社会に適応できなくて

長月夕

第1話 令和二年 某月某日 仮出所


   その日が暑かったのか、或いは逆だったのか

        私は覚えていない


 新たな生活を脳内に幾度も描いては修正したりの日々は終わり、私は駅構内を見回して久方ぶりに[社会]を実感した。

 当日の朝、期待や高揚、不安などの感情は湧かなかった。この時点で自身の変化に気付いて然るべきだったが、目的地に向かうことに気を取られ、私は足早に歩く。

 朝食は食べていなかったが空腹感は麻痺。何かを摂取しようとコンビニに入ったが、選んだのはオレンジ味の小さなゼリーのみ。数秒で終えた久し振りのシャバ食は何とも味気ないものだった。


 社会復帰初日はこうして始まった。


 

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