猿と糞

芋鳴 柏

猿と糞

一つ言えば、言い訳ではない。

これでも私は、真摯に向き合っているつもりだし、いつかは大成してほしいとは願っている。

だが、だがどうしても投稿するということに嫌悪を感じる。

まるで自分だけが持つ宝物を切り分けて、見知らぬ誰かに晒すような、ある意味で存在を晒しているように思われて仕方ない。

そんなことを考えていても、実際のPV数は伸びやしないし、読まれもしない。


人の数だけ作品がある。

カクヨムにアカウント登録する事情が読みたいからであれ、書きたいからであれ、いつかは作品の一つや二つぐらい書くだろう。

日々更新されていくような、取るに足らない作品群の中で、そのいくつが読まれるに値されて、もしくはそのまま沈んだっきり、日の目を見ないのかも分かる話だ。適当に、うろつくだけでも文章力に輝くものを感じたり、そこらの書籍よりも鋭いものを書く人間だってごまんといる。

レベルが高い。高すぎる。

なぜこうも読まれもせんのに、書き続けられるかがいささか理解できない。

何が顔も知らない物書きの筆をかり立てるのか。


実の事を言えば、期待していた。

もう少しばかり、読まれるもので自分は少しばかりは書くことに長けていると思っていた。

褒められたことは文章だけだった気もするし、これからの長い人生でもそれだけだろうとばかりに思っていた。

だが、どうだ。

カクヨム、なろう、世間からは軽く見られるような中でさえ、才のある書き手が吐いて捨てるほどいる。自分が入り込む余地もない。なんなのだ、これは。

舐め腐っていたと言えば、それまでだが、文章しか褒められたことない連中が自分以外に大勢いたことにこの嫌悪を感じるのだ。

似たり寄ったりに宝物を、まるで塵の展覧会のように並べ立てているような様を見るとこんなものだったのかとも考えられるし、塵に敬意を払わなければいけなくなった。

塵だけれど、塵ではない。

たしかにすごい力を入れているなと考えられるものはあるけれど、無論読者数も伸びていない。ようは、読まれるには値しなかった。

読み手は気まぐれで、非情で享楽的だ。人間臭いことこの上ない。

いくら力をかけてもタイトルでつられれば、イラストで即買いする。中身を見やしなくても応援のためと♡を付けていく。相互に自分もそうせざる得ない。

えっちなものに鼻を伸ばしてついていき、飽きたら当然のように放り捨てていく。

書いているのも嫌になるし、今書いているものだってサル山に石ころをぶつけるだけではないか。自分で読んでもうーんとなるものを投げつけても面白くもない。

もっと、こう、文学とは崇高なものであるべきだろう?

崇高なものを自分は書いているつもりもないとなれば、そういった所に収まるのだろうがいかんせん好きじゃない。

もとより、文章を書こうとする人間が真っ当であるはずもない。

サル山につられて石をぶつけて、反応を愉しもうとする人間がひねくれてはいないと何をもって言えるだろう。所詮私も、自分の書いたものを読んで貰って、鼻を伸ばしたがるような猿なのだ。

猿の承認欲求と、隙間時間の適度な娯楽の相互供給によってうず高く積み重ねられていく糞の山は、とどまるところを知らない。


私は、言い訳をしたいわけじゃない。

中々に自信のあるものを読まれていなからといってこき下ろしている訳じゃない。

というか見れば分かるように、読まれる程に書いていない。

長編の書き方を調べたわけでもなし、かといって熱心な宣伝も売名をするつもりもない。努力しようとは微塵も考えていない。十万字を書く覚悟もない。

私は、サルだ。

所詮投げつけるのは糞だけだ。

それで悪いか、どうなんだ。


あまりに悲しい。

寂しいじゃないか。

今のご時世に読書を趣味とする人間が、どれほど内向的で現実では吹いて飛ぶような塵みたいなものかも知っている。

ましてや、黒歴史となっても仕方のないものを書く人間などは、友人に恵まれず、生涯きっと日陰者だ。きっとそれ以上の塵だろう。

だが、人間はみな猿だ。人臭いのは治しようもなければ、どうしようもない。

塵に同然の私たちが、猿のように群がって糞をなげあったってどうしようもない。

塵から塵を、糞から糞を練り込んでも。

私は、猿じゃない。

同じように糞を練り込んでいるとは信じたくない。まわりの塵の方がよりいいものを書いている事も認めたくない。糞を練り込む度胸も無ければ、猿山を去る自信もない。

作品は、宝物であるべきだ。

本当は、自分の寂しさを紛らわすための宝物を、自分の存在を塵だ糞だと罵りたくもない。

みんなきっと、同じように、人間であっても猿だろう。

だからこれは言い訳じゃない。

よりいいものを書いて見せる。

塵だろうと糞だろうと、見るに値しないだろうと構うものか。

見なければ見なくても構わない。どうせ、PV数は伸びもしない。

俺は宝物を、宝物にしてみせる。

少しは猿でも唸らせるものをきっといつか、書いて見せよう。


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