第二百七十四話 卒業……出来ない、だと⁉
「まずは、フラグ回収成功おめでとう。何でもライラちゃんが大活躍したとか?」
カインの言葉にライラは頬を染め、リアンが頷いた。
「こいつが食欲お化けで本当に助かったよね」
「言えてます。誰もが失敗かと思ったんですが、お嬢様は肉に無事に意識を取り戻しまして」
キリの言葉にキャロラインとルイスは呆れた顔をしてアリスを見ているが、ふとノアが口を開いた。
「不思議なんだけど、どうしてアリスにだけ魔法がかけられたんだろう?」
「シャルルが言ってたんだけど、それ系の魔法は妖精には効かないんだって。だから妖精の血を引くシャルルには効かなかったのかなって」
リアンの言葉にノアは納得したように頷いた。
「なるほどね。あ! それからダニエルの所にも戦闘妖精が二人、雇われたよ。もちろん他の隊商にも」
「戦士妖精! どんな妖精なの⁉」
アリスが前のめりで言うと、フィルマメントが笑いながら言った。
「厳ツイノト可愛イノダヨ。デコボコで面白イカラ派遣!」
「……え、フィル、もしかしてそんな理由で派遣する妖精選んでる?」
「ウン!」
フィルマメントは大きく頷いて、カインにげんこつを落とされている。
「ちゃんと公平に選べって言っただろ? フィルのおもちゃじゃないんだぞ」
「ハァイ」
アリスみたいな返事の仕方をするフィルに、カインはさらに怒る。
「返事は短く! はぁい、はダメ!」
「ハイ……」
まるで兄妹である。フィルもそう思うようで、半眼でカインを睨みつけている。
「何だよ、その顔」
「フィル、カインの奥サンニナルノニ」
「奥さんになってもダメなものはダメ。俺はそういうのちゃんと言うからね」
こういうのは大事だ。それは人間でも動物でも妖精でも同じである。そういうつもりで言ったのに、何故か皆恥ずかしそうにカインから視線を逸らしてくる。アリス以外は。
「あー……ね、まぁいいんじゃない。ドラゴンよりは全然マシだと思うし、シャルル見てても思ったけど、やっぱ妖精の血が入ると子供は綺麗だよ。でもね、そういうの他所でやって!」
目の前でイチャつかれるのは苦手なリアンである。そっぽを向いて耳まで真っ赤にして言うと、ライラが宥めるようにリアンの背中をさすった。この二人もナチュラルにイチャつくが、どうやらその事には気付いていないらしい。
「まぁカインのお嫁さん事情は置いといて。そんな訳だからすぐにどうこうはならないと思うよ。戦士妖精ともうまくやってるみたいだし」
そう言ってノアは戦士妖精を雇う事になった嬉しそうなダニエルを思い出した。
『ノア! 来たぜ、戦士妖精! やっべーぞ、二人ともめっちゃくちゃカッコイイんだ!』
そう言ってダニエルから電話がかかってきたのは、草木も眠る丑三つ時だった。寝ぼけ眼で電話に出たノアのテンションとは違い、ダニエルは酒でも入ってるのか? と思う程陽気だった。
「そう、良かったね……おやすみ……」
スマホを手放して寝ようとしたノアに、ダニエルの怒る声が聞こえてくる。
『お前も深夜だろうが早朝だろうが構わずかけてくるじゃねぇか! まぁ聞けよ』
ここからダニエルの長い長い戦士妖精の話が始まった。
『一人はコキシネルって言って、天道虫みたいな羽根しててさ! ちっさいんだけど機動力が半端ねぇの! すんごい動くの早いんだ。顔はめちゃめちゃ可愛い女の子なんだけどな。で、もう一人は筋骨隆々でさ、ケーファーって言うんだけど! こっちはカブトムシなんだろうな! 全身がカッチカチの装甲で覆われててさ、顔はがっつり隈取が入ってて、戦士! って感じなんだけど――』
