番外編8話 戦い終わって恋バナ

 嘘みたいに劇的な大勝利だった。

 ちょっと装飾が施された立派に見えるだけの単なるケーキ入刀ナイフを私とランスが握って、エヴォドラに向けて振り下ろした。

 その瞬間、刀身から光の粒子のようなものが放出されたのだ。

 まるで黄金の光の剣みたい。

 『ちょっ、おま!?』とか、言ってるエヴォドラの頭上に振り下ろされたのは巨大な光の剣の刀身だった訳で。

 入刀が終わったっていうの?

 振り下ろし終わるときれいに真っ二つになったエヴォドラの姿があった。

 十八歳未満でも遊べるようにグロテスクな表現はされないのできれいなものだわ。

 『こいつ死んでるんだ』くらいにきれいだし、危ない部分には自動的にモザイクがかかるから、安全なのよね。


 コアを両断されたエヴォドラはその力を失ったからかな?

 金色の光に包まれて、天に還っていった。


「二度と会いたくないわね。っていうか、やりたくないわね、このイベント」

「同感ですわ。やはり、正式に抗議すべきだと思うのですけど?」

「まあまあ、それなりに面白かっ……」


 ギロッとあたしも含めた女性陣三人の鋭い視線に刺されたランスが気圧されたのか、言い淀んだ。

 賢明な判断だと思うわ。

 今、下手なこと言えば、火に油を注ぐってやつだもん。


「今回はこのゲームが縁を結んでくれたっていう想いがあったから、目を瞑っただけだからね? いくら、あたしが寛大でも二回目はないわ」

「え? ランス……リナって、寛大だったかな?」

「基本的には優しいんだけどね。寛大……うん、寛大だよ?」

「寛大じゃないってことだね」

「何か、言った?」

「「いいや、何も」」


 あたしが一睨みするだけでこの幼馴染どもは静かになるのよね。

 でも、おかしいわね。

 あたしが寛大じゃなくなるっていうか、視野が狭くなるのはタケルに関してだけだから。

 自分でもこんなに嫉妬深かったなんて、気付いてなかったし。


「皆さん、報酬の宝箱開けないんですか?」


 一人冷静なエステルのお陰でようやく、全員が気付いた。

 報酬として、ドラゴンがいた場所に大きな宝箱が出現していたのだ。

 イレギュラーな形とはいえ、イベント討伐をクリアしたからよね?


「こんな大きい宝箱、初めて見た……」

「僕も初めてかな。この大きさは見たことないよ」


 ランスはアイテムコレクターだからね。

 ギルドのメンバー全員に武器をプレゼントしても余裕どころか、お店開けるんじゃない? って、いうくらい貯めこんでるんだもん。

 そんな彼が見たこともないなんて、本当に凄いのかな。


「開けてみましょう。報酬次第では抗議するのを撤回してもよくってよ」


 フランは本当、素直じゃないなんだから。

 変なところ、あたしと似てるんだよね。

 妙なところが頑固で好きな人に素直になれないとこなんて、かつての自分を見てるみたい。


検知ディテクションを掛けたけど、罠はないみたい。安心して開けていいよ」


 ヴォルフは基本、優等生だからね。

 こういう時のそつの無さは見習いたいわ。


「それで誰が開けるの? あたしは……いいわ。こういうのって、リーダーが開けるもの? それとも何か、ルールあるの?」

「罠はないし、開けたい人でいいと思いますよ」


 エステルはそう言うとフランの方をチラッと見た。

 あたしも気付いてた。

 フランが開けたそうな顔をしていて、ウズウズしていることにねっ。


「では私が開けてもよろしいのですか?」


 残り四人全員が是と頷く。

 彼女が加入してから、何度か死線を潜り抜けてきた(主にフランのせいでねっ!)けど、宝箱を開けるのは初めてじゃない?

 今日は暴走しなかったし、初イベント初撃破記念ってことでフランにやらせてあげたいと皆、思ってるはずだ。

 彼女は宝箱に手を掛けるとゆっくりとそれを開けていく。

 ギギィィというテンプレな効果音とともに宝箱の中身があたしたちの前にその姿を現した。


「これって、格闘用の武器?」

「うん、そうだね。爪……クローだから、フランにぴったりの武器だよ。炎の魔法が付与されているようだから、差し詰め炎の爪フレイム・クローってところかな」

「私の武器? 私って、この手と足だけが武器ではなかったのね」


 こうして、あたしたちの初イベント挑戦は予想もしていなかったような結末を迎えたのだ。


 👧 👧 👧


 ギルドのサロンに帰還したあたしたちは無事に全員で乗り切れたことを感謝して、ささやかな祝勝会を開いた。

 反省会ではないよ?

