竜と聖魔とバツ2亭主

マルルン

 夫婦初召喚の章

第1話 基本、ソロってます




 少しだけ、ファンタジーRPGと言うゲームのジャンルの話をしよう。そう、少しだけ……話の導入程度に、読み手が退屈しない程度に。

RPGとはロールプレイングゲームの略だ、つまりは架空の世界で生活し、且つ冒険するキャラを操作するゲーム全般を指す言葉だ。


 今では市販ゲームのタイトル群に、当然のように入り込んでるが、一昔前は探すのが難しいジャンルでもあった。つまりはアクションとかシューティング全盛の頃には、特に。

 家庭用ゲーム機が普及し始めて、徐々にそのタイトル数も増えて来た訳だ。


 最初のRPGのタイトルは、全てが舶来の移植モノばかりだった。しかもそのゲームの性質上、一人プレイが中心で対戦や協力とは無縁と来ている。それでもあるタイトルの爆発的ヒットと共に、日本中にその名を定着させる事に成功した。

 改まって口にするのも野暮ったい、ゲームが好きな人ならば、まず知らないってのは有り得ない有名タイトルだ。まぁ、その圧倒的な認知度故に、日本のファンタジーの王道がそこで固まってしまった感もあるけれど。

 つまりは剣と魔法を操る勇者が、最終的に悪い奴をやっつける的な。


 その過程で、お姫様を救ったり数々のクエストを解いて回ったり。テンプレとしての、冒険者の生い立ちだ。各地の宝箱を開けて回って、レベルを上げたり装備を新調したりして。

その後ある別のメーカーから、双璧となる某有名タイトルが発売された。海中や大空を乗り物を使って自由に冒険し、シリーズでは恋や友情を前面に押し出して喝采を浴びた例のアレだ。

 両タイトルとも長期にわたってシリーズ化され、社会現象まで引き起こして。ジョブとか種族とか、武器の種類とか各種魔法とか、変に系統化して子供達の知識に組み込まれたりして。

 ゲーマー連中のハートを、がっつり掴んだ感じだろうか。


 RPG知名度の普及とともに、たくさんのゲームが販売された。洋風ファンタジーや和製モノ、スタンダードな設定のゲームや海外移植モノ、更にはそれこそ珍妙設定の色モノまで。

 売れる時にはどんどん出す、市場の摂理に沿う形で。



 時代は進んでネット普及世代、常時接続が当然のサービスになって久しい頃。一人プレイが当然のRPGに、とても大きな変革の波が押し寄せた。ネットに繋がった者同士の、対戦及び協力プレイの到来である。

 俗に言うオンラインゲームの時代が、ここに始まった。


 ここでも当初から海外作品が目立っていたが、日本のゲーム業界もそれなりに頑張った。様々なヒット作品が世を賑わし、ユーザー連中に支持されて主流の座を勝ち取って行ったのだ。

 同時にポリゴン性能やパソコン機能の進化により、ゲーム内のキャラや景色が格段にリアルになって行った。これによって、更に独特の世界観や生活感が表現可能になった訳だ。

 ネットの普及により、オンライン内に新世界が生まれた事になる。


 ここから皆は知らないだろうが、ゲームの進化はまだまだ止まらない。ユーザー達の間でコレは来るだろうと常々から囁かれていた、バーチャルステージへの階段。

何しろこのバーチャ分野、医療や軍事、建築や災害訓練など多岐に渡って活躍応用範囲が約束されているのだ。

取り組む企業も、力が入ろうと言うモノ。


 世間に必要とされる技術と言うものは、思ったよりも短期間に発展する。当然の如く、各ゲーム企業がこぞってこの分野に参入して行って。ほぼ時を同じくして、数々のタイトルが世に放たれて行った。

 そんなタイトルの中に、『ファンタシースカイ』もあった。


 このゲームの世界観を一言でいうと、至って標準的な異世界ファンタジーだろう。剣と魔法と各種モンスター、個性豊かなキャラクターと美麗な風景の中での冒険進行。

神様によって創成されたその世界は、基本は中世の西洋ベースである。売りと言うか、変わったシステムとして“カルマシステム”と言うのが目を惹くけれど。


 これを簡単に説明すると、良い事をしたら良い縁が、悪い事をしたら悪い結果がやって来ますよって意味だ。自分の造ったキャラを中心に他PCやNPC、更にはモンスターにまでそのえにしは影響を及ぼす。

 今ではオンラインゲームの良さは、その自由度に起因するのだけれど。自由に、つまり自分勝手に行動し過ぎると、後で厄介な破目に陥りますよと。

 つまりはそんなシステムで、一風変わったアルゴリズムではある。





 桜庭央佳さくらばおうかは、そんな売りや世界観に魅せられてこのゲームを始めた若者の1人である。キャラ名は桜花おうかで登録、ネトゲ経歴はバーチャ到来以前から、通算10年以上の23歳だ。

