第12話 あんたバカなの?
ゲーム始めたら、いきなり空に浮いてたし、落ちたと思ったら、暗い森の中だったあたしにとって、今の状況は新鮮すぎて感動もの。
夜だから、視界はあまりいいとは言えないけど心地よく感じる風に吹かれて、一面に広がる草原を見渡していると冒険してる感がじわじわと感じられる。
「すごいですね。これがゲームなんて……信じられないです」
「最新のゲームだからね。僕も最初、信じられなかったよ。すごくリアルだからね」
もう慣れているだろうランスさんと暫く、草原という開けたフィールドの雰囲気を十二分に感じて、余韻を楽しむ。
「それであたしは何すれば、いいんですか?」
「リナリアさんって、あまりゲームしない人だっけ?」
「え? あぁ、はい。あまり、ゲームで遊んだことないです」
「ゲームが嫌いとか?」
なんか、知らないけどそう問いかけてくるランスさんの声色はどことなく寂しさが感じられるものだった。
「そうじゃないんです。嫌いとかじゃなくって。あたしはゲームをやるよりも好きな人がゲームをやって楽しそうにしてる姿を見るのが好きなんです」
「そうなんだ。嫌いって訳じゃないんだね」
「嫌い……じゃないです。でも……」
「でも?」
「ゲームに熱中しすぎて、かまってくれないのが嫌いかなぁって」
「な、なるほどね。そうだよね。そっかぁ、うんうん、そうだよね、あはは」
バケツ頭がガクガクなるくらい同意してくれるランスさんだけど何か、身につまされることでも過去にあったのかしらね。
「それじゃ、リナリアさん」
「リナでいいですよ? その方が呼びやすいでしょ」
「あっ、え、そうですね。じゃあ、リナさん。ゲームには慣れてないという前提で説明してみますね。このゲームはRPGなんです」
「RPG? ドラクエとか、FFみたいのでしょ? それくらいは何となく分かるわ」
「それなら、大丈夫かな。リナさんはレベル1だから練習も兼ねて、一番弱い敵でレベル上げをしようか」
「あぁ~、スライムですか? それくらいなら、分かるかも。あの水色でかわいいのですよね?」
「え? うーん、スライムはいるけどちょっと違うかな。うん、かわいくはないよ?それに結構、強いんだよね、あれ」
「え? スライムがかわいくないの? スライム倒してレベル上げじゃないの?」
「そ、そうなんだけど。それ、ドラクエだからね。これ、違うゲームなんだよね」
やばっ、猫がはがれかけたんですけど。
かわいくないとか聞いてないし。
リアルなスライムってことなの?
想像もつかないんだけど。
「僕がモンスターを引き付けてくるから、ちょっと待っててね」
あたしの猫がはがれかけたせいじゃないよね。
ランスさんが少し焦ったような感じでモンスターを探しに行くと言って、離れていった。
「連れてきたよ。さあ、レイピアを抜いて、どんどん倒して」
「は、はぁ!? あんたバカなの?」
おっと、この馬鹿鎧のせいで猫がどんどん、はがれてる気がするわ。
でも、あたしがバカって言いたくなったのはおかしくないと思う。
だって、あたしの前にいるランスさんの背後には角が生えた奇妙な色のうさぎさんだのちょっと小さめに見える灰色の毛皮の狼さんだの見たことがない動物がうじゃうじゃいるんだから。
「バ、バカって……バカって言う人がバカなんですよ。大人の女性なのにそんなこと言っちゃいけませんよ」
「はい? あたし、まだ高校生なんですけど!」
「え!? そ、そうなんですか? 背が高いし、落ち着いてるから年上なのかと」
あたしたちが言い合いをしてる間にもガシガシと動物さんたちがランスさんを攻撃してるのだけど全く気にしてない。
分かった!
この程度、蚊が止まった程度にしか感じぬとかいうやつね。
生意気な! おバカな鎧のくせに!!
「どこをどう見たら、あたしが年上に見えるんですかねっ! あぁ、もー、動きにくいわ、これ」
悔しいのでレイピアを抜いて、手近にいた目つきの悪い狼ぽいのを倒そうとフェンシングの突きの構えをしたまではよかった。
でも、華麗なるデビューとはいかない。
このローブが動きにくくて、しょうがないのよ。
足元の動きを邪魔してくるんだもん。どうにか、ならないかな。
あまりに邪魔だったんでローブの裾をたくし上げて、適当に縛って留める。
うん、悪くない。
見た目はお洒落と程遠いけど、動きやすくなったし。
「不思議。身体が勝手に動くみたい」
フェンシングなんてやったこともないのに体が覚えているみたいな感じがする。
レイピアを右手で構え、そのまま前にいた狼ぽいのの首筋目掛けて、突き刺す。
キャイーンという断末魔の悲鳴であたしは命を奪ってしまった罪悪感に居たたまれない気持ちになってくる。
何か、辛い……。
「うわぁ、ごめんね。殺しちゃって…ごめん」
たくさんの動物にボコスカとやられてるのに平然としたまま、ランスさんはあたしのことを(多分)不思議そうに見つめていた。
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