(仮タイトル)私は「パラレルワールド(不思議な世界)じゃないアリス(火星)に来たかったんだ。」

諏訪弘

Prologue - Beyond the longing. -

アリス

≪「皆様火星アリスクリヴィッツ空港に到着致しました。天候は晴れ、シェルター内の気温は二三度でございます。シート着席サインとベルト着用サインが消えるまで、お座りのままお待ちください。上の物入れを開けた際に手荷物が滑り落ちるおそれがありますのでお気を付けください。」


 やっとだ。やっと。やっと。ついに、ついについに夢が。…………叶ったんだ。


≪「この先、当機はターミナル二六四二ゲートに入る予定でございます。どうぞ良いアリスライフをお過ごしください。本日もインターステラーフライトメンバーJNAをご利用いただきましてありがとうございました。お出口は前方と中央の二か所、後方の二か所でございます。」


 着席と着用のサインが同時に消えると機内が一斉に慌ただしくなる。

 立ち上がり、荷物を取り出す者。そのまま出口に向かう者。


「あの人、スッゲェーな。ちょっとコンビニまでって感じでアリスかよ。」


 ベルトは外したがシートに座ったまま、地球の新羽田空港からアリスのクリヴィッツ空港間を共にした仲間達の動きを眺めていた。

 混雑する中を慌てて動くなんて勿体ない。幼い頃ネットライブで見た第一次アリス開拓移民団の動画。二四四年前の動画に私は心を奪われた。あれから三六年。夢が叶ったのだから。


・・・

・・


「あれ?」


 今日までのことを思い出し感無量になっていたようだ。機内には、私を含め仲間達が三人にしか残っていなかった。


「同じ機に乗り合わせただけのただの乗客同士でしかなかったんだがな。悲しい物だな。……さてと。」


 シートから立ち上がり、膝の上に置いたパンパンに膨れ上がったボディバッグを体に装着し、一番遠い出口へ向かった。


 これが見納めだ。キョロキョロしながらゆっくりと後方から前方へと移動する。


「お探し物でしょうか?」

 インターステラーフライトクルーのモデルさんと勘違いしてもおかしくないレベルの女性が話しかけて来た。


 役得だな。この機に乗らなかったら、話し掛けられることもなかっただろう。アリスに感謝だな。

「いえ。もう乗ることがないんだなと思ったら。確り目に焼き付けておきたくなりまして、ハッハッハッハ子供みたいなことして申し訳ありません。何言ってるんだこのオヤジはって感じですね。直ぐ降ります。お世話になりました。」


「良いアリスライフをお過ごしください。」

「ありがとうございます。そのつもりです」


 インターステラーフライトクルーの女性にお辞儀をし、前方の出口へと振り返る。そして、大きな深呼吸を一度してから、機外へと踏み出した。


 まぶしっ!!アリスって太陽イリョスこんなに眩しかったっけ?


・・・

・・


 暫くして、目が慣れてくると、私の目の前には赤茶け荒涼とした大地が広がっていた。


 はっ!?


 慌てて後ろを振り返る。


 えぇ!?


 そこには、たった今降りたばかりのインターステラーフライトメンバーJNAの新羽田空港発クリヴィッツ空港着第一〇八便の姿は無く、赤茶け荒涼とした大地が広がっていた。


 訳が分からないがこのままここに居てはダメなことくらいは私にも分かる。まずは現在地の確認だな。

 ボディバッグからスマフォサイズのタブレットを取り出しスイッチを入れ現在地を確認する。


「現在地は、クリヴィッツ空港ターミナル二六四二ゲートの【C4】。なんだよこれ。アキバで買ったばかりなのに壊れてやがる。…………ここの何処がクリヴィッツ空港ターミナル二六四二ゲートの【C4】なんだよ。」


 赤茶け荒涼とした大地に私は立っていた。

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