第15話 遂にわかってくれたのだぁ!?
「おはようなのだ! 皆、今日は楽しい楽しい持ち物検査の日なのだー!」
「なにそれ楽しくねーよ!」
「そうだそうだー!」
朝のホームルームが始まる直前。鮮やかな白の夏服に身を包み、佳代は教壇に立って大きく手を広げた。刹那、主に憲太郎と国近から飛んでくるブーイング。しかし佳代はそんな二人をズビシッと指さし、堂々と口を開く。
「何を言うのだ。持ち物検査は楽しいのだ」
「楽しいの勘解由小路氏だけな可能性大」
「やかましいのだ」
銀髪黒マスクこと
「それでは
話題を乱暴にぶった切り、佳代は阿加井の机に歩み寄った。満面の笑みを浮かべて彼を見つめ、こくりと首を傾げる。
「それでは鞄の中身、見ていいのだ?」
「は? 嫌だし」
「即答なのだ!?」
「勘解由小路氏、それ当たり前」
冷静な
「わざわざ見せるとかマジないわー。プライバシーって言葉知らねぇの? 一高生」
「一高は関係ないのだ。それに誰も見てないからって信号無視をする理由にはならないのだ」
「それとも何、見せられないものでもある系?」
「は、はぁ!?」
銀髪の下の瞳をすっと細め、
「い、いやいやいや、何もねぇからな!? トレーディングカードゲームなんて持ってきてねえからな!? ましてやバト〇ピとかデュ〇マとかヴァン〇ードとか持ってきてるわけねーだろ!?」
「……墓穴乙」
「はっ!」
あんまりにもペラペラと話されて、思わず呟いてしまう
「……バ〇ューダ
「ああああああああああッ! ごめんなさい顔で選びましたああああああッ!!」
「ああああああああああッ! 兄貴の部屋からこっそり盗みましたッ!!」
――同時に絶叫が響いた。美少女デッキを見られて断末魔を上げる阿加井と、反対側の席でエロ本を見られて絶叫を上げる渡部。悲鳴の二重奏に、クラスの空気が一気に冷え込んでゆく。流石にやりすぎだろ、と頭を抱える兆。
「……やべぇ……性癖バレる呪いかかってる……」
「今年の風紀委員恐るべし……」
「はーっはっはっは! 不要物を持ってくるからこうなるのだ! 自衛には気を配るがよいのだーっ!」
「……自爆乙」
悪役の如き決め台詞を吐き、佳代と
「言っとくが、変なものは入ってねえからな」
「ふむ……では、失礼するのだ」
そう前置きし、鞄のファスナーを開ける佳代。中を覗き込むが、石ノ森の言葉通り特に変なものは入っていない……と思いきや、
「……小学生用の弁当箱?」
「なのだ?」
「……しまった、妹の弁当箱間違えて持ってきたみたいだ……」
ばつが悪そうに俯く石ノ森に、槐は小さく息を吐く。口を開きかけて――遠くの席で椅子を蹴立てる音が響いた。弾かれたように顔を上げると、赤茶色の髪をした体格のいい男子生徒が彼を見つめている。
「石ノ森、お前妹いたのか!」
「うるせえぞ八手」
バッサリと切り捨て、石ノ森は鞄をひったくる。深く溜め息を吐き、困ったように口を開いた。
「……あとで親に連絡しないとな……はぁ」
◇
「さーて! 次は
「……」
目を逸らす
「いいよー。堂々と見ちゃってー」
「……本当におけ?」
「いいからいいから。佳代ちゃん……と、誰だっけ? 霧ちゃん? 俺は特に見られて困るの持ってないからさ、どんどん見ちゃって」
「……りょ、了解なのだ」
妙に素直な憲太郎だけれど、その口元には余裕の笑みが浮かんでいて。首筋にちりつくような感覚を覚えつつ、佳代はスクールバッグのファスナーを開け、中身を検分する。教科書、ノート、ワーク、筆記用具、財布。スマホ……は許容範囲として、その他の不要物が一切ない。
「……マ?」
「ま、ま、まさか上原……」
派手な音を立て、シンプルなスクールバッグが机に落ちる。わなわなと震える佳代の指先を眺め、憲太郎はきょとんと首を傾げた。
「つ、遂にわかってくれたのだぁ!?」
「……ほえ?」
「よかったのだ、わかってくれたのだぁ! やっぱりスマートにやりたいよな、なのだ! 流石は上原くん、わかってくれるって信じてたのだ……!」
「そ、そそそ、そーそー! 俺もようやくわかったわけですよー」
「ウソつけぇ!!」
――ほんわかしかけた空気を、炎を纏った拳のようなハスキーボイスが殴り飛ばした。はっとして振り返ると、赤メッシュの入った黒髪の少年――国近の鋭い視線。大きな瞳は憎々しげな光を宿し、憲太郎を睨んでいる。
「俺、見たぞ。上原が佐々木に金渡して、不要物っぽい漫画とかゲームとか、佐々木の鞄に放り込んでるとこ」
「っ!?」
弾かれたように憲太郎に視線を向けると、彼はめんどくさそうに頬杖をついていた。むっと口を尖らせ、国近に反論する。
「はーぁ? そんなことしてねーし」
「いいや、してたね。俺見てたぞ」
「濡れ衣着せんのもいい加減にしろよ国近。ふざけんなよ」
二人の声のトーンが徐々に冷え切ってゆく。佳代は慌てて二人の言い争いに口を挟もうとして、
「お前ら、いい加減にしろッ! 圭史さんに迷惑かけるような真似――」
「シャラップ、キザッシー」
ひどく静かな声が教室を震わせた。憲太郎の緑色の目は夜の闇のような光を湛えていて、兆は思わず身をすくませる。彼は重い音を立てて立ち上がり、暗い瞳で国近を睨みつける。
「――覚えとけよクズ」
「ハッ、上等じゃねーか。本当のクズはどっちだかな」
捨て台詞を吐き、憲太郎は隣の席の佐々木の鞄をひったくった。自分のものと思われる私物を机に並べ、子供のようにそっぽを向く。深く溜め息を吐き、佳代は漫画やゲーム機の数々を検分した。とりあえず回収し、ズビシッと彼を指さして言い放つ。
「……変な期待させるななのだッ! 持ってきたなら持ってきたってはっきり言うのだ! あまつさえ同級生に濡れ衣着せるとか最低なのだッ! 次はないのだぞッ!」
「へいへい……」
面倒そうに机に突っ伏し、憲太郎はそのまま寝息を立て始めた。肩をすくめ、佳代と
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