第百五話 意図せずヒロイン大集合!

 一番年長のマリーは透けるような色白ではっきり言って大層美人である。元娼婦という事も一切隠さず、その割り切りの良さが返って好感がもてた。


 二番目のエマは口が悪く男勝りな感じは否めないし、とびぬけた美人という訳でもないが、よく気が利きすぐに商会の皆と仲良くなった。今や立派なムードメーカーで、ダニエルも気に入っている。


 一番小さなドロシーは最初はエマとマリーの後ろに隠れていたが、最近はよく笑うようになった。口が利けない彼女は引っ込み思案だが、そんなところが母性本能をくすぐるのか、今では毎晩誰がドロシーと寝るかで女性陣が揉めている。


「出来ない事はないと思うけど、全員分は難しいかな」

「いや、全員分じゃなくていいよ。とりあえず三人分頼めるか? 最近イキの良い新人が三人入ってな。なあ、キリ?」


 いたずらに笑ったダニエルを見て、キリが安心したように頷いた。


「雇ってくれたんですね。彼女達は使えそうですか?」

「いけるんじゃねぇ? 一番上のマリーは美人だから営業に回したら一発で契約とってくるし、二番目のエマは随分気が利くし、よく見てるから商品管理任せてる。三番目のドロシーは、あいつ口利けないんだな。エマ曰く声が出せねー訳じゃないみたいだけど、色々嫌な目に遭ってたみたいでさ。まあまだちっさいからマスコット扱いだよ。あれは癒しだ。また近いうち挨拶させに寄るよ」


 ダニエルの言葉にザカリー以外の空気がピリついた。お互いに顔を見合わせて素早く頷きあうと、アリスが何てことない感じで話し出す。


「エマちゃってどんな子? 可愛い?」

「ん? エマは赤毛で磨けば可愛くなりそうだけど、性格がなぁ。お転婆と言うかなんていうか……もうちょっとお淑やかにしてりゃ可愛げもあるのにな。でも仕事はかなり出来るぜ?」

「じゃ、じゃあドロシーちゃんは?」

「ドロシーか? あれは将来美女になるぞ。金髪にアメジストみたいな綺麗な目だけど、それがどうかしたか?」


 首を傾げるチャップマンにアリスは引きつった顔で首を振った。嘘が下手なアリスは隠し事も出来ないのである。そんなアリスに変わってノアが話し出した。


「知り合いにさ、エマとドロシーって子が居たから、凄い偶然だなって。そっか、マリーにエマにドロシーか。会えるの楽しみにしてるよ。じゃあザカリーさん、悪いんだけどダニエルにお土産渡してくれる? スープと麺と三つずつ」

「か、畏まりました。すぐに用意します!」


 土産まで頼まれたザカリーは急いで部屋を出て行ってしまった。頭の中では教師陣の誰の分をそっちに回すかで一杯である。


「さて、じゃあお土産が出来る間、もう少し話詰めようか。基本的な流れは、これから僕が会社を立ち上げるから、そこと専属契約っていう形が多分一番良いと思うんだ」

「そうだな。どっかが管理してないと、これはすぐに横取りされちまう」

「だからまだ詳しい事は皆にも伏せておいてね。小麦粉界に何かが起こるかも、ぐらいにしておいてほしいんだ。小麦粉はキャロラインとルイスにセレアルに声を掛けてもらおうと思ってるんだけど、他にもどこかいい小麦取れるとこ知らない?」


 ルーデリアの小麦はほとんどセレアルが賄っていると言ってもいいほど、セレアルは穀物が強い。チェレアーリのように小さな領地に分けられてそれぞれの領主が管理しているのだ。


