第13話 雰囲気が変わった……? ◇オフライン◇
第一試合終了後、俺はクラスメイトに囲まれていた。
「桐島、お前、すっげーじゃん!」
「あのシュート、尋常じゃねえよ」
「プロでも通用すんじゃないの?」
「馬鹿言え、あんなのプロでも出来ねえよ」
進級してから、まともに喋ったことも無いような奴らが俺の周りではしゃいでいる。
そうなったのも――俺の活躍によって、うちのクラスが第一試合を勝利したからだった。
試合の結果は25対0。
とてもサッカーの試合とは思えない点差だ。
しかも、その得点の全てを俺一人で叩き出したのだから、そんな状況になるのも当然と言えばそうだった。
終わった後、我ながらやり過ぎたと反省した。
面白いようにゴールが決まるので、つい夢中になってしまったのだ。
「桐島、どっかでサッカー習ってたのか?」
「いいや」
「上手すぎでしょ! てか、なんで今まで隠してたんだよ」
「いや、別にそういう訳では……」
「謙遜かっけー!」
「……」
そんな感じで質問攻めに遭い、俺は戸惑っていた。
こんなふうにチヤホヤされるのは人生で初めての事だったからだ。
しかも、それは男子だけじゃなかった。
クラスの女子達も俺を取り囲み、声をかけてくる。
「桐島君、格好良かったよー!」
「私もー! あんなの見せられたらドキドキしちゃう」
「えー何それ? それって告白?」
「なっ、何言ってんのよ、もうっ! そんなんじゃないわよ!」
「でも、顔赤くなってるよー」
「あーホントだー」
そんなふうに黄色い声が俺の周りで上がる。
これにどう反応していいのか迷っていると、輪の外で声が上がった。
「もうそれくらいにしたら? 桐島君が困ってるじゃない」
そう言ってきたのは学級委員長の
全身から上品そうな雰囲気を醸し出し、整った顔立ちを持つ彼女は誰の目から見ても美少女と呼ばれるような存在だ。
近付き難い、お嬢様の空気さえ漂わせている。
そんな彼女は、男子の間でも人気が高い。
彼女に告白して断られた生徒はごまんといるらしいが、俺はそういう色恋事には疎いので詳しいことは知らない。
そんな彼女が分け入ってくると、まるでモーセの海割りのように人垣が裂けた。
「桐島君も移動しましょ。次の試合が始まるわ。邪魔になってしまうでしょ?」
「あ、ああ……」
次は三組と四組の試合が始まる。
綾野さんの言う通り、フィールドの中で話し込んでいる訳にはいかない。
俺は彼女に促されるようにグラウンドの端に移動する。
それが切っ掛けで人集りは一旦、解散。
次の試合の観戦をする者や、自分達の出場種目に向かい始めた。
場に残ったのは何故か俺と綾野さんの二人だけだった。
ん……なんだ? この状況は……。
俺は特に理由も無く、この場に残っただけだが……彼女はどうして俺の隣にいる??
わざわざ、傍で留まっている理由なんて無いはずなのに。
「綾野さん……自分の試合は?」
俺は思い切って聞いてみた。
すると彼女は表情一つ変えずに答える。
「終わったわ」
「あ、そう……」
会話が終わってしまったーっ!
しかし、この場に残っているということは次のサッカーの試合を観戦するつもりなのだろう。そうに違いない。
「次の試合を見るつもりなのか?」
「興味ないわ」
「……」
益々、意味が分からなくなった!
もう率直に「なんでここにいるの?」って聞きたい。
でも言葉にトゲがあるような気がするので、もう少し遠回しに聞いた方がいいだろう。
「綾野さんは何に出……」
「バレーボールよ。2-0で圧勝だったわ」
全部言う前に答えた!?
「そんな事より、桐島君……」
「はい?」
綾野さんは急に俺の方に向き直る。
そして、その顔はどういう訳か、仄かに火照っているようにも見えた。
視線が合うと、彼女は慌てたように目を伏せてしまう。
「さ……最近、なんだか……雰囲気が変わった……?」
「え……」
確かに彼女の言う通り、雰囲気は変わったと思う。
ゲーム上のアバターに利いている美顔補正が、現実の俺にもかかっているようだし、身長も弄ったので多少、背も伸びているはずだから。
しかし、そこをピンポイントで突っ込まれるとこちらも困ってしまう。
正直に答える訳にもいかないし。
となると、適当に誤魔化すしかないだろうな。
「あー……今更だけど、ちょっとオシャレに目覚めたっていうか……そんな感じ?」
「そ、そう……」
反応がいまいちだぞ……?
言い訳が苦しかったか??
「あ、あの……私……」
彼女はまだ何か聞きたいことがあるようだ。
だが、これ以上、俺のことを調べられると色々マズい。
力の事がバレたら騒ぎになるだろうし、せっかく手に入れた素晴らしい能力なのに、存分に使えなくなってしまう。
それは絶対に避けたい。
何か理由をつけて離れよう。
そう考えた時、木陰からこちらを見ている名雪さんの姿が視界に入ってきた。
「そうだ」
「え?」
「ごめん、ちょっと用事があって」
「あ……」
俺はそう言い残すと、早足で名雪さんがいる場所へと向かう。
これに対し、綾野さんは名残惜しそうな表情を浮かべていた。
俺と綾野さんがそんなやり取りをしていた最中、京也が二人の様子を遠くからじっと見つめていたことは、その時の俺は知らなかった。
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