03.異世界との遭遇
@3
「……ナンデスカ、コレハ」
「大蛇……いえ、
「毒っ⁉」
悠介の叫びに呼応するように、
触れる前に飛び退き、距離を置いて銃を構える。
「ゲームの序盤って普通スライムとかじゃないの⁉ いきなり
「そんなわけないでしょう、どんな鬼畜ゲーですか」
「そんな冷静な突っ込みはいらないから! 弱点! 弱点何かないんですか⁉」
言い合っている間にも、
巨大な体躯の割に俊敏な動きを見せ、人の頭よりも長い牙を剥き出しに飛びかかってきた。
何とか避けたはいいものの、
咄嗟に腕でガードの姿勢はとれたものの、強すぎる衝撃に悠介は茂みの奥に吹っ飛ばされる。
「ってぇ……!」
腕は痺れているが、骨が折れた感じはしない。痺れた腕をさすりつつ、悠介は息を潜めて
(佐々木さん……も、よかった、無事だな)
まつりは少し離れてはいるが、同じく茂みの中にいた。彼女も吹っ飛ばされたのだろう。
それにホッと安堵の息を吐いた時、視界の下端に異物が入り込んだ。
悠介の視線が下りる。
「っ⁉」
ざっ、と血の気の引く音がした。
茂みにあったのは、人間の腕だった。けれど、もう二度と動くことはない。
服に袖を通したままのその腕は、肘から先がなかった。あるのはただ、獣に食いちぎられたかのような切断面だけ。
(
食いしばる歯がぎちりと音を鳴らした。
この腕は、
この辺りが静かだったのは、生物が姿を見せなかったのは、人間を警戒していたわけじゃない。
(冗談じゃない……)
そうだ。冗談じゃない。
これは紛れもない現実なのだ。
今、自分たちは捕食されようとしている。
諦めれば、死あるのみ。
(諦めてたまるか……この
悠介は拳銃を構えた。
「っこんの……でかい図体してるからって調子に乗るなよ!」
一発。二発。立て続けの発砲とともに響く大きな破裂音。
見た目より素早いとはいえこの巨大な体躯で銃撃から逃れることは不可能だ。
怯んだ
続けざま、まつりも銃を構え発砲した。銃弾が、
凶暴性は上がったが、片目を失った分動きに隙が増えている。
「二階堂くん、頭! 頭を狙って!」
叫ぶまつりの声を聞きながら、悠介は引き抜かれた木杭を掴む。
右手に銃を構え、距離を取りつつタイミングを計った。
下腹部の皮は比較的柔らかいようだが、表皮は鉄色の鱗が隙間なく覆っている。金属に近い音を響かせて跳ね返された銃弾に、まつりが慌てて
彼女がいたところに
(でも……)
まつりは奴の視界にいない。
(タイミングさえ間違えなければ、何とかなる……!)
悠介はもう一度発砲した。
銃弾を眉間の鱗で跳ね返した
その口に悠介は木杭を突き立てた。口を閉じれなくなった
下腹より柔らかい口内に銃弾を食らった
「っ二階堂くん!」
動かなくなった
怪我はないかとしきりに心配する彼女を大丈夫だからと宥め賺して、悠介は改めて息絶えた
巨大な蛇の体躯は道をはみ出し、路傍の草花を押しつぶしている。
「一回しかブレスを使ってこなかったのは幸いだったね」
「本当に。スキルとかと同じで、チャージタイムがあるのかしら。……でも、これでこの世界は安全ではないってことはわかったわね」
決して喜ばしいことではないが、危険性を認識しているのとしていないとでは対応にも差が出る。前以って警戒できるのは不幸中の幸いだろう。
二階堂はもう一本木杭を手に、先ほど自分が吹っ飛ばされた茂みに踏み入った。
持ち主を失い、腐食した腕。実際対峙したからこそ、この腕の持ち主が生き延びられているとは考え難かった。
木杭で地面を穿ち、穴を掘る。
追ってきたまつりが腕に息を飲んでいたが、すぐに気を落ち着けて手伝ってくれた。
土を被せ、せめてもの墓標にと拳大の石を置く。
それだけしか、二人にできることはなかった。
「……この
もし本当にゲームのような世界なら勝手に消えてくれるのだろうが、ここは現実世界。そんな気配は一向にない。このまま放置してしまっては交通の妨げになることは明らかだった。
「売れるかもしれませんし、鱗と皮は採集しておきましょう。売れなくても、加工すれば何か装備が作れるでしょうし」
「なるほど。この鱗とか、かなり頑丈なものが作れそうだもんね」
銃弾を跳ね返すほどの強度を持った鱗だ。きっと何かの役に立つ。
悠介とまつりは頷き合い、苦戦しながらも持てるだけの素材を採集すると、亡骸はひとまず道の脇に退けて先へ進むことにした。
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