第19話 ※ルーカス視点
先週末、シトレイシアが学園を飛び出してから週明けまで何の音沙汰も無かった。
「何?彼奴が休んだだと?」
「はい、そのように聞いておりますが」
学園に取り残され、シトレイシアからの連絡も無く待たされるのみだった俺は、登校してから捕まえればいいかと考えていたものの、今日は当の本人が休みときた。
婚約者だからといって逐一休みますと報告する必要はないが、あの日、彼奴が学園を飛び出してから休日の間に何かあったのかと思うと少し気掛かりだ。
「連絡は取れるのか?」
「確認しておきます」
俺の従者、ジキルは仕事が早い。
基本、この学園では従者が学生として学びながら各々の主に遣えることが可能だ。
外部と連絡がとりたければ、その為の部屋だってある。
ジキルはシトレイシアの兄、アストレンと同学年で比較的仲が良かった筈だし、ジキルに任せておけば昼休憩の間には聞いてくるだろう。
「....にしても、なぁ。元気というか、活発というか......婚約者になるまであんな性格とは聞いていなかったぞ」
「殿下、少々自由な発言をしても?」
「許す」
「.......あの令嬢行動的過ぎねぇ?いやー、やっぱ女って見掛けで判断できないっすね」
「自由過ぎだ阿呆」
ジキルは普段は丁寧な言葉遣いだが、素はかなり口が悪い。
普通なら国の王子の婚約者を貶すような発言は許されないが、今回に関しては俺も同感だった。
「あの装いも何の為なのか....」
シトレイシアの男装は婚約者の女嫌いを察してのことか、はたまた別の理由があるのか。
鎧だなんだと最初に言っていたが、まず何から守る気なのか、知り得ない。
聞いたところで教えてはくれないだろう。
昼休憩の際サロンで読書をしていると、ジキルが報告をしに俺のところに戻ってきた。
「殿下、婚約者様は体調が優れないようですよ。アストレン様も心配している様子でした」
にこやかに報告をするジキルの顔には、何やら含みを感じる。
別に俺はジキルに公的な場所でなければ自由にしろと言ってあるので、わざわざ粗野な言葉遣いに戻らずに丁寧な言葉遣いで含みを感じる顔をしているときは俺に何かを察させようとしているときだ。
「....何だ」
「体調が優れないようですよ、婚約者様」
同じ台詞を繰り返し、一層笑みを濃くされた。
「まさか....俺に見舞いに行けと?」
「さぁ?御自分でお考えください」
解雇してやろうか。
否、婚約者を見舞いに行くのは可笑しい話じゃない。
寧ろシトレイシアも喜ぶんじゃないだろうか。
他の女のような権力や容姿しか見ていない好意ではなく、シトレイシアからはもっと純粋なものを感じる。
少なくとも嫌われてはいない。
ふむ、と少しばかり考え込むような素振りをした後、ジキルに放課後買い物に行くぞとだけ告げた。
放課後、国内でもかなり有名な宝石店に向かったものの、ジキルの一言で大切なことを忘れていたことに気付いた俺は店に入る前に立ち止まった。
「殿下はシトレイシア様のの好みは把握しているのですか?」
「........」
........正直に言えば、全く知らない。
女ならば煌びやかな装飾品でも渡せば喜ぶだろうと安易な発想で宝石店を選んだが、シトレイシアが装飾品の類いで華美に着飾っている所を見たことがない。
いつも必要最低限の、王族の婚約者にしてはあまりにも質素なイメージだ。
眼鏡を贈った時は嬉しそうにしていたが、あれは実用性があったからだとふんでいる。
「駄目だ、店を変えるぞ」
「あまり勝手に
「父上には外出の旨を話してあるし、馬車には護衛もいるだろう?....それに、」
自惚れなどではなく、俺とジキルなら暴漢など容易く排除できる。
「頼りになる現宮廷魔術師殿が隣に居るからなぁ」
それこそ、宮廷魔術師の一人でも連れてこない限り傷一つ負うことはないだろう。
そう言うと、ジキルは満足げに目を細めた。
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