第七十六話 武器の所持は禁止です!

 学園に戻ってくるなり、緊急会議が開かれた。議題はオリバー・キャスパーの件である。

「あのね、荷物置いてすぐに集まってもらって悪いんだけど、オリバーについてちょっと話したい事があって」

 そう言ったのは先に学園に戻っていたキャロラインだった。

 あまりにも急な呼び出しに皆荷物だけ部屋に置いてキャロラインの部屋に集合した。

「どうしたんだ? 随分急だな」

「ええ、ごめんなさい。私は昨日のうちに学園に戻っていたんだけど、早速オリバーを探してみたのよ」

 神妙な顔のキャロラインの表情は暗い。その顔を見て何となく察する。これは何か良くない感じだな、と。

「まずオリバー・キャスパーという生徒は確かに居るわ。私達の学年のDクラスよ」

「Dか、遠いね。それなら知らなくても仕方ないかも」

 カインの言葉にルイスもノアも頷く。

「そうよね。でも、私達が知らなかった理由はどうやら、それだけじゃないみたいなのよね」

「どういう事だ?」

「彼ね、三年の途中から一度も学園に来ていないのよ」

「……え?」

 あまりにも予想していなかった事態に一同はポカンと口を開く。

「三年の途中? 今四年なんだけど? 病欠とかではなくて?」

 まさかのオリバーの長期登校拒否に思わずカインは突っ込む。

「いいえ。病欠でもなく長期休暇をしないといけない事情も特に先生方は聞いていないみたい。学園には既に彼が卒業するまでの学費も全て支払われているそうなの。だから学園側も退学には出来ないみたいね」

「出席日数とか、そういうのは大丈夫なんですか?」

 不思議に思ったアリスが問うと、逆にキャロラインに首を傾げられてしまった。

「出席日数? それがどうかしたの?」

「え? いや、足りなくて留年とか、退学とか……もしかしてそんな制度ない⁉」

「ないわね。在籍していた、という証明さえあれば、ここを出た事になるのよ。例え本人がここに居なくてもね」

「な、なるほど……お金持ち学校って感じです」

「アリス、大半の人達はちゃんとしてるからね? この学園に入りたくて入る人の方が圧倒的に多いんだよ。だからオリバーみたいなのは……ちょっと珍しいね」

「それでね、ミアに聞いて回ってもらったのよ」

「噂好きのミアさんですね」

「キリさん⁉」

 頷いたキリにミアが拳を振り上げる。この二人はこれでいいコンビである。

「ミア、話してくれる?」

「はい。オリバー・キャスパー十六歳。伯爵家の三男で、兄が二人。兄は二人とも既に成人済みで騎士団に入っているようです。ですが、オリバーは剣術があまり得意ではなく、騎士にはなりたがって居なかったそうなんです。そもそもオリバーは庶子子だそうで、この学園に入るまで伯爵家で暮らしては居なかったようです。一度三年の終わりにキャスパー伯爵が学園に来られたそうですが、何の用事で来られたかまでは分かりませんでした。でも、オリバーの同級生が、夏休みにオリバーを町で見かけたと言っていたらしいんですが、その生徒の実家とオリバーの家は全く違う場所なので、不思議だと言ってました。えっと、以上です」

 全てを話し終えたミアはふぅと小さな息を漏らした。

「驚きです。噂好きと言うよりも、そこまでいくと情報屋のようですね」

 感心したようなキリにキャロラインは頷いた。

「そうなのよね。ミアは昔から情報を掴むのがとても上手いのよ」

「情報収集が効率的なんだろうね。誰に何を聞けばいいのかが分かってるんだと思う。なるほど、ありがとうミアさん。かなり有益な情報だったよ」

「い、いえ、そんな」

 畏まるミアにノアはにっこりと笑いかけてアリスの方を向く。

「アリス、オリバーについての情報をもっと教えてくれる?」

「うん、分かった。オリバーはね、ミアさんの言った通り妾さんの子だったの。それがバレて学園で虐められるようになるんだよ。元々あんまり話さない人だけど、それが原因で人間嫌いになるの。あ、あとね、オリバーはずっとお母さん養う為に殺し屋やってたんだよ! いや、見習いって言った方がいいのかな? それをドロシーに咎められるの」