この後、小一時間ほど延々と戦士妖精について語られたノアは、はっきり言って半分ぐらいしか覚えてないいのだが、まぁそのうち会えるだろう。そして気づいたのだ。戦士妖精とは、つまり虫が元になっているのか、と。なるほど。それは強そうだ。
「そんな訳で、コキシネルちゃんとケーファーさんって言うらしいよ。最初はマリーもエマもおっかなびっくりだったらしいけど、ドロシーだけはそんな事無かったみたいで、今じゃドロシーとコキシネルちゃんと桃は三人で毎日修行してるらしいよ」
「ドロシーが?」
不思議そうに首を傾げたリアンにノアは頷く。
「そう。コキシネルちゃんが自分の身は自分で守れるに越した事ない! ってタイプみたい。あと、ケーファーさんはメグさんのご両親と一緒に毎日薬草取りに行ったりしてるらしい。何だかんだ仲良くやってるみたいだよ」
「俺の所にも兄貴から連絡あったよ。メグのご両親から面白いメッセージが来たんだけど、これ何? って」
ダニエルの所で今も遍歴医をしているメグの両親は、ケーファーを連れて薬草を取りに行くどころか、遍歴医のお手伝いもしてもらっているらしい。
というのも、遍歴医が背負う薬箱が重くて今まで辛かったらしいのだが、ケーファーにはそんなもの軽々である。だから今は薬箱をケーファーが背負い、メグの両親と一緒に街で往診をしているらしいのだが、これが子供達にはとにかく人気らしい。
何せ大きなカブトムシが二足歩行で歩き、怪我や病気の治療に来てくれるのだ。今までは治療を嫌がっていた子供も、彼に抱っこをされると大人しくなるとかならないとか。それは恐怖からでは? と思わないでもないが、何にしても今はカブトムシのお兄さん、と街で人気者らしいので良しとする。ちなみに、女の子にはやはりケーファーは怖いようで、そんな時はおしゃべりで小柄なコキシネルが付いて行くらしい。滅多にない事だからか、今やコキシネルに会えると幸運がやってくる、なんて噂にまでなっているというから面白い。
「説明したら兄貴、めちゃくちゃ喜んでたよ。ダニエル君が近くに来たら是非うちにも寄ってくれ! って伝えてって息巻いてた」
「私も会いたい! ダニエル今どこに居るんだろう⁉」
今までお菓子片手に話をじっと聞いていたアリスがガタンと立ち上がると、そんなアリスの肩をキリが後ろから押さえつけてくる。
「お嬢様、いけません。お嬢様はシャルル様に言われたでしょう? ノーマルエンドに無事入れたので、しばらくの間あなたの仕事は勉強だ、と」
「……うぅ」
その言葉にアリスはシオシオとソファに崩れ落ちた。そんな様子を足元で寝そべっていたドンが口の端を上げて見上げてくる。まるでアリスの事を嘲笑っているかのようだ!
「ドンまでそんな顔……兄さま,、私、カブトムシと天道虫に会いたいだけなんだよ? それなのにこんな事言うの」
最後の藁に縋ったアリスに、ノアはにっこり笑って言った。
「僕もシャルルに賛成かな。アリス、シャルルに聞いたよ。テスト、酷かったんだって?」
「そ、それは……だって、色々忙しかったし……」
嘘である。忙しかったのは初めの2、3日だ。後はずっとクラスメイトと嬉々としてバトっていた。そんなアリスを知っているキリとリアンとライラは無言である。
「違うよね? 遊んでたんでしょ? アリス、言っておくけど、そんな事じゃもうどこにも連れていけないよ? 確かにゲームこなすのも大事だけど、勉強も大事なんだからね?」
「そうだぞ、アリス。お前、卒業する前に卒業試験があるのに、今からそんな事でパス出来るのか? それをパスしないと卒業出来ないぞ?」
ルイスの言葉にアリスは凍りついた。卒業……出来ない、だと⁉
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