第13話 これは僕の友達の話なんですが
『殺すなんて、可哀想』と言っていた可憐な少女はどこへ行ったのやら。
最初の狼を倒してから、五分後。
レイピアを振り回し、魔物の群れを追いかけては虐殺するリナリアの姿がそこにあった。
慣れとは恐ろしい物である。
命を奪ってしまった後悔と罪悪感に苛まれるリナリアの姿に何か、感じるものがあったランスだが、今は何か、違うと思っているのだろう。
楽しそうに狩りを続けるリナリアと対照的にランスの口数はどんどんと減っているようだ。
⚔ ⚔ ⚔
「あっはははは、楽しいわね、これー」
「そうだね。楽しんでくれてるようでよかったよ」
最初こそ、心が痛んだけど慣れって、怖いわね。
ゲームだもん、気にしたら負け!
そう思っていたら、楽しくなってきちゃった。
おまけにレベルも上がっていくから、自分が動いているのにホントにこんな動きしてるのって、信じられないくらい。
タケルはいつも一人でこんな楽しみを……って、そうだよね。
『一緒に遊ぼう』って言ってたのをあたしが拒否っちゃったんだよね。
ゲームに取られたみたいに感じて、ゲームに嫉妬するなんて、あたしも重症だわ。
「かなり倒したでしょ。レベルはどれくらいになったかな?」
「えっと、レベルは……6ですね」
「いい感じだね。そろそろ、ちょっと休むかい?」
「んー、ランスさんがそう言うのなら、しょうがないですね。休んであげます」
何でかなぁ。
微妙に上からの言い方になっちゃう。
そんな言い方するつもりないのにおかしいわ。
あたしの猫かぶりスキルって、相当なレベルだから、高校でも育ちのいいお嬢さまで通ってるんだけど。
ランスさんとお話してると何か、調子が狂うんだよね。
「この草原を抜けて、もうちょい行くと眺めの良い丘があるんですよ。そこで休みましょう」
「はい」
どうどう。今度は普通に答えられたわ。
何で調子が狂うのかな?
ランスさんと話しているといじりくなるっていうのかしら?
それともいじめたくなる?
猫かぶるのが難しくなってくるから、ホント困っちゃうわ。
それから、五分くらい歩いて、ランスさんの言ってた眺めの良い丘に着いた。
夜だから、暗い。
当たり前だけど、暗いので明るい時の景色のきれいさってのは分からない。
だけど、暗さが逆にロマンティックな感じがしてきて、いいなって思う。
空には満点のお星様が輝いていて、星空の下っていうのがポイント高いのよね。
一緒にいるのがバケツ頭じゃなくて、タケルだったら、どんなによかったんだろう。
叶わぬ願いを夜空を走る流れ星につい願ってしまった。
あたし、そんなにロマンチストでもないのに。
「リナさん、高校生なんですね。勝手に年上なんて、勘違いしててごめんなさい」
物思いに耽っているとバケツ頭の鎧人形が急に土下座してきたから、びっくりしちゃった。
「気にしてないから、土下座とかやめてください」
よしっ、あたしの猫はまだ剥がれてないみたい。
顔バレもしてないし、まだお
「いや、でも、女性を勝手に年上扱いしてたなんて、失礼なことだから。本当にごめんなさい」
「もしかして、ランスさんは中学生とかなの?」
「あ、いえ。僕も高校生です」
あら、びっくり。
高校生だったのね。
このゲームって、あたしが知らないだけで高校生の間で大人気とか?
うわ、知らなかったあたしがやばいんじゃないの。
でも、モデル仲間でも聞いたことなかったんだけど。
モデルがゲームしてても今は武器になるから、隠すとは思えないのよね。
「そうなんですか。高校生だったんですね。何年なの?」
「そういうリナさんこそ、何年ですか?」
「「それは秘密です、って。あっははは」」
あなたも秘密なのね。
思わず顔を見合わせて、笑ってしまう。
それも極自然に笑ってしまった自分に驚いてる。
あたしだって、タケルやカオル、それにスミカの前では自然に笑う。
でも、それ以外の人の前で自然に笑うことなんて、まずない。
営業スマイルってやつ。
ホントに笑うことなんて、ないのに。
「リナさんって、かなり無理してますよね?」
「ぎくっ。な、なんのこと?」
ば、ばれてる?
猫被ってるのバレてるんじゃないの。
鉄壁の猫被りスキルが剥がれるの早くない?
この人、もしかして、鋭いのかな。
「もっと自然に話せますよね。たまに出てるじゃないですか。その方がかわいいと思いますよ」
「か、かわいいとか。誰にでも言ってるんじゃないでしょうねっ! あっ……ご、ごめんなさい」
「その方がいいですよ、絶対かわいいです」
いけない。
また、調子が狂って、素のあたしが出てしまった。
おまけにかわいい、かわいいって、言うなっ。
余計、おかしくなってくるじゃない。
「顔見てないのにかわいいって、おかしいと思わない?」
「え? そうなんですか。これは僕の友達の話なんですが」
出たわ。
友達の話。
女子だったら、間違いなく自分の話なんだけど、ランスさんは男子だから、どうなんだろう?
「好きになった子がめちゃくちゃかわいいんです。もう道歩いてたら、振り返らない人がいないくらいかわいくて。でも、僕は彼女の外見じゃなくて、中身がかわいいって思ってて」
「今、僕って言わなかった? あっ、いいわ。友達の話だもんね」
自分の彼女がかわいくて、おまけに性格まで良くって、かわいすぎてどうすればいいんだ? っていうラノベでしょ。
そうなんでしょ?
「な、なんでリナさん、怒ってるんですか?」
「怒ってないしっ! あたしが怒る理由ないわっ」
あれ?
あたし、どうして怒ってるの?
怒る理由ないよね。
そっか。
あたし、ランスさんの言ったことでタケルのこと考えてたんだ。
それでタケルの隣にはあたしじゃないかわいくて、性格も良い子がいるのを想像しちゃったんだ。
最悪じゃない。
それで関係ないランスさんに当たっちゃったんだ。
「あ、あのごめんなさい。あたし、ランスさんの話聞いてたら、勘違いしちゃって」
「あっ……そうなんですか。僕こそ、ごめんなさい。変な話しちゃって、そのせいでリナさんが嫌な思いしちゃうとは思わなかったんです。僕のせいです。ごめんなさい」
「二人して、謝ってるって変だね?」
「そうだね。ごめん」
「って、すぐにそうやって謝るのいけないと思うわ」
「あっ、うん、ごめ……そ、そうだね」
そうして、なんだかちょっとだけ、心が近づいた気がする。
あたしだけかもしれないけどね。
ランスさんもそう思ってくれてると嬉しいかな。
でも、時間が流れるのって、早い。
もう寝ないと次の日がきつくなりそう。
ランスさんにこういう場所でログアウトすると危ないということを教わりつつ、ギルドのサロンに戻って、『また、明日ね』と(フード被ってるから、笑顔は見えないけど)和やかな別れを告げた。
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