異世界転生したはずなのに私に使命はないようです。
高里奏
序 別に逃がした魚が大きかっただとかそういった話じゃない。
なんだか納得がいかない。
別に逃した魚が大きかっただとかそういった話じゃない。今でも頼まれたってあんな馬面の女装趣味男との結婚なんて絶対嫌だし、よくある破滅エンド迎えたいわけでもない。
だけど、納得がいかない。
どうしてあの
納得がいかない。
立ち入り禁止の看板を無視してアレクシスの
「納得できないわ!」
「そりゃお嬢の性格の問題ですわー。お嬢は異世界転生に夢見過ぎなんですって」
アレクシスは自分の手元から視線さえ動かさずに言う。
かわいくないの。誰のおかげで発明を続けられていると思っているのかしら。
「アレク、あなたはもう少し私を敬いなさいよ!」
「お嬢に飼われている自覚があるからお嬢の無理難題ドレスの素材を提供してるじゃないっすか」
アレクシスは気怠そうに言う。
これは彼の標準だ。いつも気怠そうで、どこか眠そう。でもめちゃくちゃ頭がいい。この世界にないはずの発明品を次々に生み出している。
「アレク、あなたの作る自慢の人工知能とやらで私にぴったりの素敵な結婚相手を見つけてちょうだい。絶対アンジェリーナよりも幸せになってみせるんだから」
気に入らない。なにもかも気に入らない。
結婚した途端に今まで見向きもしなかった夫に夢中になったアンジェリーナも、あんなに私のことを好きと尽くしていたくせにあっさりと他の女と婚約したクリスもみんな気に入らない。
こんなの私のファンタジーじゃないわ。
「お嬢はまずその他力本願をなんとかしてくだせぇ」
アレクシスは気怠そうにそう答え、ようやく手元のなにかを完成させたらしい。
「今時ワープロって化石だと思ってたけどこっちだと革新的な発明なんだなー」
「ちょっと、そんなものどうするつもりなのよ」
「いや王子様が書類仕事をもっと楽に終わらせる道具がほしいって言うんで」
拙者の時代は音声入力すら珍しかったんですがねぇと彼は言う。
「え? アレクの故郷ってどんな感じだったの?」
「考えたら勝手に機械の方が入力してくれるんで……あー、でもこっちにも似たような魔道具はあるっすねー。自動書記ペン。ただ、相当な魔力持ちじゃないと使えませんが」
科学の利点は魔力を持たない人間も同じことができるようになるということだとアレクシスは時折力説している。
「それでも、その機械はなにができるの?」
「え? ただ文章を入力するだけですけど。変に人工知能とか組み込んで悪用されたら後々面倒ですし」
それにこのくらいの機能だと故障も少なくて修理も楽と彼は続ける。結局彼が横着したいだけだ。
「ちょっと! ちゃんと私の素敵なお婿さんも探してよね!」
アレクの作る人工知能ならきっとすごい人を見つけてくれるはずなんだから。
言いたいことだけ言ってアレクシスのラボを出る。
今日はこれから転生者の集会という名の持ち寄りパーティーだ。体重を増やさないように気をつけないと。
なにせ肥満愛好家が二人もいる集まりなのだから。
溜息を吐き身支度を調えるため部屋へ向かった。
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