第三百十話 外世界からの侵入方法
ユーゴとルーイにルイスも頷いてみせたが、そんなルイスを見てリアンが声を上げる。
「いやいや、あんたはついてってよ⁉ 仮にも王子でしょ?」
「そうは言うがな、リー君、何せゲームというものを理解していない人間についていけというのは無理な話ではないか?」
「まぁそれはそうなんだけどさ、次期宰相は何となくついてってんじゃん」
「いや、俺もデバッグとかは訳分かんないけどね。ただ、偽シャルルが何か焦ってるんだろうなってのは分かるよ。で、ここを守りたいんだなって言うのも」
カインの言葉にノアも頷く。
「だね。多分、オピリアを持ち込んだのは彼じゃない。キャスパー伯爵か女王なんだと思う。それを流行らせようとしたのも。それを偽シャルルは止めてたって事なんだろうなって。ただ一つ分からないのは、どうして偽シャルルは今になって出て来たかって事だよ」
そう言ってノアは首を傾げた。今までのループには現れなかった自分と偽シャルル。この繋がりは何だ? それが記憶の鍵なのだろうか?
ノアはシャルルが言うには転生者だと言う。自分は何者なのか、レヴィウスの第四王子だと聞いてもイマイチピンと来なかった。だからこそアリスの絵を描き倒して周りを混乱させていたのだろう。それはきっと、そこが自分の居場所だとは思えなかったからだ。だから妖精王に頼み込んでまでこの世界にやってきた。
けれど偽シャルルはどうだ? 思い出す限り、アリスが学園に編入する前に一度姿を現しただけだ。それ以降は現れても声のみだ。という事は、もしかしたら彼はこちらには来られない事情があるのではないだろうか?
「兄さま……お菓子食べる?」
考え込んでしまったノアにアリスが隣からそっとお気に入りのお菓子を差し出すと、それを見ていたキリが薄く笑った。
「お嬢様、お菓子を食べた事によってどうにかなるのはお嬢様だけですよ」
「何で? お菓子食べたら大抵の事はまぁいっか~ってなるよ」
「……今はまぁいっか~で済ませられる事態ではないのですが?」
「でもさ、考えても仕方なくない? 兄さまの記憶が戻らない限りどうにもなんないんなら、とりあえず私達が出来るのはキャスパーと女王を捕まえる事だよ!」
張り切って言ったアリスに、皆が白い目を向けて来る。
「どうやって? キャスパーはともかく、女王なんて顔すら知らないのに?」
「う、そ、それはそうなんだけど……でもでも! 変じゃん! だってさ、外の世界から持ち込んだって事は、外からこちらに来る方法があるって事でしょ?」
「!」
アリスの言葉にノアが隣で息を飲んだ。それはシャルルもだ。どうやら二人は何かに気付いたらしい。
『私は妖精を当たってみます』
「うん。もしかしたら捕まえられた妖精は、フェアリーサークルを作らされてるのかもしれない。フィルちゃん、ちょっと妖精界調べてみてくれる?」
「分カッタ。ソンナ事、許サレナイ。デモ、アリエナイッテ言イ切レナイ」
フィルマメントはそう言ってマーガレットと目配せをしてその場から消えた。突然の緊迫した空気にアリスはキョトンとしているが、そんなアリスをノアは撫でた。
「アリス、ありがとう。そうだよ。外から持ち込んだのはどうやったのか、それが分かればキャスパー達の居場所が突き止められるかもしれない」
「確かにそうだな。兄貴が言ってたんだ。少なくとも女王はルーデリアでもフォルスでもグランの人間でもないって。てことは、外から来た人間の確率が高いよな。俺はちょっと港から出る船について調べてみるわ」
カインはずっと気になっていた。この世界に入ると出られない。それなのに、港からは船が出る。あの船たちは一体どこへ行くのかが。もしかしたら、そこに何か秘密があるのかもしれない。
「船と言えば、チャップマン商会は貿易で船が難破したと言っていたよな?」
「うん。そう聞いてるけど……ちょっと調べてみる。もしかしたら、昔は外の世界と繋がりがあったのかもしれないよね」
「悪魔の水の入手先とか、元々の取引先とかも含めて調べられる?」
「やってみる」
リアンは手早くメモを書き残すとパタンと手帳を閉じた。
