第2話 想いが伝えられないので足を踏む

 あたしはタケルを好きで好きで止められない。

 なのに想いを伝えられない。

 面倒な性格してるなって、自分でも思う。

 なんでだろう? 呪いじゃないの?

 あたし、何か悪いことしたのかな。

 前世で何かしでかしたなんて、訳が分からない理由だったら、どうしよう……。


 あたしがタケルを好きになったのは髪と目のせいで酷いいじめにあっていた時だった。

 男の子には物陰に連れ込まれて、いきなり押し倒されたり、体を触られたり。

 とにかく気持ち悪いことをされた。

 女の子は女の子で分からないように足を引っかけて転ばせてきたり、ぶつかった振りして思い切り押されたり……頭の上から水を掛けられたこともあった。

 そんな時、タケルとカオルがいつも助けに来てくれて、まるでナイトみたいだった。

 『だいじょうぶだからね。ぼくたちがついてる』って、安心させるように頭を撫でてくれながら、言ってくれるタケルの優しさにどんどん、好きになって、止まらなくなった。

 だけどこれが中々、上手くいかない。

 いざ、彼に想いを伝えようとすると素直になれないのだ。

 心の中では大好きですぐにでも抱き付いて、『好き』って言いたいのに真逆の行動をしちゃう。

 言葉でも彼を傷つけるようなことを言ってしまうのはなぜ?

 そんなあたしのことを好きでいてくれるのかな?

 幼稚園の頃、『お嫁さんにしてくれる?』『うん』って言ったのを覚えてくれてるかな?

 それともこんな素直じゃない幼馴染なんて、面倒で義理で付き合ってるだけ?


 🥎 🥎 🥎


 黒板の前で佐々木先生に紹介されている噂の転校生はよりにもよって、女子だった。

 最悪! それじゃなくてもライバルが多いのにまた、増えるかもしれないなんて。

 タケルはエースじゃないけどサッカー部で有名な存在だったりするし……それにカッコいいんだもん。

 おまけに物静かで男女分け隔てなく、親切に接するんだよ?

 そんなの皆、好きになっちゃうって。

 密かに告白しようと狙っている女子が多くて、あたしは気が気じゃないんだから。

 でも、ほら! あたしって幼馴染だしー、同棲してるしー。

 アドバンテージなポイント多いから、大丈夫よね?


 でも、この転校生。

 学年どころかこの学校でトップ3に入るんじゃないかってくらいかわいい。

 カオルが日本人形系であたしがフランス人形系。

 この子は……分かった。

 あのうん代目にもなってるお父さんがフランス人のあの人形ぽいのよ。

 すごくまずいんじゃない。

 一番、ライバルになりたくないタイプ!


足利美礼あしかが みれいです。皆さんと早く、仲良くなれたらいいなって思います。よろしくお願いします」


 本性は分からない。

 猫被ってるだけかもしれないもん。

 あたしがそうだから、よーく分かる。

 この子の本性はきっと違うって、よーく分かる。

 でも、うわべの丁寧な挨拶と笑顔に男子達はもう騙されてるのだ。

 男子たちが単純すぎて、おバカ過ぎて困る……。

 右隣の席のタケルをちらっと見るとそんなに興味なさそうなのでちょっと安心した。


「よろしくお願いします、楠木くん」


 安心するの早かったよ、あたし……。

 先生が決めた足利さんの席はタケルの右隣だった。


「足利さん、分からないことがあったら何でも聞いてね」


 そう言って軽くニコッと微笑みかけるタケルの破壊力は高いのよ。

 それで恋に落ちてる女子が多いのをあたしは知ってる。


「楠木、あとで足利さんに学校の案内、頼めるかな?」


 くぉーらー、さーさーきー! なんでタケルに頼むのよ。

 駄目だって、二人きりでとか、何かあったらどうしてくれるの?

 ここは同性のあたしに言うべきじゃないの?

 タケルが断らないからって、やめてよね。


「はい、分かりました」


 タケルは断らない。

 うん、分かってた。

 でもね、今、テスト前で部活も休みなんだよ。

 タケルの貴重な時間が……あたしに使ってくれる時間が減っちゃうじゃん。

 そんな口に出来ない想いが彼に伝わる訳もなく、授業は淡々と進んでいって、昼休みまであっという間だった。

 授業の間、彼が足利さんに教科書を見せようと身体が近づいてるのが許せなくて、無意識に左足を軽く踏みつけてやったくらいで何もなかったわ。

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