 そしてそのルーデリアの心臓とも言えるセレアルを納めているのがルイスのはとこのレスター王子の両親である。


「小麦なぁ。グランぐらいかな。あそこはセレアルよりも広大な土地で小麦を栽培してる」

「グラン!」


 アリスは目を輝かせた。グランはフォルスとルーデリアの国境にある小さな独立した場所で、フォルスにもルーデリアに属さない特殊な土地である。


「グランか……ダメ元で一回掛け合ってみる?」

「いや、あそこは難しいぞ。どちらの国にも属さない分、かなり警戒心が強いんだ。うちの爺さんの代に一度商談に行ったらしいが、けんもほろろに帰されたらしい」

「てか、あの時は大した見返りも用意してなかったんでしょ? そりゃ断られてもしょうがなくない?」

「リー君ってば!」

「だって考えてみてよ。何の見返りもなしに商談もちかけても、そんなの向こうからしたら侵略と同じでしょ? 今までずっと自分の所だけで中立を貫いてきたんだからさ、警戒心も強いに決まってるじゃん」

「そこなんだよ。結局、爺さんはその場限りの見返りしか用意出来なかったんだよな。でも、グランからすりゃそんな目先の利益に惑わされて土地全部取られる訳にはいかねーじゃん。だから、あそこは向こうが納得するようなもんを用意しないと動かないと思うぜ」


 リアンとダニエルの言葉に頷いたノアは、ニコっと笑う。


「じゃあ、それなりの見返りが用意出来れば、動いてくれる可能性がある訳だ?」

「え? ま、まあ、そうだな」

「じゃあ大丈夫。どうにかするよ。で、次に行くよ。スマホなんだけど、こっちも枠組みを作ってくれる会社と交渉してからになるんだけど」

「それはもう目星つけてる所があるんだ。こっちに任せてくれねーか?」

「もちろん。今既にアランが領地で魔法式を複製してくれる人材を募集してくれてるんだ。魔法式自体は出来上がってるから、後は外枠だけなんだよね。とはいっても、いきなり大量生産は出来ないから、クラーク家の領地に工場を建てる事になったんだよ。それが出来上がるまではまずは仲間内から広げていく形になると思う」

「い、いつの間に……よくクラーク家が了承したね。今度はどんな手を使ったのさ?」

「どんな手も何も、あちらのご両親がスマホの事がよほど気に入ったみたいで、私達みたいに離れて暮らす人にはとっても嬉しい魔法だ! 流石私達の自慢の息子だ! って向こうから言い出してくれたみたいだよ」


 ある意味では血の繋がりの無いクラーク家が一番家族の繋がりが強いかもしれないと思う程には親ばかである。というよりも、フォスタースクールにしてもそうだが、クラーク家はもしかしたら代々こういう投資の話が好きなのかもしれない。そして昔からあの家が絡むと後々国家事業になるのだ。だから色んな所から投資話が来るようだが、クラーク家は誰かの役に立つという理由でしか動かない。その為、スマホ普及には大いに賛成なのである。


「それからダニエル、近いうちにフォルスに行く用事ない?」

「フォルス? 来週行く予定だぜ。あっちの知り合いにもジャム持ってっとこうと思っててさ」

「そっか。じゃあその時でいいから、ちょっと今の公国がどんな感じが教えてくれない?」

「具体的には?」

「そうだな……治安とか、現大公と次期大公の話とか聞いてくれたら嬉しいかな」


 ちょくちょくアリスの前に姿を現すシャルルは、聞いている限りでは何かを裏でコソコソと始めようとしている。それが何かを突き止める事は出来なくても、来年の夏までにはシャルルを大公にしなければならないのだ。


「まぁ、別にいいけど、また何か変な事企んでねーだろうな?」

「ううん。今回は純粋にフォルスの今が知りたいんだよ。カインのお兄さんがフォルスに居て商売してるからさ、それも頼まれてるんだよね」


 嘘は言ってないが真実も言わないノアにアリスとキリとリアンが白い目を向けるが、ノアはそれを無視して続ける。









※ちょっとしたあとがき。

今日はクリスマスイブですね!

本当に些細なものなのですが、明日の朝クリスマスプレゼント代わりのお話を一つ、アップいたします。

アリス達のクリスマスを垣間見える話になっていますので、楽しんでもらえたら嬉しいです♪

それでは、楽しいクリスマスをお過ごしください!

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