは分からないが、しっかり罠にかかってくれればいいのだが。
従者たちはいつもの様にルイスの部屋で主達に報告を済ませた。それを聞いて主達は満足げに頷く。
「これで引っかかってくれればいいが。ところで、宝珠は吹き込んだぞ。騎士達にも連絡をしておいた」
「僕達も終わったよ。とは言え、僕達も狙われるのかなぁ?」
キャラクターでもないリアンが首を傾げると、ノアが真顔で頷いた。
「分からないからこそ気をつけておいてほしい。思い出して。リー君の教科書とかにも魔法、かかってたでしょ?」
「……そうだったね」
『傍受』の魔法がかけられた勉強道具を思い出したリアンは、苦虫を潰したような顔をする。
学園に戻るなり皆がまず一番にしたのは、『傍受』のかかった物を調べる事だった。すると、出るわ出るわ。
流石に部屋から持ち出さないものにはかかっていなかったが、教科書や鞄と言った持ち歩く物にはほとんど傍受がかけられていた。それからというもの、外で使う物と部屋で使う物は分けて使っている次第だ。
そのうちのいくつかにカインの『反射』をかけてもらい、アランに預けてある。それ以外は理由をつけて全て処分した。
「その傍受なのですが、面白い事が聞けましたよ」
そう言ってアランは机の上に宝珠を一つ置いた。それに魔力を込めると、すぐに誰かの話声が再生される。
『どういう事⁉ マリカの小屋が見つかったですって?』
『はい、キャスパーの使いという者が現れて、あちらに居た殆どの者が捕らえられました』
『……キャスパー……誰か、キャスパーをここへ!』
そこで声は一旦途絶え、すぐにまた再生される。
『わ、私は何も知りません! 誰かが私めを陥れようとしているのです! 大陸の覇者であるアメリア様に盾つこうなどと、思う訳がありません!』
『どうかしらね。あなたはまるでネズミのように裏でコソコソしているものね? 知ってるのよ? あなたが勝手にいくつかの奴隷商と手を組んでいる事』
『! そ、それは……私めももっとアメリア様のお力になれれば、と……しかし、あの勇者が邪魔をするのです! まずはあいつを何とかしなければ!』
『勇者ね。あれは確かに目障りだわ。けれど、まずはルーデリアよ。ノアを私の夫にしてあそこを支配するわ』
『アメリア様、どうしてそこまでして第四王子にこだわるのです?』
『ノアが知っているからよ、ルーデリアの事を誰よりも。その為にはルイスやキャロラインは邪魔。まぁでも、聖女だなんて呼ばれていても、所詮は小娘よ。ルイスにしてもノアにしても、オピリアがあればすぐに私の虜になるわ。ねぇ、そう思わない? エミリー』
『……はい。アメリア様の美貌に敵う者など、この世にはおりませんわ』
『そうでしょう? その為には……あなたが何をすればいいか分かってるわよね? 次の失敗は許さないわ。あれほど言ったのにあっさりノアを逃がしてしまって、本当に役立たずなんだから』
『……申し訳ありません。次こそは必ず連れ戻してみせます。その為に、あのアリスという娘を殺す許可をください』
『アリス? ああ、ノアがずっと描いてた娘? どうぞ、いくらでも。小娘一人簡単でしょ? 好きになさい。それにしても厄介ね。小屋の存在がバレるなんて。シュタの方は大丈夫なの?』
『はい、そちらの方はまだ大丈夫のようです。何せ向こうにこちらの動向を知れる者は居ないので。ただ、ライト家というのがいささか厄介です』
『どういう家系なの?』
『宰相の家系で、不思議な魔法を使うと聞いています。それは門外不出だそうで、誰も知らないのです。それに頭が切れる者も多いので、恐らく今回マリカが見つかったのも、ライト家の仕業かと』
『……ライト家……カイン・ライトね。こんな事ならノアの話をもっとちゃんと聞いておくべきだったわ! まさか本当に存在するなんて……』
