第21話 最悪で幸せな日
私の顔は美しい部類だったようです
「……おかあさん」
母の服の裾を掴む幼い手
「ひっ…なあに…?」
いつも、いつも おかあさんは私に怯えている
呪いがいつ発動するかもわからない時限爆弾のような娘に殺されるのではないかと…
名前はつけて貰えなかったが両親に愛は…あったはず
でなければ直ぐに私は殺されていた
……まあ…そう思わないとやっていられませんでした
…4歳になる頃私は魔獣の出る森に捨てられました
子ども心にも死んだ、そう思いましたね
飢えて死ぬか魔獣に喰われて死ぬか…
怯えていたところに……クロス様が現れたのでした
「呪われた娘よお主を魔族として召し抱える」
「めし…?ごはん?」
その言葉を聞き少し微笑む
「……。そうだ、ご飯をいっぱい食べて大きくなれ」
頭を撫でながらそう言った
初めての仕事は簡単
ご飯を食べる、運動する、お風呂に入る、寝る
以上
なぜだかわからないが
クロス様は私を人の子として育てようとしていた気がする
…私は魔王の庇護のおかげで魔族の中でもやっていけていた
いじめられはしたけど…まあ、仕方ないですよね
大きくなっての仕事は
クロス様の奥様、エマ様の身の回りのお世話
最近妊娠されたらしくお腹をさすって微笑まれている
…それを見ていると、とても羨ましい気持ちになる
こんなに優しい方々に望まれて生まれてくるのだ…さぞ幸せだろう
…………
日に日に大きくなるお腹…
そして……
「…んぎゃぁぁ」
「1000年に一度生まれるかどうかの強大な力を持っておられます!!」
生まれたのは美しい男の子…名をクロエ様…
「…………。」
優しいエマ様の子ども……嬉しいはずなのに
どうしてこんなに…苦しいのだろう
この子は…愛されて育つのでしょうね…
…どろり…
「……はっ」
私は……何を……
あんなに可愛いらしい赤ちゃんに嫉妬しているの…?
なんて、嗚呼なんて醜いのかしら!!
人でも魔族でもない私が……嫉妬…なんて…
「…ゃ…む……シャルム?」
「……はい!!」
クロス様につけて頂いた名前を呼ばれると
美しい顔がそばにある
「大丈夫?顔色が悪いわよ……?」
エマ様……
「大丈夫です!お身体に障ります…おやすみになってください……!」
部屋を出て鏡を見る
私は……
鋭い目付き…
顔は…整って…いるの?わからない
唯一綺麗なのは金色の髪くらい
……呪いなんて本当に発動するのかしら…
発動してしまったらどうなるの?
……私がおかしくなってしまったら…クロス様達は私を殺すのかしら
嫌な考えを振り払いながら毎日を過ごし
クロエ様が生まれて4年がたった
私が捨てられた時と同じ歳…
はあ、とため息をつく
「大丈夫か?シャルム…」
「クロエ様……」
大人に囲まれているからか、齢4歳にして大人びた子に育っている
エマ様やクロス様に似てとてもお優しい
昔のドロドロとした嫉妬と言う感情もなく
ただただ、一つ一つの成長が嬉しく…私は
胸が温かくなり
そして
こんな方たちといられてなんて幸せだろうと思った
「大じょう……ぁ…れ…?」
大丈夫です、そう言おうとしたが喉に違和感があり はくはくと口を動かすが言葉が上手く出ない
足元がふらつきクロエ様の心配の声が遠くから聴こえる…
そしてすぐに
視界が真っ赤に染まった
「〜〜〜っ!!!」
目が燃えているように熱い
……熱い…?違う……!
「あぁぁっいたい…いたいぃ」
酷い頭痛と皮膚が裂けるような痛みに膝から崩れ落ちる
「シャルム!!?」
エマ……様……
ここで私の記憶は途切れた
「……う」
目元に違和感を覚え
自室で目を覚ます、光は感じるし見えている
「……なんだ、夢だったのかな…」
そう思ったが、瞬きをしようとすると瞼が閉じられない
「……え?」
おもむろに 顔に触れる
べた…何かが頬についている
赤い液体
「……血?」
背筋が凍る…
しかし、匂いを嗅ぐがそうでは無いらしい
……そしてもっとも重要なこと
「……あ」
鏡をみて驚く
髪の色はくすんだ金色になり
両目のあった場所から大きな角が生えていて血のような液体が溢れている
バケモノ
「これが…呪い……?」
でも、顔以外ほぼいつもと変わらない
魔力も…能力も…
悔しい思いが溢れると涙ではなく赤い液体がドロドロとこぼれる
呪いが発動した理由は…
幸せを感じたから…………?
ただ、これで私は人では無くなり…やっと魔族になれた
…ま、そんなことは今はどうでも良くて
「……クロエ様が泣いてしまわないかしら…?」
目の前であんな…
トラウマになってしまっていないかしら?
変わってしまった自分の見た目よりもクロエ様達のことを考えてしまう
「…おかしくなって暴れなかっただけマシね」
思いのほか楽観的にいると
「シャルム!!!」
慌てたようにクロエ様が部屋に入る
「……大丈夫かい!?」
「クロエ様!大丈夫なのですが…」
「ど、どこかいたい?!大変だ!」
私の顔を気にすることなく心配してくれているので少し申し訳なくなる
「痛くないです!姿が変わりましたので…クロエ様方がご気分悪くならないかと…」
「なぜ気分が悪くなるんだ……?」
「…顔が…恐ろしくありませんか?」
目から角、そして赤い液体!
「全然、恐ろしくないよ?…怒った母上の方がはるかに恐ろしい…」
思い出したように身震いする
「あのエマ様が……怒る……??」
「若い身体の喜びで森を走り回って遅く帰ったら…鬼のようだった……」
まあそれも子を心配する親心…
正しい注意だ…
だが、
「いやホントに怖かった……」
思わずくすりと笑ってしまう
「子どもは…クロエ様は元気が1番です…よね?」
「うん、ありがとう!シャルムはいつも優しくて綺麗だね!」
……どくん、
心臓の鼓動を久しぶりに聞いた気がする
き、れい?わたしが?
「……冗談はおやめ下さい…」
「冗談ではないよ?シャルムは優しくて綺麗だ」
ああ…嘘でもいい、心からでなくてもいい……でも、
なんて、なんて真っ直ぐで綺麗な瞳……
初めて綺麗だと言われた…
初めて……魔族として生きられて良かったと思った
お母さん、人の世界を捨てさせてくれてありがとう
「私は…恩を返すためクロス様、エマ様、クロエ様に全てを捧げます……」
胸に手を当て膝をつく
「シャルム?」
私はこれで…ひとりじゃない
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