第二百四十八話 キャロラインとシエラ
ルイスの言葉にノアは少し考えて頷いた。
「分かった。じゃあ当日はルイスの側近として檀上に上がるよ。アリス、アラン達は檀上のすぐ下の席を用意してもらっておいて。中央にユーゴさんとリー君、一番末席にルーイさんとオリバーがベストかな。あと、ライラちゃんはミアさんと一緒にキャロラインのメイドって事で側に居て。会場裏にはカインとオスカーさん控えててくれる? 何かあったらすぐに連絡ちょうだい」
『分かりました。すぐに手配しておきます』
「分かった! 皆を守るよ!」
「頼もしいね、アリス。今回は集まる人数もかなり多い。アリス、もしも皆が逃げるのにグズグズするようだったら、すぐに魔法を使って皆を外に逃がすんだ。いいね?」
「使っていいの⁉」
「いいよ。君の魅了はこういう時にこそ使うべきだ。そうでしょ?」
使ってもいいか? という確認も込めてシャルルに問うと、シャルルも無言で頷いた。
『もちろん。私も使うので、手分けしてかけましょう。何よりも国民達の安全は最優先に考えなければいけません』
「はい!」
それを聞いてビシリと敬礼をしたアリスに、シャルルは目を細めて頷く。
こうして、久しぶりの全員での行動になった。
ちなみに、ドンブリだけは今回は学園でお留守番である。ザカリーとスタンリーに皆で頭を下げたので、きっと面倒を見てくれるだろう。
今回の馬車は重要人物たちが乗る高級な馬車と、その他の人達が詰められた幌馬車に分けられた。勿論、アリス達は幌馬車である。そんな幌馬車に乗り込む前、アリスはフルッタから送られてきたゴムを使ってしきりに何かしていた。
「ねぇ、何してんの?」
「ゴムをね、こうやって……完成! これで道中ちょっとマシになると思うんだよね!」
いわゆる即席タイヤを馬車に取り付けたアリスは意気揚々と馬車に乗り込む。
「あんなゴム巻いただけでどうにかなるの?」
最初は半信半疑だったリアンは、馬車が走り出してしばらくして驚いていた。クッション性がいいとこうも違うのか! それを実感したのだ。
途中の休憩でその事を高級馬車に乗っていた一同に伝えると、それを聞いていそいそとユーゴが幌馬車に乗り込んできた。
「うわぁ! すっごいねぇ、これぇ! 何ならあっちのがガタガタだったよぉ!」
「そうなの?」
ノアの問いにユーゴは真顔で頷いた。
「可哀相なカイン様見たでしょ?」
「ああ、うん。カイン、乗り物に弱すぎじゃない?」
相変わらず途中の休憩でよろよろと馬車から降りて来たカインは、無言でアリスに手を差し出していた。その手にアリスがまた南天の葉を置くと、そのまま頭だけ下げてまた馬車に無言で戻って行ったのだ。前にも一度見た光景である。
道中はカインが酔った以外は特に何の問題もなくフォルスに到着した。
「なんでそっち、皆元気なの?」
よろよろと馬車を降りて来たカインにアリスが幌馬車のタイヤを指さした。そこにはしっかりとゴムが巻かれている。
「ん? これ、ゴムじゃん」
「はい! こうやってタイヤに巻いて衝撃を吸収するんですよ! そしたらデコボコ道も快適快適!」
「! それ、何でこっちにはつけてくんないの!」
「えー……だって、そっちのは別に普通に作りもいいですしぃ」
何よりも上手くいくか分からなかったのだ。おまけにゴムも足りなかったのだから仕方ない! アリスは悪くない!
「帰りは俺もそっちに乗るからね! ていうか、ルイスとキャロラインがイチャイチャイチャイチャしてるのがもう、何て言うか……」
そこで続きを飲み込んだカインにオスカーが慰めるようにカインの背中を叩いた。
「帰りはあっちに乗せてもらいましょうね。アリス様、代わってやってくれませんか?」
「いいよ! じゃ、兄さまとキリ、帰りは向こうに乗ろうね!」
「はいはい」
「俺はどちらでも」
そう言いつつ向こうにはミアが居るので内心は少し嬉しいキリである。そんなキリの心の中を読んだかのようにカインは頷きながら言う。
「カップルはカップルだけで乗ってくれ」
それだけ言ってヨロヨロとシャルルが用意した宿の部屋にいち早く行ってしまったカインに苦笑いしつつ、皆も後に続く。
夜、シャルルが宿にやってきた。
「いや~こうやって見ると壮観ですね! よくぞここまで集めたものです」
部屋へやってきたシャルルはルイスの部屋に集まったメンバーを見て、綺麗な笑みを浮かべた。
「こんな事態は初めてなので、もう何だか感極まってしまいますね! ねぇシエラ?」
シャルルはそう言って隣に立っていたシエラに視線を送ると、シエラはにっこり笑って頷いた。そして、その笑顔のままアリスの方に向き直ると言う。
「初めまして、というのも変だけれど、アリス」
「……はじめまして。あなた、もしかして処刑アリス?」
この顔をアリスは知っている。儚げな顔に憂いを帯びた視線は、間違いなくアリスが夢に見た処刑された時のアリスだ。髪型が違うのでぱっと見は分からないかもしれないが、パーツ自体は自分と同じである。髪の色も目の色も、全て。何か、それが気持ち悪い。
ところが、アリスがそう言った途端、後ろでキャロラインがヒュッと息を飲んだ。
「あ、あなた……そ、そうなの……? あの時の……アリス、なの?」
今にも泣き出してしまいそうな震える声で言うキャロラインに、シエラは嬉しそうに笑って、途端に元気に話し出した。
「良くやったわ、アリス! やっと、やっとキャロライン様と仲良くなれたのね!」
「う、うん。そ、そうだけど……そっか、私はずっと、キャロライン様も推しだもんね」
「そうよ! ああ、どうしよう、泣いてしまいそうだわ!」
そう言って目に涙を浮かべたシエラを見て、キャロラインが徐に立ち上がってそんなシエラをきつく抱きしめた。そして、皆が居るにも関わらず声を上げて子供のように泣き始めたのだ。
「会いたかった! あなたに、もう会えないと分かっていた、でも、もしも、もしも会えたらその時は、きっとこうしようってずっと思ってて、あなたの最後の言葉も、あの時の私は嫌味としか捉えていなくて、本当に、本当にごめんなさい。ああ、でも、また会えた! どんな魔法か分からないけれど、あなたは無事だった! 良かった、本当に……良かった……ごめんなさい、何度謝っても許されないって思ってる。でも……ごめんなさい、本当に、ごめんなさい」
突然のキャロラインからの抱擁にシエラは驚いて目を丸くしていたが、とうとうシエラの目から我慢していた涙が零れ落ちた。
シエラも強くキャロラインを抱きしめて言う。
「違うんです、違うんです、キャロライン様、私も、私もずっと謝りたかった。あなたは私に何かした事なんて一度も、ただの一度も無かったのだから! でも、いつも何かに邪魔された。見えない何かが、私をあなたに近づけさせてくれなくて! ずっと、ずっと伝えたかったんです……私、あなたが大好きです。ずっと、どの過去のアリスもあなたと本当は、仲良くしたかった……ごめんなさい。あの時にちゃんと伝えられなくて、本当にごめんなさい……」
その事でキャロラインがずっと悩んでいたのを、あれからずっとシャルルと見て来たシエラは知っている。だからいつか、こんな日が来たらシエラもまた謝ろうと思っていたのだ。
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