第12話 不安の種

もしもの話、裏で手を引いている者が話の通じない上級魔族ならば


また戦争がおきるかもしれない


それだけは……それだけは避けなければ…


ズキズキと、もう痛むはずのない左脚が疼く


きっと……異世界でも同じはずだ

苦しみ悲しんだ魔族が…人がいたはず


もう……誰かが死ぬところなんて見たくない…



『なあ、黒江くん…』


……きみは…あなたは…


ぼんやりと霧の中から現れる涙ボクロのある男性

懐かしい、いや……無事だったんだ…!!


その人に駆け寄ろうとする



『どうしてあの時僕を見捨てたんだい?』


………………あ。


ピタリと歩みが止まる


その人は微笑んでいる…あの時のように……


あの、とき……?


止まらない血…失われる体温と瞳の光……

嫌な記憶が蘇る


『お前のせいで死んだんだ』


ああ、この人には、言う権利がある


私はただ、懺悔することしか出来ない


…ごめん……


『お前のせいだ!!!』


私の言葉を遮り響くのは私を責める怒りの声だった


___




「は……」


……また、か


べっとりとした感覚…酷い汗と涙だ…


…いつまでもこの夢に悩まされる


大切な友人の死……

忘れるな、そう言いたそうな……


「ワシのせいだ……ごめんよぉ」


顔を覆いベッドに蹲る形になる


「……っ」


コンコン

唐突に扉をノックする音

シャルムもヴェルデも来る時間ではない


「昨日の報告をしに来たケイトだぞー」


あ、うっかり忘れていた


昨日、遅くまで上級魔族を調べていたんだった……


ばたばたと身を整える


「ああ!すまんの!入ってくれ!」



___


「で、報告するとぉ。2人の鳥の魔族のことを知っている者も見た者もいなかった」


「……ふむ、それはおかしいな」


2人は上級魔族の住処へ行っているのだから見ないはずもあるまい


「嘘を言っている可能性もあるぞ?しかしそれにしては、みな巧妙だ」


巧妙……?


「自然すぎる!知らぬ存ぜぬでは無く…知っている情報を織り交ぜながら分からないと言ってくるときた!」


もしかしたらボロが出るかもしれないのに


「恐ろしい……絶対に自分だとバレないと言う自信があるんだと思うぞ」


ふむ


「……そこまでして隠したいものでもあるのか……?」


「…そんなの、魔王クロエを信頼するものをじわりじわりと外から消していって自分たちが魔王になる…そんなことに決まっているんだぞ」


…………。


一瞬言葉を失う


「ワシのせい?」



「そういう訳ではないと思うぞ?」


すぐさま否定してくれたが

ただ…と続ける


「クロエ殿には威厳が無いって言ったよね」


「ああ」


「ほんわかじゃだめ。あと、魔王はここぞと言う時に纏っている魔力で他の魔族達に有無を言わせず指示を出すことが出来る……」


なぜかおおきなため息をつく


「クロエ殿さぁ…魔力の制御出来てないぞ」


「……え」


制御、とは?


「ずーーーーっと大量に垂れ流し、その証拠に服に纏っているその炎!それ制御できてない魔力ね」


えええーーーー!?


長年の謎が今とき明かされた……だと?!


「生まれるか生まれないかの逸材だからそれでも生きてこられたけど…普通は死ぬんだぞ」


「そ、そうだったのか……」


「誰も教えなかったのかぁ…基礎中の基礎だからかなぁぁ…」


わざとだと思ってたのかーー?


ケイトは頭を抱えている


「……とりあえず…鳥の魔族のことは……」


バリィィン


唐突に窓ガラスが吹き飛ぶ


「大きな、魔力、反応、ここっ!!」


短髪の少女が窓ガラスを割った

少女?否、

腕の代わりにあるのは大きな翼


脚には鋭い鳥の爪


「あ、鳥の魔族…あいつか!!?」


「ここに!?なんで急に!」

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