 反省する要素はあまり、なかったと思うし。

 普通に作戦通りに進んでいたんだし、あんな展開予想出来る人はいないだろう。


「じゃあ、スミカはまだ、結婚はしないんだぁ」

「私達、まだ、大学生だからね。それにその私とカオルはまだ……そのお付き合いしているだけで」

「まだ、だったのね」

「うん、まだ。結婚するまで……」

「カオルはホントにスミカのことを大事にしてるんだね」

「うん」


 で、あたしは直接、会う機会が少なくなってしまった親友との恋バナに花を咲かせている訳だ。

 恋バナって言ってもあたしは既にタケルと結婚してるから、スミカの話を聞くだけなんだけど。

 カオルとスミカはあたしたちと違って、擦れ違うというか、お互いが好きなのに素直になれないなんてことはない。

 見てるだけでも微笑ましい恋人って感じ。

 あまりに落ち着きすぎてて、結婚何年目の人かってくらいだ。

 それなのにまだ、してないんだから、ある意味スゴイと思う。

 スミカに手を出さないカオルの精神力もスゴイと思うけど。

 それ以上にあの二人って、身体の関係がなくても互いを想い合う絆が強いんだろう。


 タケルもカオルと積もる話があるらしくって、ミレイが一人浮いてる感じになって、かわいそうかな?

 スミカに目配せすると分かったとばかりにウインクしてくる。

 さすが、よく分かってる!


「ねえ、ミレイ。あなたは最近、気になる人いるでしょ?」

「な、な、何を!? 急に話振ってきたかと思ったら、何の話なの?」


 ミレイは普段こそ、冷静な完璧お嬢様なんだけど、こと恋愛に関してはポンコツだ。

 この反応でお察しくださいってこと。


「日本でも話題になっていますよ。あの美人令嬢がまた、日本の有望若手を引き抜いたって。今度もまた、高校生だったかしらね」

「そうなのよ。うちのチームの2ndキーバーになってる佐々木くんでしょ」


 スミカ、ナイスアシスト!

 そうなのよ、ミレイが最近、目を付けて引き抜いた子が現役高校生ゴールキーパーの佐々木高介ささき こうすけくん。

 年齢はなんと十六歳だから、あたしたちよりも年下なのだ。

 それでもあのミレイがデータを分析して、スカウトした子だけあって、189㎝という高身長に高い身体能力と動体視力で将来、日本代表入りも間違いないともの知り顔のファンの間でひそかな話題に上がっている逸材だ。


「コウスケね。気になって、悪いのかしら? 私がスカウトしたんですもの。気に掛けてあげないといけませんわ」

「コウスケって、もう名前で呼ぶ仲なの? ミレイの癖にやるじゃない」

「ち、違いますし。欧州では名前で呼ぶのが普通ですから、そう呼んだだけですわ」


 全力で否定しようとしているけど、そんな茹でだこみたいな真っ赤な顔で言ったって、誰も信じないんだけどねっ!


「あのね、ミレイ。後悔するくらいなら、失ったとしても素直になるべき時があるって、知ってる?」


 もし、あの時、素直になっていなかったら。

 好きっていう気持ちに嘘をついていたら。

 ミレイはあたしに似てるんだと思う。

 だから、素直になれないところもよく分かる。

 多分、同族嫌悪だったんだろう。

 最初の頃、顔を合わせたら、喧嘩になりそうで険悪だったのはそのせいじゃないかな。

 今はお互いを理解しあえてるとまではいかなくても仲の良い友人くらいにはなってるんじゃない?


「あたしたちは皆、あなたのことが好きだってことは忘れないでね。何があっても味方だから、逃げないで素直になるの! 分かった?」

「え? う、うん……分かりましたわ」


 味方って言われたことが意外だったのかな?

 それともあたしの言葉が何か、おかしかったのかなぁ。

 あたしとタケルは素直になったお陰で結ばれたんだし……。

 あっ。

 でも、あたしたちって、幼馴染で付き合いだけは長かったもんね。

 ミレイと佐々木くんは出会ってから、まだ日が浅いってのが不安材料かな?

 それに佐々木くんって……タケルより朴念仁だと思う。

 頑張って、ミレイ! と心の中で密かにエールを送っておくに留めておこうっと。


 部長さんは残念だったけど、久しぶりに皆で集まって、何かを成し遂げられた。

 とても晴れやかな気分とともに閉会となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る