転生先の悪役令嬢がかなり好みの子だった件

leito-ko

第1話

ここにドでかい全身鏡に映った自分の姿、主に顔面部分を凝視する御令嬢が一人。

頬に手を当て、様々な角度から自身を見つめては感嘆の声を洩らしていた。


「うっわ....美人過ぎるやろこの子...」


ナルシスト?

否、何を隠そう御令嬢の中身せいしんは転生した男子高校生のものであり、彼女....彼は転生先の容姿に見惚れているだけなのだ。

断じて身体の元の持ち主である御令嬢はナルシストではない。


事が起きたのはたった数十分前。

通学路にて飲酒運転をしていたトラックに轢かれ、気が付けばこの有り様だった男子高校生の颯斗はやとは、見知らぬ部屋と自分のものではない身体に戸惑い、部屋にあった金の縁取りが美しい全身鏡で姿を確認した。

それからというもの、ずっとこの状態。


「え~....ほんま俺の好みドストライクやんなにこれ」


鏡に映る御令嬢は、腰まで伸ばされた艶やかな黒に近い深い藍色の髪、つり目気味の鮮やかな青色の瞳と抜群のプロポーションを持っていた。

背丈も少し平均より高く、細かい所作から知的さを感じさせる雰囲気は颯斗からすれば好みの女性そのもの。


これは如何なものか。

何故俺は今この瞬間この女性を口説きに掛かれないのか。


転生した事実よりも目の前の女性、もとい自分の身体のほうが優先順位を上回り、彼は大切なことを忘れていた。


「シトレイシア御嬢様!起きておられますか?朝食の準備が整いましたので準備が終わり次第食堂にお集まりください」


こんこん、と扉を叩く音と共にこの身体の女性を呼ぶ声が掛けられた。

シトレイシアって言うのか、清楚で美しい名前やなぁと惚けたのも束の間。

颯斗は思い出した。


魔術の名門ウィスダム家に生まれた物静かな令嬢。

シトレイシア・ウィスダム。


............この子、妹がやってた乙女ゲームの悪役キャラでは...?と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る