第11話 夢

「家族がバラバラになるのは、もう嫌です。ご飯をみんなで一緒に食べようって、みんなで決めました。お金が欲しいのは、その、私には夢があって……」


「どんな夢だ?」


 この際、もう全部言ってしまおうと芽生は大きく息を吐いた。


「自分のお店を……カフェを開きたくて。開業資金をずっと貯めています」


 涼音は、芽生の手に、もう一方の手を重ねた。


「夢、ねえ……」


「小さい時からの夢です。だから、栄養士の資格を取れる専門学校卒業しました。でも、開業にはお金がかかるから、お給金がよくて定時上がりのできるこの会社に勤めて、色々と社会勉強をして貯めてからにしようって」


「なるほど」


 涼音はうん、とうなずいた。うなずいただけで、それ以上は何も言わない。


「クビだっていうならクビにして構いません。ですが、次の就職先を紹介してください。この会社よりお給料が良くて残業がないところです。お願いします」


 涼音はじっくりと芽生を見つめた。涼音には、芽生が嘘をついているようには全く見えなかった。


「そういうことなら、昨晩、俺だってお前を馬鹿にするような、あんな言い方しなかったぞ」


「私だって、社長がちゃんと話を聞いてくれるなら、ゴミ扱いしませんでしたよ!」


 芽生は一気に家族のことと自分のことを話した反動で、顔を真っ赤にしながらまくし立てた。


「とにかく、お金が必要なんです。ダブルワークが契約違反なのを知っていたんで確信犯です。私のことは煮るなり焼くなり、クビにしてもらうなり、何したって構わないです。でも私と私の家族のためを思って、クビにするなら次の就職先だけでも斡旋してください。お願いします!」


 涼音は黙りこくった。その目を見つめながら、芽生は口を尖らせる。


「社員の家族も自分の社員だって、社長は全社集会で言っていました。あなたが私をクビにしたら、私の家族という社員が困ります」


「そういうことだけはよく覚えてるんだな」


「都合のいいことしか覚えていません」


 なるほど、と涼音はうなずいた。しばしの沈黙が社長室に流れ、二人は奇妙なにらめっこをしながら向かい合う。


「あの、社長……ちゃんと私理由言いました」


「分かっている。聞いていた。今聞いたことを速攻で忘れるほど馬鹿じゃないぞ俺は」


 芽生は内心少しびくびくしながら、涼音がなんと言うのかを待った。


「……煮るなり焼くなり、クビにするなり、何でもするって?」


「言いましたけど……」


 突如現れた邪悪な笑みに、芽生は血の気がひいた。

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