第二百七十八話 アリスが怖い妖精達
「とりあえず女王って言う奴の正体だよな。魔女なのかどうかすらも分からないんじゃ、手の打ちようもない――あ」
そこまで言ってふとカインは思い当たった。
「どうした? カイン」
「いや、もしかしたらレスターは継母について何か知らないかな? と思ってさ」
「確かに。監禁されていたとは言え、一応継母だもんね。それにレスター王子が知らなくても、ロンド様は知ってるかも」
「それな。という訳だからちょっとルイス、レスター呼んでよ」
「分かった」
いそいそとスマホを取り出したルイスはレスターに連絡を取った。そんな様子をアリスがワクワクして待っている。
「兄さま! ダイアウルフ来る⁉ 来るよね⁉」
「何をそんなワクワクしてるのかと思ったら。多分、来るんじゃないかな」
アリスはノアの言葉に目を輝かせた。アリスはフォルスから戻ってきてからというもの、ずっと図書室と部屋に籠って勉強をしていたおかげで、まだ一度もヴァイスに会っていないのだ。
しばらくして、丁寧にドアをノックする音が聞こえて来た。
「開いてるぞ」
「失礼します。あ! 今日は皆さんお揃いなんですね」
髪を切ってさっぱりしたレスターは、やはりルイスの血縁者だ。爽やかな笑顔が眩しい。
「レスター! 待ってたよ! ささ、ヴァイスは⁉」
「ア、アリス? 何だか久しぶり!」
「うんうん、久しぶり久しぶり! で、ヴァイスは⁉」
アリスの勢いに恐怖を感じたのか、レスターは一歩後ずさりした。そんなレスターのお尻を押すように、真っ白な狼が部屋に入って来る。
「ふぉぉぉぉ! 狼達のボス、ダイアウルフ! よし、おいで!」
アリスが両手を差し出すと、ヴァイスは半信半疑でアリスに近寄ってくる。そんな光景をノアとキリが冷めた目で見ていた。そんな事も知らずにアリスはしゃがみこんでヴァイスの目をじっと見つめる。
「ヴァイス、いいかね。君はレスターの第一の護衛だ。いかなる時も、レスターの側を離れず、何かあった時は必ずレスターを守るんだ。そして、食べない生き物を狩ってはいけない。傷つけてはいけない。これは自然界のルールだ。分かったかね?」
「ウォウ」
「よろしい。いい返事だ。君のその額についた妖精の加護は、君の為だけにつけられたものではない。皆の為になるよう、君自身が考え、行動するんだ」
「ウォン!」
「うむ。戻って良し!」
アリスがそう言ってヴァイスを床に下ろすと、ヴァイスはとことことレスターの隣に寄り添った。それを見てカインとオスカーとレスターが目を丸くしている。
「す、すげぇな」
「アリスはね、昔から新しい動物が生まれたり見つけたりしたら、こうやってボスに君臨していくんだ。鶏小屋、あれ、捕まえるの大変だったでしょ?」
「おお、大変だったよ」
「あれもね、アリスが行くと、皆一列にビシっと並ぶんだよ。羊も牛も、皆アリスが来ると緊張しちゃってね……」
そう言って視線を伏せたノア。
可哀想に、中には緊張しすぎてお腹を下す子もいるほどだ。どれほどアリスが怖いんだ、と領民が苦笑いしていたのを今までに何度も見て来た。だからノアは思っている。アリスは、きっと動物の言葉が分かるのだろう、と。そして動物たちもまた、アリスの言葉を理解しているに違いない、と。
「お嬢様は領地の動物たちのボスですから。多分、あのクマを倒した時から」
それまではそんな事もなかったと思うのだが、気付けばアリスは領地の動物のボスとして君臨している。
そんな話を皆は呆れたような目をアリスに向けて聞いていたが、ライラとフィルマメントだけは目を輝かせている。
「やっぱりアリスは大地の化身なのよ! だからより大地に近い動物たちがひれ伏すのね!」