 他にも自由度の高さは、他のゲームと較べても全く遜色ない。最近のゲームの風潮として、ゲームはまったり簡単操作系と、やりこみ複雑世界系の2つに分類されるが。

 ファンスカは完全に後者で、マップも自由度もとことん広く深く作られている。


 央佳は根っからのゲーマーで、ファンスカに出逢うまで色々なタイトルをプレイしていた。そしてたまたまこのゲームに辿り着き、自由な設定や奥深い世界観に魅了された訳だ゛。

 そんな訳で、『ファンタシースカイ』――通称ファンスカのサービス開始の割と当初から、央佳はその架空世界で冒険に勤しんでいた。まぁ一応、ほとんど全てのクエやカテゴリーを網羅する程度にはのめり込んで。

 その結果、ファンスカではトップクラスの冒険者になっていたりして。


 ファンスカはアイテム課金制ではなく、月額契約制である。その為、他のプレーヤーに先んじようと思ったら、とにかく時間を掛けて強くなるしかない。

ただこのゲーム、やたらと期間限定イベントが多いのも売りのひとつで。その勝者は結構良いモノを貰えるものだから、イベント開催の度に白熱した争奪戦が行われる訳だ。

そしてその勝者は、羨望と賞賛の目で周囲から称えられる。


 央佳がトップクラスになったのは、別に廃人並にゲームにログインした結果では無い。何しろ彼は社会人で、しかも結婚していて可愛い奥さんまでいる身なのだ。

 イン時間は極端に限られてしまうし、まぁ奥さんは割とゲームに理解のある方なのだけど。それでも同じ室内で過ごしていて、片割れが何時間もバーチャ世界に浸っていられる訳もなく。

 自然とゲームは、一日2時間までとの約束が出来てしまっていたり。


 それでも央佳は幸せな方だと、本心から思っている。同じ境遇の既婚者ゲーマーに訊いた話では、そんな嫁さんは本当に稀なのだそうで。

中には壮絶な夫婦喧嘩の果てに、筐体を窓から投げ捨てられたりとか、ネット自体解約されたとか、怖い話がどんどん出て来る始末だったり。

世の常識は、夫の趣味の追及にはとことん冷たい様子。


 とにかく、そんなネット事情でトップになれたのは、親切なギルド仲間と限定イベントでの勝率のお蔭であろう。短いので5日間、長くて4週間で開催される限定イベント、勝者には名声と特別報酬が与えられるのだ。

 そこで幸いにも、2度の優勝と何度かの入賞を果たす事が出来て。



 そこから話は、やや複雑になって来てしまう。そこで勝ち取った景品と言うか褒賞が、ちょっと皆の予想から掛け離れたモノだった訳だ。

それはもちろん、当人の桜花にとっても。


 この出会いまでの過程を端折ると、後に色々と不都合も生じて来るのだが。そこを敢えて結果だけ言うと、彼のアバターはいつの間にか子持ちになっていたのだった。

 そんな訳で現在の彼の肩書きは、バツ2の4人の子持ち冒険者である。


 ファンタジーRPGでは考えられない肩書きだが、事実なのだから仕方が無い。それでどんな恩恵を受けるのかと問われれば、とにかくその子供NPC達が強烈に強かったりするのだ。

 それこそ、ゲームバランスが崩壊する程度には。


 ゲーム世界で、プレーヤー同士がパーティを組むのが普通になってから、キャラには役割が付いて回るようになった。盾役や削り役、回復役や支援役など、各々が責任をこなして戦闘を有利に運んで行くのが通常のスタイルである。

 この役割分担をそれぞれ責任を持ってこなすのが、ゲームの面白い部分でもあるのだが。桜花の娘達に限って言えば、それをぶち壊すやんちゃ振り&暴れっぷりで。

 命令を聞かない娘達のお蔭で、パーティでは肩身の狭い思いをする破目に。


 言ってしまえば、それは現実世界でも当て嵌まるのかも知れない。小さな子供のいる家庭に聞けば、大抵子供は凶暴なモンスターだと答えが返って来る筈だ。

 そんな事は、まぁどうでも良いのだけれど。央佳も結婚はしているが、子供はまだ授かっていない。周囲の既婚者の言葉で、厄介なのは承知してはいたけれど……。

まさか、ゲーム内で早々に知る破目になろうとは。


 嫁さんにはナニ浮気してるのと、散々愚痴を言われてしまった。アレを浮気と確定されると、央佳としても辛いものがあるのだけれど。とにかく大きなものを得た代償に、彼は気楽にパーティに加わる自由さを失った勘定だろうか。

 何せ破天荒な、子供たちの行動は制御不能なので。





 そんな訳で、最近の桜花は――基本、ソロってます。







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