悔しそうなアメリアの声と共に、何かが割れる音が聞こえてきたかと思うと、それに続いてアメリアのヒステリックな悲鳴交じりの怒鳴り声が聞こえてきて、宝珠は止まった。
「……完全に魔女だね」
青ざめたリアンが言うと、その場の全員が頷く。
「でも、どうやら向こうに俺達の名前以外の情報は何もいってないみたいだね」
「みたいだ。いや、俺達の魔法はどこかで見られていてバレてるかもしれないが、少なくともカインの魔法はバレていないな」
「あと、アリスの身体能力も知らないようよ。もしも知っていたら、あんな簡単にアリスを殺すなんて言えないと思うの」
そう言ってチラリとアリスを見たキャロラインに、アリスはテヘペロをしている。
つまり、学園の中に居る者達が女王の手先ではないという事だ。学園内の者であればアリスの並外れた身体能力を知らない者は居ない。
「考えられるのは一つしか無いっすね。今まで来てた行商って事っすか」
「そうでしょうね。その行商が今、チャップマン商会になってしまいました。つまり、向こうは僕達の持ち物に魔法を掛けられなくなってしまった。だからこその贈り物攻撃なのでしょう」
そう考えれば全て納得がいく。部屋の物には一切魔法はかけられていなかった理由も、持ち歩く物にしか魔法がかかっていなかった理由も。
魔法は永久に持続する訳ではないので、定期的にかけなおさなければならない。それも分かっているからこその贈り物攻撃だ。
「でも不思議だね。何でライト家が全部見破ったみたいになってるんだろ。こっちには変態が居るんだから、変態だって思ってもおかしくなさそうなのに」
「それは簡単だよ。僕は幽閉された頭のおかしい王子だったからね。馬鹿だと思ってると思うよ」
「……思ってるって言うか、そう見せてたんでしょ?」
「まぁ、その方が都合が良かったしね。レヴィウスに居た頃は、僕は転生前の記憶がちゃんとあった訳だから、そこそこ人間不信だったと思うんだ」
「ああ……うん」
それを聞いてリアンは納得したように頷いた。さっきのゲーム機の乃亜の制作秘話から駄々洩れていた人間への憎悪は凄まじかったからだ。
何とも言えない顔をするリアンにカインは苦笑いを浮かべて言った。
「そういや、シュタにも小屋があるって言ってたな。兄貴に言っとくよ」
「うん。シュタか……心臓って意味だって言ってたよね? 一度行った方がいいかもね」
ノアが腕を組んで言うと、カインも頷く。
「だけど、とりあえず飢饉の方をどうにかしなくちゃ。何か寒冷対策はある? アリス」
「う~ん……そうですねぇ。手っ取り早いのはビニールハウスでしょうねぇ」
「ビニールハウス?」
「はい。簡単に言えば、大きな透明なテントで……ん? そっか、別にテントじゃなくても不織布でもいいのか……出来る……これなら出来る!」
アリスは立ち上がっていそいそと絵を描き始めたが、いかんせんアリス画伯の絵は相変わらずである。
「アリス、口で説明して。僕が描くから」
「うん! えっとね――」
ここは日本とは違うのでビニールハウスは出来ない。だが、不織布はある。それを使って不織布ネットのような物は作れるかもしれないとアリスは考えた。
不織布は日光もよく通し、保温性も高い。おまけにうまくいけば防虫力もアップする。一畝毎にかけなければならないのは面倒だが、妖精達の手を借りればあっという間に終わるだろう。
全ての説明を終えたアリスに、キャロラインは満足げに頷いてアリスの頭を撫でてくれた。
「流石だわ、アリス。それはもしかして他の作物にも有効なのではなくて?」
「はい! どんな作物にも使えますよ! むしろ、本来は小麦にはあまり使わないですね。小麦は寒冷地で育つ植物ではないですし」
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