第9話 これ完全にバグってるだろ ◆オンライン◆


 これは明らかに普通じゃない……。



 勿論ステータスの数値もおかしいが、魔法やスキルではっきりとそれが分かる部分がある。



 今回のレベルアップで覚えたクロスファイアの魔法と、ファストスペルのスキル。

 この二つは公式サイトのガイドを見る限り、本来レベル15で修得するものだ。



 レベル6で得られるものじゃない。

 今回覚えたその他の魔法やスキルについても、やはりこのレベルで得られるものじゃなかった。



 これ完全にバグってるだろ……。

 やっぱ、運営に報告しておいた方がいいだろうな……。



「すごいねユウト! イビルバットを一撃で倒しちゃうなんて……って、どうしたの?」



 俺がぼんやりと自分のステータスを見つめていると、ユーノが心配して駆け寄ってくる。



「いや……なんていうか……俺のステータスがバグってるみたいなんだ」

「バグ? どんなふうに?」



 彼女に自分のステータスを見せてみた。



「わあ……確かにレベル6にしては高い数値だね」

「でしょ? このままプレイしてるとマズい気がするから運営に報告しておこうと思うんだけど……」



「えー、せっかく強いのに? こっそり使っててもバレないよ」

「さらっと大胆なこと言ったな!」



 確かにこのままこのアバターを使えたら、世界で俺だけが特別な感じがしてワクワクしてくるし、ゲームも優位に進められる。



 でも、下手に使い続けてチーターと間違えられ、垢BANされたら元も子もない。

 せっかく手に入れたノインヴェルトの生活を失いたくはないからな。



「もしかしたら、クエスト報酬で得た、成長ボーナスかもしれないよ?」

「そうか?」



 そんなようなクエストは受けた覚えは無い。

 NPCと話していて知らぬ間にフラグが立っていたとしても、そもそも受けたクエストは受注リストに載っているはずだ。



 一応ステータス画面で確かめてみたけど、やっぱりそんなのようなのは無かった。



「ともかく、放置しておくのは気持ちが悪いから報告だけはしておくよ」



 そう言って俺はヘルプウィンドウの端っこにある問い合わせボタンをタップする。

 開いたフォームに今回の現象について、ささっと記入し、送信した。



 これで、よし……と。



 俺が事を終えたことを見計らってユーノが聞いてくる。



「これからどうするの?」

「そうだな……バグった状態でゲームをやり続けるのもどうかと思うし……残念だけど今日はこれでお開きかな……」

「そっか……」



 彼女は残念そうに俯いた。

 楽しそうにしてたのに申し訳無い気分になる。



 すると突然、彼女は嬉々とした表情で顔を上げた。



「あ、でも雑談なら問題無いよね!」

「え?」



「私、ユウトと色々話したい! ゲーム以外の事も……」

「俺と……?」



 会話の引き出しなんて全然持っていない陰キャの俺と一体、どんな話が出来るって言うんだ?

 それでもゲームの事なら盛り上がれるが、それ以外の事となったら……てんで思い付かない。



 しかも女子相手に……。



「面白い話なんて出来ないぞ……?」

「別に気を遣う必要は無いよ。私がユウトの事をもっと知りたいだけだから……」



 彼女は頬を染め、照れ臭そうに言ってきた。



「俺の事……?」

「そう、例えばその……彼女はいるの? とか……」



「かっ……彼女!?」

「えっ!? その驚き方はやっぱりいるの!?」



 生まれてこの方、そんな質問はされた事がなかったので激しく動揺した。

 勢い良く、ぶるぶると首を横に振る。



「い、いるわけないじゃん! そもそも誰かに好かれるような人間じゃないし、俺……」



 急に何を言い出したかと思えば……彼女はいるか――だって?

 陰キャまっしぐらの俺は、どう見たって百人が百人、恋人がいるようには見えないと言うだろう。



 彼女イナイ歴=年齢の俺にそれを聞く??

 いくらなんでも節穴過ぎるだろ。



「……本当に?」

「嘘を言ってどうすんだよ」



 すると彼女はホッと胸を撫で下ろし、こう言った。



「よかったー……」



 良かった……だって?

 それって、どういうこと??



 鈍感な俺でもなんとなく察することは出来るが……。

 まさかそんな……何かの間違いだろ?



 彼女は目の前で俯いたままモジモジとしているし……、

 こっちも、なんだか心臓がバクバクしてきたぞ……。



 場に漂い始めた緊張感に押し潰されそうになりかけた時だった。



 ピピッ



 突然、通知音が脳内に響いた。



「ん……?」

「どうしたの?」



 コンソール上を見ると、メッセージの項目に新着の印がある。

 開いてみると、宛名はノインヴェルト運営事務局となっていた。



「運営からだ」

「もう返事きた!」



 まさか……そんなに早く?

 いくらなんでも早すぎだろ。



 でも、それ以外に運営から直接メッセージが届くような理由は無い。



 何はともあれ早速、中身を読んでみた。



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[ダイレクトメッセージ]

 差出人:ノインヴェルト運営事務局

 件名:Re:ステータスのバグについて

 宛先:ユウト


 本文:ユウト様

 いつもノインヴェルトをプレイして頂きありがとうございます。

 並びにお問い合わせありがとうございます。


 さて、今回お問い合わせ頂いたステータスに関するバグについてですが、私共運営側で検証してみた所、問題が無いことを確認致しました。

 ソフト側に於ける通常仕様で御座いますので、このままお楽しみ頂ければ幸いです。


 これからもノインヴェルトオンラインをよろしくお願いいたします。

--------------------------------



「……」



 文を読み終えた後、俺の中でしばらく時が止まっていた。

 数秒経って、我に返ると――、



「な……なんだって!?」



 思わず、そう叫んでいた。


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