第八部 希望の詩 ディージー・タウン
67時限目「反撃【評議会ファントム】」
突如、アーズレーターに映し出される映像。
それは……いつ、どこで撮影されたのかもわからない、ドリア・ドライアの映像だ。
『ごめんなさい、そのっ……』
『ぶつかって、その程度かぁ、アアァンッ!? 誠意が足りないなぁ、誠意が!!』
数年前。クロード・クロナードが起こした不祥事の映像。
いや、正確には……“ドリア・ドライア”が起こした不祥事というべきか。
ぶつかってしまった。それに対して、謝罪はした。しかし、ドリアはそれに対し、何も思わないどころか、むしろ倍返しにしてやろうと暴力に当たる。執拗以上な攻撃とその質の悪さが、今になっても感じ取れる。
『もういいだろっ!!』
クロードは、その行動に我慢できずに手を回した。
その瞬間も又、映像が回される。ドリア・ドライアの発言通り、クロード・クロナードは魔法を使って、ドリアを攻撃した。
しかし、それは友を想っての行動であると映像を見て思われる。
ドリア・ドライアの“理不尽な攻撃”。突然の質の悪い奇襲、というには、発言とは異なる光景である。
___再び、映像が切り替わる。
『フザけやがって……俺を、俺に良くも、こんな恥を……!』
魔法による攻撃を受け、軽いケガを負ったドリア。
しかし、それは擦り傷程度。それもそのはずだ。クロードは攻撃してしまったとはいえ、大けがにならないようにしっかりと加減をしていたのだから。
『お前達……言われた通りに手を回せ。まずはあの場にいた生徒達を騙らせろ。そして、俺の用意した罪状を作り上げろ』
それは……クロードが”学園を去ることになった“日の前の出来事だ。
恥をかかされた。そんな理由で権力を駆使し、クロードを退学まで追い込んだあの出来事。嘘でっち上げなど、エビで鯛を釣ると同理の材料を用意し、クロードを破滅に追い込んでいく。
大ケガも嘘。全てはドリアの作り上げたドラマ。
クロードもその家族も、友人も何もかもが追い詰められ……彼が、ディージー・タウンへやってくることとなったその日の全てが映像として流される。
「これって……」
流される映像は、ドリアのものだけではない。
クロード、そしてその家族。その家系の状況も、映像として流される。
『ディージー・タウン。ここに逃げたのか』
そして、映像はドリアが街へやってくる数日前にさかのぼる。
『……なるほど、結構ワケありの街だな。壊すのは簡単だな……お前達、夏季休暇はここへ行くぞ。アイツに微塵も施しを与えてなるものかよ』
次に映し出されたのは、ディージー・タウン壊滅計画だ。
市長の元に、ドリアの配下を送り込まれ、市長を毒により意識不明の状態に。事実上、この街の権利を得るための計画。
ロシェロの巨兵計画。それに関することも。そして、すべての計画の為、邪魔となった人物を裏で暗殺し続けたすべての計画も。
何もかもが、映し出された。
全ての証拠がアーズレーターに映し出されたかと思うと……アーズレーターの通話は、一方的に切られてしまい、結局正体も分からぬままに終わってしまった。
「今のって、全部……」
イエロも、見覚えのある映像が幾つかあって唖然としている。
何故この映像が突然流れたのか。そして誰が流したのか。相次ぐ困惑に動揺を隠せない。
「……クロード君。街に入ってすぐの公園。そこが一番近い」
腕を引き、クロードを立ち上がらせる。
運の良いことに、先ほどの転倒のショックはそれほどアカサには届かなかったように見える。
「“アカサ君を助ける手段”がある。そこまで走れ。時間がない」
ジーンは、心の折れかけていたクロードの肩に手を乗せる。
「負けるな。あんな性根の腐った小悪党に」
それだけ言い残し、ジーンは向かっていく。
戦場。ブルーナの残った、あの爆弾配置所へ。
「……行こう、クロード」
そっと、イエロもクロードの肩に触れる。
「お前は“一人じゃない”」
味方がいる。
誰も彼を恨むものはいない……それだけは曲げようのない真の意思。
「____うんっ」
暗黙の後、クロードは首を縦に振る。
イエロと共に、ジーンの指示した街の公園にまで、残る体力を使って走り出した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アーズレーター。二度目の緊急警告が終わった。
しかし、それはどこかの偉い人からの警告なんかではなく……ドリア・ドライアに関する情報が全て流されただけである、一種の電波ジャックであった。
結局、誰が流したものなのかも分からずじまい。
「なんだ!? なんだ、あの映像はッ!?」
だが、決定的なダメージとはなっただろう。
評議会……その名を翳して、好き勝手暴れまわっている悪党に対しては。
「いつだ!? 誰が提示した……!? 貴様らか!?」
ドリアは、近くにいたボディガードへ問う。
「いいえ、我々はお坊ちゃまを裏切ってはいませんよ。いつの間にか撮られたのでしょう」
「ええい……役立たず共が!! いつの間に、こんな映像を撮らせるなんて……フザケるなよ、クズ共がッ!!」
瞬間、ドリアは手のひらを閉じる。
そして、目の前にいたボディガードの顔面を殴った。
キングと呼ばれた殺し屋同盟の一人。何の抵抗もなく、頬を抑えることもなく、それを受け止める。つけていたサングラスにヒビが入ることになろうとも。
「如何、なさいますか?」
「……あの映像を用意した何者かは、きっと街中にいる。逃げるにはもう遅い」
ドリア達は既に、街の入り口のすぐ近くにまで到着している。
「“アークに仕掛けた魔力爆弾”を作動させる……」
「よろしいのですか。証拠が提示された以上、そんなことをすれば、」
「証拠なんて幾らでも消せばいい……簡単なことだろ……?」
証拠。それを知った人間。それを知らせた人間。
この世から、その証拠が消えてなくなればいい。ドリアは爆破を強行。全てがこの街の外に出回る前に、全て火花と共に散らせるつもりだそうだ。
「行くぞ! 作動させるには俺自らが起動させる必要がある……俺を最後まで守り切れ。そうすれば、さっきの映像の失態は許してやる!」
「……御意」
最後のボディーガード“キング”は従う。
ディージー・タウンの象徴、アーク。箱舟にセットしたという爆弾を作動させるため……ドリアの暴走は、今も尚、止まる事はなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
街に入ってすぐ。言われた通り、クロードは公園にやってくる。
近くのベンチにアカサを寝かしつけ、クロードも疲れ切ったのか近くの地面に座り込んだ。
「ほら、水! お前、ここまで休んでないだろ……」
イエロはバッグの中から水筒を取り出し、中に入っていた水をクロードに差し出す。
夏場という事もあって水分は用意しておく必要がある。変なところでマメなイエロは、そんなものを常に持ち歩いているようだった。
「ありがとう」
クロードは水筒を受け取り、水を飲む。
体はやはり正直か、水を飲むだけでも精いっぱいである。そんな簡単な動作一つ、ぎこちなくなるほどに疲労を溜め込んでいた。
「……ここにいれば、どうにかなるって。でも、どうやって、」
「見つけた!」
休憩をとるクロードとイエロの元に、現れる。
「よぉ~!! 久しぶりだなぁ~!!」
その人物は……いつの日かあったエージェント。
名前は確か“カルーア”だった。
「貴方は……」
クロードの視線に映る人物。
ノワールの所属するエージェント部隊のリーダー・カルーア。そして___
「負傷者は、何処ですか」
騎士装束を身に纏う麗人。
エージェントとは異なる、謎の男が彼らの前に現れた。
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