54時限目「因縁の対決【アイランド・クイズ】(その4)」


 イベントが終わり、クイズ大会のスタッフ達は後片付けを。参加者たちは打ち上げにバーベキューやマリンスポーツ。


 全員がそれぞれのリラックスタイムへと戻っていく。



「ロックウォーカーさん!」

 そんな中一人、ロックウォーカー家の所有する豪華船のディナーショーチケットを手に取ったクロードが、企画提案者である彼の元へと向かう。


「やぁ、クロード君」

 

 ジーンはモカニと共にこの後のスケジュールについて話していたようだった。走ってくるクロードに気が付くと、二人は会話を中断する。


「船が出るのは夜の九時だ。時刻通り、皆で海の家に来てもらえれば、」

「あの時」


 無礼を承知。向こうが喋り終わるよりも前にクロードがジーンを見上げる。


「……“わざと負けましたね”?」


 わざと、負けた。

 真剣勝負なんてしていない。ジーンは最終決戦にて、堂々と試合放棄したことをクロードは告げる。


「最後の早押しクイズ。スタッフの悪ふざけ問題以外は……おそらくだけど、分かっていた。そして最後の問題も、僕が答えられるようコッソリ耳打ちをした」


 分かっているはずの問題を、すべて笑顔で受け流していた。

 本当だったら、あのロシェロとモカニの二人よりも一抜けしていた可能性がある。握ったチケットを手に、半ば疑心暗鬼に睨みつけている。


「何故です……」

「まぁ、その、何というか、だがね」


 ジーンは困り果てたように頭を掻きまわす。


「……ここ最近の君達の活動。市民の為にもなっていると報告があったんだ。山奥の魔物退治、物運び……少し前にも、遺跡に隠れた蛇の魔物をエージェントと共に倒してくれたともね。あの一件のおかげで、行方不明事件は見事解決された」


 市民から勿論、王都のエージェントからも賞賛が届いたという。


 謎の研究を続けているサークル。あまり良い噂を聞かない連中であったが、ここ最近の活躍は実に目覚ましい。街の平和の為、活動を続けているロックウォーカー家の人間としても、その姿は賞賛できるものだと彼は告げる。


「そのディナーショーは、そのご褒美のようなものと思ってくれればいい」

「だったら、なんでわざわざ、あんな回りくどい企画を……?」

「今日一日楽しんでもらいたいと思ってね。あまり、面白くはなかったかな?」


 あのクイズ大会も、良い思い出作りの一環として用意した企画だとジーンは告げる。

 

「それは、まぁ……」

 クロードはふと思い出す。

「楽しかった、です」

 疲れも溜まったが、友人たちと一貫してクイズに挑むのは楽しかった。


 時に笑い合ったり、時に叱責したり。この疲労もストレスのたまるものではない為に何処かスッキリとした感覚もある。


 面白くなかったなんて事はない。やって損ではなかったことだけは正直に告げた。


「そうか、それはよか、」


「ハッハッハーッ!! モカニ・フランネルぅーー!!」


 またも介入者。

 夏場の空気の中。アウトドアの世界に全くと言っていいほど得意ではないはずの人間……ロシェロが全速力で大笑いしながら、モカニの元へ駆けつける。


「どうだ。今日の勝負は私の勝ちだ。“私が育てた優秀な助手”達の見事な連携による勝利なのだ! 私は君に勝利したのだよ!」


 そんなに大きくもない胸を張って、自慢げにモカニを見上げている。


 ……まさか、そんなことを言うためだけにやってきたというのか。

 あまりにも見苦しさを覚えるマウント、それが天才のやる事だろうか。見た目相応に子供っぽい部分を秘めたロシェロの、いつもより覇気のある笑い声があたりにこだまする。


「……そうね。今回は私の負け」


 しかし、それに対し、モカニはロシェロとは真逆の反応。

 すぐにムキになりやすく、すぐに反抗しがちな彼女と違う。やけにクールで大人な対応を見せて返答する。


「これで60対60。引き分けに持ち込まれた。また勝ち越しに戻せばいいだけの話……今のうちに、束の間の勝利を喜んどけば?」


「ふん。負け犬の遠吠えは聞いてて心地がいい。体以外にとりえのない●ッチにお似合いの姿だとも」


「男に見向かれもしない幼児の姿は発言もおこちゃまね。成人になっても、迷子と間違われて、憲兵に保護されないよう気を付けることね」


「なんだと、コノヤロウ!」


 マウントを取っているはずが、マウントを取られ返している。

 天才同士によるあまりにもレベルの低い喧嘩。サルでもまだ冷静になれる毒舌攻撃に対して、あれほど敏感な地点でロシェロに勝ち目はない。


 あまりに情けない先輩の姿に、クロードは頭を痛めそうになる。

 彼女はそれほどに幼児体系をコンプレックスに思っているという事なのだろうか。



「はっはっは、では私達は失礼するよ。船が出るまでは休憩してくれたまえ……行こうか、モカニ」

「ええ」


 モカニは余裕の態度でジーンと共にその場から去っていく。


 それに対し、ロシェロは手を振ることすらしない。マントの靡く背中に向かって、アッカンベーと舌を出す無礼な真似をするくらいである。



「それじゃあ、ジーンさんの言う通り休憩に」

「……何を言っているのかね」


 ロシェロは舌を戻すと、休憩の為、更衣室へと向かおうとしたクロードの水着を掴む。




「余興は終わりだ」


 引きずるように、クロードを連れていく。


「え、えっと、何が……」

「ここに来た本当の理由」


 海にやってきた理由。

 それは、海水浴をするためでもマリンスポーツを楽しむためでも、ましてやロックウォーカーの子息が用意したクイズショーを楽しむためでもない。


 ロシェロがこの海へとやってきた“本当の理由”。



「さぁ、シャドウサークル活動の時間! まずは腹ごしらえだ!」


 目をキラキラさせながら、ロシェロはクロードと共に……昼食で海の家にいるメンバー一同の元へと向かっていった。

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