第135話 悲しみの再会

 神妃の元で侍女をしていて、失踪した者は数知れずと聞いている。


 その中で再会叶ったなど。


 もしかしたらとても珍しく、あるいは幸運と取れるのかもしれない。



 そう簡単な理解を努力するフィルメラルナの視界の隅で。


 とうとう決壊してしまった涙を、外套の裾で払いながら、ミル――ミシェル・サンテスがコクコクと頷いた。



「お兄様が驚かれるのも無理はありません。随分前に失踪した妹が、イルマルガリータ様の名代として現れたんですものね。これには深い事情があるのです。あ、それ以上近づかないでくださいっ!」



 ミシェルの側へと歩を進めようとするエルヴィンを、強い口調で制した。


 彼女の決然とした態度に、エルヴィンも足を止める。



「訳があるのなら、あとで聞こう。おまえは私と帰るんだ」



 どこへとも知れずいなくなった妹を、エルヴィンとその家族はずっと探していたのだろう。


 再会できた今、彼女を連れて戻るというのは、兄として当然の申し出だ。



「……いいえ、お兄様。わたくしはもう、以前のミシェルではありません。神妃であられたイルマルガリータ様の、ご遺体を持って現れた罪深い女なのです」


「まさか、おまえが――」



 信じられないと首を緩く振りながらも、絶望に向けてエルヴィンの表情は青く陰っていた。


 神妃殺害に手を染めた人物というならば、彼女を捕らえ裁かなくてはならない。



 それは、決して死を免れない制裁となる。


 彼女の兄であるエルヴィンや一族とて、罪を問われるだろう。



「待って、わたしたちがここへ来た目的は彼女じゃないわ。それと、忘れないで。わたしたちは忍んで来たのよ」



 秘密で外出したのだ。


 イルマルガリータの遺体を持って帰ることすら危険なのに、罪人として彼女を連行するなど無理無体。



 それに、まだ何も真実は明かされていないのだ。



 渋面を作るエルヴィン。


 彼を制したフィルメラルナに、ミシェルが儚い笑みを向けた。



「ありがとう……あなたにも、辛い想いをさせてしまったわね」



 疲れたように目を伏せるミシェルはやつれていて、よく見れば、立っているのもやっとというほど、足元も小刻みに震えてしまっていた。


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