第二百八十四話 あの有名なセット
「妖精、爵位見ナイ。ソノ人ノ本質見ル。カインハ今マデフィルガ会ッタ中デ一番イイ男!」
フィルはそう言って羽根を七色に輝かせる。それを見てロビンもルードもにっこり笑って頷いた。
「そうか、そう言ってくれると嬉しいな。よろしく、フィルマメントさん。私はカインの父のロビンだ」
「俺はカインの兄のルード。あそこでノア君とキリ君に抱っこされてるのがうちの息子たちだよ。奥さんは今赤ちゃんが産まれた所だから来れなかったんだけど、また遊びに来てやってね」
「赤チャン! 男ノ子? 女ノ子? 加護ツケル?」
「だから! そんなホイホイ加護つけないの! えっと……いや、あんまり本気になしないでね? 二人とも。俺はまだ結婚なんて考えてないっていうか――」
「無駄だって。シャルルも言ってたでしょ? 妖精は諦めないって。いいじゃん、押しかけ女房。ドラゴンよりはお似合いだよ」
ごにょごにょと煮え切らないカインの後ろから、リアンがそんな事を言ってくる。それを隣で聞いていたノアもコクコクと頷いていた。
そんな様子をアリスとミアとライラがキラキラした顔をして見ている。確実にカップリング厨の血が騒いでいるのが遠目にも分かってしまって、カインはそれ以上はもう何も言えなかった。
それから宿で宿泊の手続きをして、一番広い部屋にドンブリを泊めてもらう事になった。本来ならここは立場的にルイスの部屋になるのだろうが、何せドンは大きい。
それに気づいたルイスが快く部屋を譲ってくれたのだ。そして部屋を譲ったルイスはと言えば……。
「待って。ルイス、ここに泊まるつもり?」
「ああ。だって、俺の部屋が無いからな!」
全員で夕食を食べ終えて、皆でゾロゾロと部屋に戻ったはいいが、しばらくしたらルイスが枕を持ってノアとキリの部屋にやってきたのだ。
「すみません、私はルーイとユーゴの部屋に行きますので、一晩ルイス様をよろしくお願いします」
「あー……まぁ、仕方ないか。どうぞ」
トーマスにまで頭を下げられたら断る訳にはいかない。それに、元はと言えばドンブリがルイスの部屋を占領したのだ。これは仕方ない。
渋々ルイスを部屋に招き入れたノアは、出しかけの荷物の整理を始める。
「キリが居るのにお前がするのか?」
「ん? ああ、うちは基本的には自分の事は自分で、だし何よりも……」
そう言ってチラリとキリを見ると、キリは大きなため息を落としてやはり同じように鞄の中を整理していた。
「ほとんどがお嬢様の荷物なんですよ。つまり、私達はいつもお嬢様の鞄の整理をさせられているんです!」
そう言って鞄から取り出したのは土がごっそり入った袋だ。
「……なぜ、鞄から土が?」
「アリスの趣味だからね。地質調査は。あと、お腹減った時用のジャムと喉が渇いた時用のサイダーでしょ? あ、こんなのもあるよ。ほら、ドライバーセット! あとピッキングセットとナイフのセットでしょ? それから刀磨くように雑巾とー……」
そう言って次から次へと鞄の中から荷物を取り出すノアをルイスは止めた。
「か、肝心の物が何もないじゃないか! アリスは一体何をしようとしてるんだ? 泥棒か?」
「下着とか着替えはその日の内に洗濯するから二着あればいいんだ! っていうね、人だから」
そう言ってため息を落としたノアを見て、ルイスはやはり同情したようにノアの肩をポンと叩く。
「大変だな、お前達。せめてステータスが弄られてなかったらな……」
もう少しマシだったのでは? そう思ったのだが、そんなルイスの言葉にノアとキリは同時に首を振った。
「関係ありません。パワーの無いお嬢さまはゴリラではないと言うだけで、絶対に今と大して変わらなかったはずです」
「僕もそう思う。それにもしもアリスが今までのアリスだったら、きっと今までに何回も死んでると思う」
真顔でそんな事を言って荷物を詰め始めたノアとキリを見て、ルイスも何も言わず手伝う事にした。
確かにそうだ。パワーがなくたってアリスはアリスである。やはりアリスは、超人的な力設定にしておいてもらって良かったのだろう、きっと。
ライト家と合流した一同は、翌朝の早朝からまずはバーリーに向けて出発した。そこでダムのお披露目パーティーがあるのだ。
ライト家の馬車にはカインとオスカーが乗り込んだ。代わりにこちらにはライリーとローリーが乗り込んでくる。
「二人とも朝早いのにちゃんと起きれて偉い! そんな二人にはこれをあげよう!」
「わぁい! これなぁに? アリスちゃん」
「ハンバーガーだよ。二人は朝ごはん食べ損ねたでしょ?」
「うん、お腹減った」
「ぼくも」
早起きはした二人だが、朝食に間に合わなかった。ロビンとルードがかろうじてパンとベーコンを取っておいてくれていたので、アリスは目玉焼きとレタスを数枚厨房からもらってきたのだ。そして急いで二人分のハンバーガーを作ったのである。
ハンバーガーを手にした二人は嬉しそうに齧りついてご満悦である。
「ハンバーガーのお供はやっぱり炭酸だよね! はい、サイダー」
「そうなの?」
アリスの言葉にノアが首を傾げると、アリスはコクリと頷いた。
「ハンバーガーと炭酸飲料とフライドポテトはセットだよ!」
「フライドポテトって?」
今度は不思議そうにリアンが首を傾げる。いそいそとメモっている所を見ると、販売出来そうなら販売する気満々である。
「フライドポテトっていうのはね、ジャガイモをふかしてこんぐらいの細さに凍らせてね、油でそのまま揚げるんだよ! で、塩振って食べるの! 病みつきだよ! はっ!」
「何か思いついた?」
「うん! 氷の妖精さんにお願いすれば、フライドポテト出来るんじゃない⁉ ご家庭で簡単に!」
炭酸飲料が出来てからというもの、アリスは何度も実際にフライドポテトを作ってみた。とは言っても、簡単に細長く切ったジャガイモを揚げただけだったのだが、味はいいけれど、やはりあの食感が再現出来なかったのだ。外はカリカリ、中はしっとりフワフワにするには、やはり一度ふかして成型するのが一番だと悟ったが、それでは今度は上手く揚がらずボロボロになる。結局、凍らせなければだめだという所に辿り着いたのだが、リアンの実家に住み着いたという氷の妖精の力を借りれば、あるいはうまくいくのではなかろうか。
「いいんじゃないかな。氷の妖精たちは冷蔵庫に住むって言う技を編み出したけど、仕事まではなかなか無いみたいで、結局うちでも仕事は氷の切り出ししかないって嘆いてたよ。でも小さいからさ、あんまり役には立たないよね」
リトがある日、妖精に相談されたそうなのだ。冷蔵庫の中の物を凍らすのは、別に仕事じゃない。だから何か手伝いたい、と。しかし彼らは触った食材を片っ端から凍らせてしまう。そんな訳で困っているとリトから少し前に相談があったのだ。
「じゃ、ちょっと進めてみよ! ジャガイモはどこの土地にも出来るお手軽野菜だし、冷凍しておいてもらえたら、それこそチャップマン商会で販売出来るし!」
「分かった。とりあえず一回作ってみてよ」
「おっけ!」
とんとん拍子に話を進めているうちに、気付けばバーリーは目前だった。バーリーについたら、ここでもやはり大歓迎を受けた一同。
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