第10話
朗報、思ってたよりなんともない。
リフ先生に渡された指輪から持続的に魔力が吸い上げられていくのは感覚的に分かるが、長い講義が残り半分に差し掛かるぐらいには時間が経ったというのに魔力があまり減った感覚がない。
たかだか三ヶ月程しか魔力量を増やす訓練をしていただけなのに、思っていたよりもシトレイシアの魔力量は増えていたらしい。
とはいえ、この世界にはどの魔術に適正があるかを調べる魔術具はあるものの、魔力量を量る魔術具はないのでリフ先生が寄越したこの指輪のように魔力を吸い上げるタイプの魔術具で魔力が枯渇するまで吸うか、もしくは他の方法を産み出すしか測定方法は無いわけで。
"リフ先生も見かけによらず強引ですこと"
全く同感だ。
多分若い頃は気になる女の子ができたら直ぐ様告白しに行ってたタイプだなあれ。
そんな風に頭の中でシトレイシアとあれそれ会話をしつつ、指輪の魔方陣の解読をしているうちに気付けば講義は終わっていた。
さて、どうしたものか。
指輪について問い詰めるのもいいがリフ先生に自分の有用性を示すためにこの指輪を弄るのも良い案だと思う。
シトレイシアも俺もリフ先生に魔術について聞きたいことはあるわけだし、魔術を教えるに値する人間だと示すために後者の案を採用した。
解析して分かったが、使用されている魔石は魔術具に使う魔石としてはかなり小さいにも関わらず純度が高く、その純度のお陰でなんとか魔方陣を書き込めている。....っぽい。
魔方陣をよくよく見てみれば軽減や軽量化の文字も並んでいるのでこれを作った人は、多分意地でも小さい魔石を使いたかったか己の技量の限界を試したかったかの二択だろう。
どちらにせよ、技量の計り知れない精巧さと同じレベルで使いづらさしかない魔術具にはかわりないが。
まぁ、魔石に敷き詰められた馬鹿みたいに複雑な魔方陣の模様からするに俺達の技量じゃ失敗する確率の方が高いし、普通ならまず完成された数少ない魔術具に手を加える輩はまず居ないがやる気ぐらいは伝わるだろう。
失敗したらそのとき考えよう。
何?貰い物を粗末にするのはどうかと思う?
残念と言うべきか嬉しいことにと言うべきか、指輪は"貰った"のだからどう扱おうが俺達の勝手なのだ。
"とてもためになる授業でした"と、リフ先生に深々と一礼し放課後に指輪を弄るのが楽しみだと小さく笑みを浮かべながら教室から移動した。
今日は
「そうだ、ルーカス待たせてるんだった」
王族相手に予定をすっぽかすだなんて例え婚約者であろうとも非常にマズイ。
完全に頭から抜けていたし、なんなら帰宅準備を終えてしまった現状に冷や汗をかく。
帰る前でよかったぁ!
"は、はや、ハヤト様悠長に安堵している暇があるのなら早く殿下の元へ向かってくださいな!"
精神というか、心というか、曖昧な感情部分と脳に直接響く声がシトレイシアの焦りもひしひしと伝えてくる。
この様子からしてシトレイシアも殿下のことが頭になかったようだ。
シトレイシアにのって殿下との約束事は最優先事項だというのにリフ先生の講義や物珍しい魔術具に夢中になって忘れるのはシトレイシアらしくない。
俺も俺でシトレイシアの身体を借りているというのに自分の気になっていることに意識を割き過ぎたのはいただけない。
シトレイシアの身体で生活する以上、シトレイシアの意識が生きている以上、俺は居候している異物なのだから
俺とシトレイシアは反省会を開きながら軽く身体強化の魔術を脚に掛けて全速力で走り出した。
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