第12話 新しい仕事

「……お前、休日は何している?」


「はい?」


 涼音の素っ頓狂な質問に、芽生は気負っていたものが崩壊しかけた。


「休日? え、っていうか社長、今の私の話聞いていましたよね?」


「聞いていたと言っているだろうが」


 涼音はむっとした顔をして、芽生が掴んでいないほうの手を伸ばすと、芽生の頬をむんずと摘まんだ。


「ちょっと放してください。セクハラです!」


「じゃあ訴えて俺から金をもぎ取るか? まあできないだろうな、お前ほどのお人好しじゃ」


 芽生は頬を掴まれた腕を引っぺがした。


「休日は家にいますよ。家事をしたりするだけです。夜はたまにバイトに行ってます」


「ずいぶん暇だな」


「暇じゃありません。それとクビの話と、どう関係が……」


 涼音はにやりと笑う。


「お前、食事作りと家事は得意か?」


「ええ。まあ。ずっとやってきていますし……家事は再就職先の斡旋と何か関係があるんですか?」


 大ありだ、と涼音は形の良い唇を笑みの形にした。


「……決めた。お前の就職先だ」


「え。早っ! ほんとにいいんですか?」


「ああ。だけど、やるかやらないかは、お前次第なんだがどうす――」


「やります!」


 被せ気味に芽生が答えると、涼音は嬉しそうに微笑んだ。それは、まるで天使かと思うような美しい笑みだったのだが、涼音の顔面よりも、再就職先の方が芽生にとっては重要だった。


「お前の夢を応援するのに、週末だけの好条件の仕事先だ。そこで働くなら、今回のお前のダブルワークは不問にしてやる。つまりクビは無しだ。優秀な人材なら残ってもらわないと困るからな……やるか?」


「クビも免れてさらに稼げるんですか? もちろんです! 断る理由がありません。でも、それを受けてしまったら、結局ダブルワークですけど、大丈夫ですか?」


 芽生は神様に感謝の祈りをささげたい気持ちだった。


「ああ。ダブルワークが禁止なのは、過重労働になる可能性があるからということで、俺はこの時代にダブルワークを禁止したいわけじゃない。ジジイどもが未だにうるさいから調整を遅らせているだけで、いずれは副業解禁になる。もし他の連中にばれて何か言われるなら、俺の名前出して今後のモデルケースだとても言っておけ」


 芽生はあまりの嬉しさに破顔した。やったとちょっとガッツポーズをしてしまったほどだ。


「そのかわりぶっ倒れるなよ。言い訳がつかないからな」


「もちろんです、体力には自信がありますから!」


「で、再就職はこれでしなくていいわけだが、週末暇すぎて仕方がないお前のために、さらに夢を応援してやるという意味で好条件のバイトまで紹介する俺は優しすぎる社長だな。敬ってもらいたいもんだが……」


 ちらりと芽生を見るので、芽生は「肩もみくらいならしますよ」と首をかしげた。


「ふん、それは週末でいい。お前、俺の家に来い」


「……はい?」


「週末、俺の家で家政婦として雇ってやる」


 芽生は開いた口が塞がらなくなった。それに、鈴音がしれっと、「何でもするって言ったよな」と涼しげにつけ加えた。

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