「⁉」

 突然の爆弾発言に皆目が点である。

「ま、待って。アリス、前はそんな事一言も言って無かったよね?」

「そうだっけ? う~ん、そういう描写はゲームには一切出て来なかったんだ。隠しキャラだし、無理やり後から付けたのかな? みたいな設定だったから、私も忘れてたのかも」

 そう言って胸を張ったアリスに皆真っ青だ。

「待ってくれ。じゃあ何か? もしかしてオリバーは暗殺の仕事とやらがあって学園には来ていない……とかか?」

「……」

 ルイスの声に皆口を噤んだ。ありえない話ではない。殺し屋の仕事を今もしているのなら、長期の仕事をしていてもおかしくはないのだから。

「え、殺し屋仲間にする気⁉」

 リアンの発言にライラとキャロラインは青ざめた。

「まだ決まってないよ。それに、まだ見習いみたいだしあくまで設定の話でしょ? オリバーに直接会って聞いてみるしかないね。その上で話をするかしないかを決めるのがいいんじゃない?」

「こ、怖くないのか?」

 恐る恐るそんな事を言うルイスにノアが首を傾げた。

「何が?」

「こ、殺し屋かもしれないんだぞ?」

「でも、違うかもしれないよ?」

「そ、それはそうだけど……」

 ルイスに続いてカインまでも不安そうな顔をしている。まあ、確かにルイス、カイン、キャロラインは命を狙われやすい立場なので、この不安は当然なのかもしれない。

「大丈夫だよ。オリバーに会いに行くなら僕とアリスとキリだけで行くつもりだから」

「必然的にそうなるでしょうね。ダニエルに連絡を取って探してもらいましょう」

「やった~! お出かけだ~」

 呑気に喜ぶアリスに一同はさらに青ざめる。

「あんた、なに考えてんの⁉ 相手は殺し屋かもしれないんだよ⁉ やられたらどうすんの⁉」

 リアンの言葉に、アリスがフッと真顔に戻った。いつもニコニコしているアリスがこんな顔をする時は狩りをするときだ。

「やられると思う? たかがモブに? 私が?」

 普段よりも低い声に口の端だけを上げて笑ったアリスは、ヒロインというよりも悪魔の化身のようで……。

「まあ、こんな訳だから僕とキリはオリバーの護衛だよ。アリスは起きていてもスイッチが入ると見境なくなっちゃうからね」

「そうだよ! 大丈夫。何もしてこなかったら私も何もしないよ!」

「一応聞くが、何かされたら……?」

「それはもう、正当防衛という名の報復をしますよ! もちろんです! やられたら、やり返す! 私の信条ですから!」

「そ、そっか……単純明快だね」

 途端に心配になるオリバーの安全である。でもやはりアリスは女の子だ。城で見た立ち回りを見ても、武器を持っている相手ではまた話が違うだろう。

「武器とか持ってるかもよ? それでも行くの?」

 心配そうなリアンにアリスはにっこりと微笑んだ。その笑い方がノアと同じ種類のもので、早くも聞かなければ良かったと後悔する。

「リー君、アリスには武器はね、持たせないようにしてるんだ。どうしてか分かる?」

「え? 危ないから、でしょ?」

「うん、相手がね。帰りの馬車でも言ったけど、アリスは刀でこれぐらいの太さの藁が詰まった筒を真っ二つにするんだよ」

 そう言って両腕で筒の太さを現したノアを見て、リアンは息を飲んだ。てっきり藁を刀で切ると言うから、何か供養的な事だとばかり思っていたが、リアンの予想の範疇を超えすぎていて声も出ない。

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