08.はじめてのクエスト

 一夜が明けて、悠介とまつりは再びギルドハウスを訪れた。言わずもがな、クエストを受けるためだ。

 

「おはようございます、ランドルフさん」

「おう、おはよーさん。随分と早く来たなぁ」

「あはは、習慣なもので。クエスト、何か来てますか?」

「ボードに張ってあるぜ。常設もあるから、何にも無いってことはねぇよ」

 

 くい、と親指で指し示された掲示板には、所狭しと依頼書が張られていた。その中からFランクのクエストを探す。

 Fランクのクエストは、薬草や素材の回収といった地道な内容のものが多いようだ。とりあえず今ある二枚を取った。


【Fランク依頼】

内容:採集

対象:ダイルの葉

個数:一束十枚×五束

報酬:一束大銅貨一枚 計大銅貨五枚

 

「大銅貨五枚……五百円か。ダイルの葉は、っと」

 

ダイルの葉

草原に多く頒布。

HP小回復

ポーションの材料の一つ

 

 解説とともに画像も表示された。露草のような見た目のそれには、黄緑色の花が咲いている。

 

「ポーションの材料か……いくつかストックしといた方がいいかな?」

「あ、でもポーションの作成には『調合』スキルがいるみたいよ」

「……今後に期待しようか。『料理』みたいにやったら解放されるのかもしれないし」

 

 やってみないと分からないけれど、スキルが獲得できなかった時は売ればいいだけの話だ。

 そしてもう一枚の依頼書を見ると、こちらも薬草採集だった。

 

【Fランク依頼】

内容:採集

対象:ジオレの実

個数:二十個

報酬:大銅貨二枚

 

ジオレの実

木の実。日当たりがよいほど多く生る。

HP小回復

ポーションの材料の一つ

 

 

「これも回復か……常設クエストみたいだし、しばらくは採集系で地道に経験値稼ぎ?」

「だね。ああでも、このスライムのクエストなら私たちでもできるんじゃない?」

 

【Eランククエスト】

内容:増殖したスライムの相当及び回収

区域:クベーニュ村西南、森の手前の野原

報酬:討伐のみ…小銀貨一枚 スライム一体毎に小銅貨一枚追加

 

「小銀貨一枚だから、千円か。で、スライムが十円……子供のお小遣いみたいだね」

「Fランクなんだしそんなものだよ。スライムは倒せば倒すほど経験値も貯まるんだから、一石二鳥じゃない」

「まあ、危なくなくていいか。じゃあ、薬草採集クエスト二つとこのスライムを受けるってことでいい?」

「異議なし」

 

 なんだか男らしい返答に、悠介は笑って依頼書を三枚取った。

 

「決まったかい?」

「はい。このクエスト三つ、受理お願いします」

「おう。……ふむ、常設に定期か。ちいっと物足りないんじゃないか?」

 

 ランドルフが意地悪く口角を上げる。

 わかりやすい揶揄いに、悠介は苦笑いして手を横に振った。

 

「僕らはまだFランクですから。地道にコツコツ頑張らせて頂きます」

「ふぅん? まあ、お前らならすぐランクアップするだろうさ」

 

 そういって、ランドルフはとん、と依頼書に受理の判を押した。

 

 クエスト受理をしかと見届けて、悠介たちはひとまずスライムの討伐と回収に、村の西南に足を向けた。

 

 


 

 

 村を出てしばらく道を進むと草原が広がっていた。その奥には森がある。依頼書通りの場所だ。

 

「あの森、後で入ってみない?」

「いいわね。なにか採集できそう」

 

 サクサクと草を踏み分けながら歩いていると、遠目に青い影がちらついた。

 

「お、スライムみっけ」

 

 悠介が先手必勝と腕を突き出す。

 人間に気付いたスライムが体当たりの耐性に入った。

 

「まずは試しに……ファイヤーボール!」

 

 声高に叫ぶけれど、火の玉が出る気配はない。

 予想してたとはいえ恥ずかしくて動きを止めると、スライムが腹にぶつかる。

 

「いっ! たく、ない……」

 

 体当たりは、水風船がぶつかった時のような衝撃に似ていた。

 とりあえずと自分のステータスを確認するしてみる。


 


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二階堂悠介 レベル1

HP 730/738

MP 609/634

種族/人間

職業/警察官・冒険者

所属/警察・ギルド『レッドグリフォン』

冒険者ランク/F

属性/火・水・雷・地・風

スキル/『情報収集』


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 HPだけでなく、MPも少し減っている。


「魔法、失敗してもMPは減る、ってことか。ダメージは……8って、弱いなぁ」

 

 なんとなく可哀想に思いながら、悠介はスライムにナイフを突き立てた。手応えはなかったが、スライムが風船のように弾けて萎む。

 

EXP+1

 

(さすがスライム、経験値少ないなぁ。レベルアップまで時間かかりそう)

 

 そう思っていると、パチン! とまた破裂音が響く。

 見れば、まつりが仕留めたスライムの残骸を手に何とも言えない顔をしていた。彼女も同じことを思ったのかもしれない。

 

「大量発生ってことは、まだいるはずだし。がんばろう?」

「……うん」

 

 頷きながらも、まつりの顔は晴れなかった。

 スライムの残骸は袋に詰めて、またスライムを探しては攻撃、回収を繰り返す。

 何度かスライムからの攻撃を受けながらも二人で四十体ほどを倒してようやく一度レベルアップしたが、魔法はついぞ発動しなかった。

 

「レベル2、魔法は全滅、か……。レベルアップで解放されるとしたら、スライムの討伐だけだとやっぱり厳しいね」

「ね。でも、ひとまず掃討はできたし」

 

 後は、ギルドに報告して報酬を受け取ればクエストクリアだ。

 ぱんぱんに膨らんだ布袋の口をしっかり閉めて、少し奥の森に足を向ける。

 ワームが棲み着いていた森とは違って、この森はよく日の差し込んで明るかった。

 

「ここ、ジオレの実採れないかなぁ?」

 

 『情報収集』の情報を思い出す。でこぼこした橙色の皮を持つらしいジオレの実は、日当たりが多いほどよくなるとあった。

 

「ここでもう一個クエストクリアできたらラッキーだよね」

「それは……あ、あれじゃない?」

 

 言いかけたまつりが指を差す。その先にはたわわに果実を実らせた木があった。木の背は高いが、金柑に似た実がサクランボのように生っている。『情報収集』が提示した実を縮尺したようなそれに触れてみると、『情報収集』がジオレの実だと教えてくれた。

 

「ジオレの実ゲットー。何個いるんだっけ?」

「依頼は二十個だから、これ一本で十分集まるわね」

「じゃあ、ストック用にいくつか余分に貰っていこうか。……と、その前に」

 

 ぱくん。悠介は一つジオレの実を口に含んだ。

 ステータスの残りHPが10増える。

 

「一個につき10回復か……この分だと、ダイルの葉も回復量は同じかな?」

 

 今のところはHPもそう多くないし、あって困ることはないだろう。

 悠介はあと二つジオレの実を食べて、体力を全回復させた。

 持ってきた布袋はスライムの残骸でぱんぱんなので、まつりのハンカチを借りて二十個包む。ストックの分は悠介のハンカチに包んだ。

 

「荷物増えすぎたし、いったん村に帰ろうか」

「了解。あ、私も持つよ」

「ありがと」

 

 そうして、ここでの成果を手荷物に、悠介たちは村への道を辿るのだった。

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