第6話
電話の鳴る音に、誠治はおやと顔をあげ、時刻を見る。最近誠治に電話をかけてくる相手といえば、センリくらいだ。しかし彼女はこんな時間に電話をかけてきたことはない。珍しいと思いながら、誠治は誰がかけてきたのか確認もせずに電話に出た。
「なんだ、こんな朝早くに」
『あれ、誠治。私はいつもこれくらいの時間にかけてたと思いますけど?』
聞こえてきた声に、誠治は冷や汗が吹き出た。
「姉さん?」
『そう、遥ですよ。誠治、元気ですか』
「まあ変わりなくだが。あー、姉さん、何の用で?」
『ああそうね、手短に話をすると、私結婚することにしました。それで結婚式をやるから、あなたも来るようにという話です』
そういえば、姉である遥には恋仲の男がいて、そろそろ結婚するという話を以前聞いた気がする。随分前にその話を聞いたが、ようやく彼と結婚する気になったようだ。
「そうか。おめでとう。結婚式はどこでやるんだ?」
『■■様の計らいでアライズでやることになったから、あなたからしたら県外ね。式は大体十一月頃にやる予定だから、そのつもりで』
「わかった。あけておこう」
話の前半が聞こえづらかったが、その内招待状も来るだろうと流して聞く。
『それとあなた、最近お付き合いしてる女性はいる?』
「いや、いないが」
『そうですか。もし結婚式当日までにそういう方がいないなら、私の知人を数人紹介させていただきます』
「は?」
唐突に何の話だと思っていると、遥が話を続ける。
『あなたが結婚とかは積極的に考えていないのは知っていますが、それでも一応小山田家の長男ですから、跡継ぎを作る姿勢くらいは見せてほしいという話です』
「姉さんの息子とか娘じゃだめか」
『もし今後生まれればそれでもいいかもしれないけど、おじさんやおばさん達はあなたの子どもが望ましいと思ってるでしょうし、それこそある日嫁を送ってくるかもしれませんよ。母さんみたいに』
「ぐっ」
『であれば、多少なりともあなたを知ってる私が見繕った人の中からいい人を探す方がまだ安パイでは?』
「それは否定できんが、しかし」
『それが嫌なら、当日それなりに仲の良い女性を連れてくることね。あなたにそういう意思があって相手を自分で探しているとわかれば、あの人達も文句は言わないでしょう』
つまり、親戚が集まる場でそれなりに紹介できる人物を連れてこないと見合いが次から次へと舞い込むという話をしたいのだろう。
「いっそ養子とかじゃだめか」
『それであの人達が納得すると?』
「……しないだろうな」
『でしょう。なので、もしいい人ができたら連絡してくださいね。その人の分の招待状も送りますから』
そう言って遥は電話を切った。こちらも電話を切って、誠治はため息をつく。
朝から嫌な電話がかかってきたものだ。
「姉さんは相変わらず」
ひとりごとを呟き、再びため息をつく。
しかし、ため息ばかりついても仕方ない。何か対策を講じないと、電話で彼女が言っていた話が現実になってしまう。
悩んだ結果、誠治はセンリに電話をかけることにした。
『はいはい。小山田さん、何かあった? 電話かけてくるなんて珍しい』
「少しあってな。お前、今日一日あいてるか?」
『今日はお休みだから大丈夫だけど』
「そうか。少し頼みたいことがある。うちの近所にマルカって百貨店があるんだが、ひとまずそこに来てもらっていいか」
『はいはーい。支度にちょっと時間かかるから、十一時くらい集合でいい?』
「ああ」
電話を切り、誠治はもう一度ため息をつき、自身も支度をするために立ち上がった。
電車で十五分ほどのところにある百貨店に着き、そこでセンリと落ち合い、まずは事情を説明した方がいいかと、昼食がてら適当な蕎麦屋に入った。
「それで、なんで急にデパート?」
「実は、姉が結婚することになった」
「はあ。おめでとうございます?」
「それは直接伝えてやってくれ」
「え、この後いらっしゃるとか?」
「いや違う。話を戻すが、姉に結婚式に呼ばれたわけだが、そこで女を紹介してやると言われた」
「で、紹介されるのが面倒な小山田さんは、彼女くらいいると言ってしまったと?」
「そんなことを言っても嘘になるし、逆に面倒が増える」
見栄を張っても不思議と姉には見破られる上、更にそんなこすいことをするなと説教までされる。ならば最初からそんな無駄なことはしないに限る。
「とりあえず、女の知り合いくらいはいるということを周知するために、お前を連れて行こうかと」
「それ私が断ったら破綻するやつじゃん」
「十一月頃に県外でやるそうだが、場所的には日帰りできる。必要なものについては俺が金を出すし、なんとか都合つけられないか」
「……まあ行くのはいいけど、知り合いでいいの? 彼女ってことにした方がよくない?」
「付き合ってもいないのに恋人だと紹介するのは嘘になる。姉はその辺を見抜くのがうまいから、当日面倒なことになりかねん」
「じゃあ実際に付き合っちゃえばいいんじゃない?」
センリの言葉に、誠治は目を丸くする。
「いいのか」
「こっちは今のところフリーだし、別に小山田さんみたいなの嫌いじゃないし、いいよ。あとは小山田さん次第」
「そうか」
「お待たせしました、釜飯御膳です」
ウェイトレスの声が聞こえた気がしたが、誠治は気にせずそうだなと頷いた。
「じゃあ、付き合うか」
「うん、よろしく。あ、お姉さん、釜飯はこっちのお兄さんのだから」
「は、はい」
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