「アリス凄イ。デモコレデ謎ガ解ケタ。妖精、アリス怖イ。本当ハアンマリ近寄リタクナイ」
「え⁉」
フィルマメントの言葉に愕然としたアリスが驚くと、フィルマメントとマーガレットは慌てて羽根を震わせた。
「違ウ。言イ間違イ。アリス、力ガ凄スギテ妖精ニハ眩シイ。デモ良イ人ナノハ知ッテル。ダカラ部屋ノ片ヅケシテクレル」
「ソウデス! チョット力ガ強イダケデス。大丈夫、怖クナイ! デス!」
あわあわと慌てる二人から察するに、やっぱりアリスは怖いようだ。そんな二人を見てミアが言った。
「妖精たちは生命力の光でその人の強さを測ると言いますし、そういう意味ではアリス様は凄そうです……」
「確かに。殺しても死ななそうだもんね。そっか、妖精は生命力を見るのか」
本質を見抜くという妖精たちからすれば、そりゃアリスの生命力は強すぎて眩しいかもしれない。何かに納得したノアが頷くと、隣からアリスがポカポカと殴りかかってきた。
「兄さままで酷い! でも、私は絶対に百まで生きるよ! この世の美味しいものを食べ尽くすのだ!」
「……とんでもない野望ですね。ノア様、頑張ってお嬢様よりも長生きしてください」
「え、僕だけなの? 言っとくけど僕だけじゃアリスは押さえきれないよ?」
「ではドン、お願いしますね。お嬢様の老後はあなたにお任せします」
「キュ……キュウゥ~……」
キリに言われてドンは、無理だ、と言わんばかりに首を振った。ドンからしてもアリスはボスだ。ボスには絶対に逆らえない。何なら年をとっても背中に乗せろ! あそこへ行け! と言われて足代わりにされる未来しか思い浮かばない。そんなドンを慰めるように、ブリッジがそっとドンの前足を舐めてくれた。
「……お嬢様、ドラゴンにまでこんな反応されるなんて相当ですよ。今の内から自重してくださいね」
「う……む、無茶は言わないようにする……かもしれない」
「そこは言い切って欲しかったなぁ、アリス」
「ふふふ! 皆さん、相変わらず楽しそうです! 改めて、お久しぶりです」
しばらくそんなやりとりを楽しそうに眺めていたレスターが、そう言ってアリス達に頭を下げた。
アリス達はレスターが編入してきた事は知っていたが、丁度その間フォルスに行っていたし、帰ってきたらすぐにアリスの勉強会が始まり、レスターはレスターで学園に慣れる為に色々あり、お互いゆっくりと時間が取れなかったのだ。
「久しぶり! あ、座んなよ!」
そう言ってアリスが指さしたのは、ルイスとキャロラインの間だ。それを受けてルイスとキャロラインがお互いそっとソファの端に寄った。
「え、えぇ? こ、ここですか?」
狼狽えるレスターに、キャロラインが笑顔で手招きをしている。ルイスもニコニコしているし、本気で親子のように見えなくもなくなってきていてアリスはニマニマした。この三人もアリスのカップリング厨が疼くのである。
「そうだぞ。何も遠慮などいらない。俺達は兄弟のようなものだ」
「そうよ。あなたもここに居る皆と同じ、私達の家族なのだから」
「は、はい!」
二人の言葉にレスターは涙ぐみながら二人の間にちょこんと腰かけた。まだまだ小柄なレスター。
でも、良く食べて良く寝て良く動くようになって、ほんの少しの間にグンと大きくなった。
「うんうん。やっぱ良い画だ!」
腕を組んで納得するアリスに、三人は恥ずかしそうに照れる。そんなほっこりしている所に水を差したのは、ユーゴだった。
「ほっこりしてるとこ悪いんすけどぉ、話さなくていいんすかぁ?」
ユーゴの言葉にルイスはポンと手を打つ。
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