閑話 文芸部という名の勝手に応援し隊

 私は田村澄華たむら すみかと申します。

 文芸部に所属する文学少女……あれ?

 文学じゃないかも。

 ちょっと自信ないわ。

 でも、小さい頃から本を読むのが好きでした。

 『本は友達』と言ってもいいくらいに。

 

 そんな私は今、もう一人の幹部もとい部員である新田薫にった かおると部室に招集されちゃっています。

 されちゃっている、という少々、物騒な表現を使うのは部長がこういう形で私とカオルを呼ぶ時はろくでもない用件が待ち受けているからなのです。

 面倒事が待っていると知っていて、気分が晴れやかな人というのもいないと思うんです。


「カオルも呼ばれていたの?」

「ええ、どうせいつものこと」


 部長である北条美彩ほうじょう みさが私たちを呼んだ理由はだいたい、予想がついています。

 ちょっと面倒なことに巻き込まれるのは間違いないです。

 部長が考える話は超面倒かつ無駄なんですから。


「諸君に集まってもらったのは他でもありません」


 あぁ、また部長の病気が始まりました。

 厨二病を拗らせすぎちゃって、一周回り過ぎた人、それが部長です。

 ええ、そんな感じにやばい人です。

 見た目はどこからどう見ても良家のお嬢さまだし、すごい美人なだけにとてもとても残念な人なんです。


「アリスのこと?」

「うむ。我らがアリス姫のこと以外に集まることがありましょうか。いいえ、ありませんとも」


 はいはい、もう言い回しからして面倒です。

 既に帰りたくなってきましたがそれは出来ません。

 こんな部長でも一応、尊敬はしていますからね。

 ただ、アリスのことを姫、タケルのことを王子って崇拝し過ぎでまるで信者です。

 信者も信者、狂信者ほど怖い物はないと思うんです。


「我らがすべきは姫の恋路を勝手に応援することです。それ以外に何をするというのでしょう?」


 その無駄に美しい顔で芝居がかって妙なことを口走るのはやめて欲しいです。

 どうせまた、突拍子もないことを思いついたと思うのですが、容姿のせいで説得力だけはあるから、困りものなんです。

 そもそも、我が文芸部が変な目で見られてるのって、ほぼ部長のせいなんですよ?

 文芸部はアリスの恋路を応援するのが主な部活動ではないはずなんですが。


「つまり、何をするの?」

「うわぁ、ストレートに言ってしまうの?」

「これを使って、姫と王子の仲を進展させるのよ」

「なに、これ?」

「うーん、これって、もしかして最新型のVR機器じゃないですか? これで何するんですかぁ、また、変なこと考えてませんかぁ?」


 部長が机の上に並べたのはまだ、発売されてからそんなに経ってない超最新型のVR機器とゲームソフトのケースでした。

 あぁ、これはろくなこと考えてませんよね。

 やばい人に権力とお金を与えたら、いけないといういい見本かもしれません。

 とはいえ、私とカオルが巻き込まれるのは確定しましたね。

 アリスと仲が良いのは私と幼馴染というポジションにいるカオルなんですから。

 どう考えてもこれらのアイテムを使って、キューピッドをしろって流れで間違いない?


「君達は理解が早くて助かるよ、ふふふっ」

「部長の考えてることは分かりやすいですからねぇ。でも、具体的な作戦考えてくれませんと私とカオルでは無理ですよぉ?」

「うん、無理。あの二人、天然記念物クラスの鈍感」

「この天才軍師である北条美彩が考えた作戦で今度こそ、姫は王子と結ばれるのよ。間違いないわ」

「へ、へぇ?」

「……バカ、間違いなくバカ」


 あなたの場合、天才軍師じゃなくて、天災軍死では?

 今まで色々とやってきた結果があのざまだよ。

 ざまぁを余裕でされちゃうくらいに穴だらけの作戦しか、立てないじゃないですか。

 あの二人の鈍さというか、純粋さ? それが原因にしても失敗してるのは部長の作戦が間抜けだからなんです!

 しかも部長って、そのことに全く、気付いていないのだから、手に負えません。

 だから、毎回、失敗するんだけどいい加減、学習するということはないのでしょうか?

 今度は大丈夫?

 VR機器とか、ネトゲとか、今までになく、お金かけてるけど……嫌な予感しか、しないのはなぜでしょう。


 この時、感じていた不安が杞憂で終わらないことを私は知る由もなかったのです。

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