第18話 微睡み――帰郷

 砂漠を後にしたハナは、北辺の森へ向かって一昼夜かけて飛び続けた。本当は途中どこかで一晩休む必要のある距離だったが、頭のなかがかき回されたようにごちゃごちゃとしていて、いまは何ものにも触れ合うことなく、無心に空を飛び続けていたかった。

 そうして北辺の森へ辿り着いたときには、当然のように体は疲労困憊だった。視界が霞み、まともにものも考えられないほど意識が混濁している。起きているのか寝ているのか、現実なのか夢なのかも曖昧な世界を、うとうとと微睡むように進み続ける。

 倒れるなら我が家のベッドが良い。家まで持ち堪えますようにと祈りに似た思いで、ハナは可能な限り帰路を急ぐ。

 やがて、夕暮れのような薄闇のなかに、ぼんやりと明かりらしきものが見えてきた。ハナは小さく声を上げたように思うが、耳は風の音をごうごうと拾うばかりで己の声さえ聞こえない。

 ハナは、手招くように灯る光を頼りに進む方角を定め、高度を下げていった。明かりは、近付けば近付くほどに温かく、冬の迫る季節に長時間の空中飛行を続けたハナの冷えた体を「もうすぐだよ」と鼓舞してくれる。あの温もりに包まれて、早く眠ってしまいたかった。

 霞む視界のなかで、それでも風の流れから湖の上空に出たことを察知したハナは、間もなく迫る我が家へ見当をつけると、湖の上を急降下に近い速度で降りて行く。光が真下に見える。

 半ば落下するように着地した場所で、ハナは待ち望んでいた光を見た。冷え切った体を芯から溶かすように、温かな気配に包まれて、体全体を覆っていた緊張が解かれていく。

(帰って来れた……)

 ハナは目前にあるであろう家の扉を開けるために手を伸ばし、そこでとうとう力尽きた。

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