閑話 文芸部と言う名の勝手に応援し隊II

 Side カオル


 僕はカオル。

 文芸部の副部長として、優秀だけどちょっとアレな部長のサポートに日々、奔走しなきゃいけないので苦労が絶えない。

 苦労が絶えないというと意味では幼馴染二人のせいでもストレスが溜まるくらいに苦労している。

 どう見ても両想いのくせして、自分たちのことになると極端に鈍感なのだ、あの二人は。

 その間を取り持とうとする僕の苦労といったらない。

 ほぼ全力で空回りする日々の繰り返しだからね。


 僕は元々、男の子としてこの世に生まれた。

 でも、お母さまがどうしても女の子が欲しかったらしい。

 生まれた時から、女の子として育てられたし、幸いなことに母親似だったから、特に変に思われることはなかった。

 それに僕が男の子であることはアリス以外の人たちは気付いていて、知らない振りをしてくれていた。

 実際、女の子の姿でいる方が皆からの受けは良かったし、過ごしやすかったのは事実だ。


 さて、僕たちは例によって例のごとく、懲りずに二人をくっつける為の作戦を実行中である。

 部長曰く、面と向かってを避けて、『ネットでGO』作戦だそうだ。

 今までになく凝った作戦でVR機器やネトゲとコストも手順もかかっている。

 面倒なことだが乗り掛かった舟というもの、手伝わざるを得ない。

 僕だって、あの二人に幸せになってもらいたいと思っているのは一緒だしね。


 タケルを誘導するのは僕でアリスを誘導するのはスミカということに決まった。

 無事に第一段階までは成功というところかな?

 それにしても二人の鈍感さにはある種の才能すら感じる。

 いくら普段と髪型が違うとはいえ、タケルはマリーナとエステルが部長とスミカだということに気付いてすらいない。

 それすら気付かないんだから、フルアーマーとフードで顔見えない状態じゃ、お互いのことにも気付かないだろう。

 その方が今回の作戦には有利に働くから、いいんだけどね。


 まぁ、何はともあれ、偶然の産物だけど合流も果たせた。

 勧誘すべき人材二人の確保に成功したんだから、終わり良ければ総て良しってものだね。

 作戦は第二段階へと入る訳だけどそれにはまず、タケルを適度にけしかけなくっちゃいけない。

 いわゆるペア狩り。

 二人で冒険に行くようにと文面まで考えてあげたから、多分、大丈夫だろう。

 僕たちに出来ることはお膳立てだけであって、それ以上のことには介入しない方針。

 むしろ、介入しても成果出なかったから、やるだけ無駄なんだよね。

 だから、アプリでチャット会議ということになったが、これもいつも通りのこと。


マリーナ:

 二人きりで狩りですもの。吊り橋効果でドキドキ恋に落ちるのは間違いなしなのです。

エステル:

 部長は楽観的すぎると思います。それなら、とうに成功してるはずです。

ヴォルフ:

 だけどスミカ。今まで下手に介入しては失敗してるのは事実。今回は出来るだけ介入しない方がいいのでは?

マリーナ:

 そうです。本当は二人の狩りを監視……もとい見守りたいところを我慢すると決めたではありませんか。

エステル:

 そうなんですけど、アリスは恋愛に不器用で臆病すぎるから、心配なんです。

マリーナ:

 そうよね、そうなのよ。どうやって、導けばうまくいくのか、考えましょう。

ヴォルフ:

 (君らも恋愛経験はほぼ0じゃないか! 僕もだけどさ。アニメ、マンガ、小説etcそういう恋愛知識しかないって、自覚があるの?そんな恋愛巧者なら、僕とスミカの仲はもっと進んでいるよ)

エステル:

 吊り橋効果を高めるにはさらなるハプニングが最適だと思います。

マリーナ:

 いいアイデアね。障害があると恋の炎は燃え上がるものですわ。

ヴォルフ:

 障害になるかどうか、まだ分からないけど転校生をうまく利用するのも手では?

エステル:

 足利さんを? うーん、そっか! 恋にはライバルが必要、そういうこと?

マリーナ:

 突如、現れた転校生に幼馴染の恋が動き出すのよ。いいわ、この案でいきましょう。

ヴォルフ:

 (大丈夫かな。いつも通りが定期過ぎて逆に安心してきたがまずくない?)


 チャット会議が終わって、別の意味で疲れている。

 もう長い付き合いで慣れてるし、たまに妄想で暴走する以外は部長もスミカもとてもいい友人である。

 ふと時計を見ると十時をちょっと過ぎたくらいだった。


「あの二人、うまくやってるかな。少しくらいは仲が進めばいいんだけどなぁ」


 僕はそう思いながら、明日からまた、着ていくことになる女子の制服――えんじ色のブレザーとウィッグを確認して、にんまりするのだった。

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