「はぁ……しっかし、一難去ってまた一難だな。こんな事で本当にループを無事に終えられるんだろうか」
大きく伸びをしたルイスにキャロラインは苦笑いを浮かべた。
「本当ね。でも、やるしかないわ。でないと、いつまで経っても私達はこのままなんだもの」
「それは困る! 俺は何としてでもキャロと結婚するんだ」
力いっぱい宣言したルイスにキャロラインは頬を染め、カインは呆れたように頷いている。
「はいはい、頑張ろうな。とりあえずルイスは王に進言してダニエルの爵位戻してもらってよ。で、オリバー、長期休暇取ってドロシーの護衛に行く?」
突然そんな事を言うカインにオリバーは頷きかけて途中で止まった。
「そうしたいのは山々なんすけど、俺、休みすぎたんっすよね」
「ん? でも卒業は出来るでしょ?」
「それはそうなんすけど、母さんがそれを知ってショックを受けちゃって。自分のせいで俺が休んだんだって思い込んじゃってて」
確かに最初は母親を助けるために休んでいたが、今はもう違うといくら説明しても、やはり元々庶民だったが故に虐められて学園に行きにくいのでは? などと言い出してしまったのだ。嫌なら辞めてもいい。オリバーの母はそう言ってくれるが、別にオリバーは学園を辞めたい訳ではないし、今辞めたらそれはそれで困った事になる。
そこまで説明したオリバーにキャロラインが笑った。
「素敵なお母さまね。オリバーの事が心配で仕方ないんだわ、きっと」
「そうなんすよ……嬉しいしありがたいんすけど、全部は説明出来ないしどうしたもんかと」
安心させるためにはもう出来るだけ休まないようにするしかないのだ。そんなオリバーの事情を汲んだノアは頷いた。
「それは仕方ないね。あ、でも桃が治ったらオリバーが届けてあげてね。今頃アランが一生懸命治してると思うから」
「それはもちろんっす」
そう言う約束をドロシーとしたのだ。
「じゃあ今日はこれで解散って事でいいかな?」
「そうだな。俺達は出来る事をするしかないよな」
とはいえ、一体何が出来るというのか。皆はため息と共にそれぞれの部屋へ戻っていく。
部屋の中にはルイスとキャロラインが残った。
「おかわり飲むか?」
「淹れてくれるの? ありがとう」
キャロラインは空になったカップをルイスに差し出した。こんな事をルイスがしてくれるなんて、今までのループでは考えられなかった事だ。どうやらそれには後ろで控えていたルーイとユーゴ、そしてトーマスまで驚いている。
「こういう事をな、ちゃんとしておこうと思ってな」
「こういう事?」
「ああ。記憶と年齢を引き換えにアリスを救おうと追ってきたノアとか、魔法を普段から隠れて訓練していたアランとか、中立に立つという事を覚えたカインとか、殺し屋は辞めたはずなのに特訓を怠らないモブとか、困っている人を放っておけないキャロを見てると、俺には何が出来るんだろうってふと思ってな」
「……ルイス」
「俺は役立たずだ。皆に支えられないと何も自分で動かせない。だが、それでいいとは思えない。俺も何かしなければいけないと思うのに、いくら考えても何も思い浮かばないんだ。困った事にな」
そう言って苦笑いを浮かべたルイスを見て、キャロラインはそっと自分の手をルイスに重ねた。
「私ね、思うの。ルイスはきっと、賢王になるって。何故だか分かる?」
キャロラインの言葉にルイスは首を振った。
「あなたが、ちゃんと周りの話を聞くからよ。確かに今までのループのあなたや私は本当に、最悪だったわよね。でも、アリスが言ったでしょ? 私は私よって。あれから考えたんだけど、どのループの私も、私であって私ではないのよ。それはルイスもそう。とても似ているし近い存在かもしれないけれど、同じじゃない」
「……そうか?」
「そうよ。だってルイス、アリスとシエラが同じ人間に見える?」
笑うという行為一つでも全く違うアリスとシエラ。あれを同一人物だと言われても、首を傾げるばかりである。
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