54時限目「因縁の対決【アイランド・クイズ】(その3)」


「“ミスリル”!」


「“炎の魔導書を原動力に使う”!」


 早抜けクイズ。その後も、エキーラとブルーナが続く。


 予想通り、各チームの頭脳派が先に抜けるという展開になった。悪ふざけのチュートリアル問題含め、たった数分近くでそれぞれ三人にまで減った。


「次は、僕の番、かな……」


 クロードも構える。

 もしも想像通りの展開になるならば、クロードとジーンのどちらかが先に抜けることになるだろう。


最終的には、勉強のできない残った四人組のサドンデスバトルへきっともつれこむ。耳を澄ませ、クロードは次の問題に待ち構えていた。


「クロナード」

 ステージから立ち去る前、ブルーナがクロードの元へ寄ってくる。

「……おそらくだが、」

 クロードにだけ聞こえるように、何かを耳元で呟いている。




「この勝負。私達が必ず勝つぞ」

「え……?」


 ブルーナは謎の自信をもってそう呟いた。

 バカの度合いであれば、残るであろう四人は何れも良い勝負をするだろうと、ロシェロやモカニが向こう側でブツブツ言っている。実際、馬鹿四人本人もそれを覚悟しているようだった。


 だが、ブルーナは“良い勝負云々は関係ない”、と。

 勝負は恐らく、シャドウサークルの勝利に終わる。何の根拠があっての言葉なのか分からなかったが、ブルーナはそれだけを言い残して去って行った。


「僕達が、勝つって……」


 言い方次第では、『必ず勝ってやる』という意気込みであるようにも聞こえる。

 だが、イントネーションや言葉のアクセントからして、そっちの線の確率は低いようにも思える。


「どうするんだよ……問題、やっぱ難しいのばっかだぜ?」

 クロードが困惑してる間も、ソルダは焦っているようだった。 


 ……少なくとも、入学してから赤点取りまくりのソルダだ。四人の中でも一番頭が悪いのは自覚しているのか、この後の展開に焦りを感じているようだった。


「……大丈夫ですよ。ソルダ先輩」


 しかし、アカサは言う。


「もし、私の読む展開通りなら……」

『第4問!』


 困惑の中、アカサが説明するよりも先に、司会者が次の問題を繰り出した。




『私の好きな食べ物は何でしょう!』


「……たぶん、知識もクソもない直感問題出ますから」


 完全に運試し。

 スタッフの悪ふざけ。それをチュートリアル問題にしろよと言いたくもなるクソみたいな問題が途中で挟まれる。今までの経験から、アカサは推測してみせる。


 学力まったく関係なしのバトルが必ずどこかで挟まれる。予想通りの展開にしてみせたことで、アカサは自慢げに胸を張っていた。



「……運試し問題は来たけどさ」

 胸を張るアカサの後ろで、クロードは呟く。





「答えられなかったら、結局意味ないじゃん」


「……だったわ」


 さっきは●×クイズとかだったからどうにかなった。

 だが、今度は五十パーセントの運試しですらない本物のクソ問題。難易度が高いにも程がある問題を前、一同は溜息を漏らしたくもなる。



「すいません! ヒントを頂けないでしょうか!」

 たった一人、ジーン・ロックウォーカーが正直に手を挙げてヒントを訪ねる。


 好きな食べ物、とだけでは直感で当てようにも範囲が広すぎる。

 せめて、枠を狭くしたい。残りのチームメンバーの反応を見ての対応。今回ばかりはジーンの振る舞いに感謝したくもなった。



『ヒントは……肉料理だぜ!!』


「ハンバーグ!」「ステーキ!」「ミートボール!」「七面鳥!!」


 馬鹿四人、一斉に挙手し、一斉に解答する。

 解答兼を得たかどうかも分からないというのに急かす連中である。スタッフたちも誰がどう言ったのか耳を向けるのも一苦労である。


「ステーキ正解! 解答者のソルダは抜けていいぜ!」

「オッシャァアアーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


 勉強に一番自信のなかったソルダはガッツポーズをしながらステージを去る。もしかしなくても、あてずっぽうの解答。ビンゴだったことが余程嬉しかったのだろう


『第五問! 俺の出身地は何処でしょうか!』

 ただでさえ冷え切っていた空気の中、また、空気が張り詰める。


「……この問題、しばらく続くんですかね」

「たぶん、ね」

 クロードは目を点にして司会者を眺めるだけ。ジーンも人選をしくじったかと苦笑いを浮かべながら頬を人差し指で掻くばかり。


 最早頭で考えるというよりは、頭に浮かんだ言葉で殴りつけるだけのサドンデスマッチ。想像をはるかに超えるクソクイズにクロードはずっと固まっていた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ニ十分後。長く続いた運試しステージ。

 残っていたマティーニ、ゴォー・リャン、アカサの三人もあてずっぽうの解答合戦の末、ようやくステージから去る事に成功する。何れも安心で息を漏らすと同時に、ドッと肩に重荷を感じていた。


「いよいよ、私達だけになったか」


 残ったのは、ジーンとクロードの二人。

 学園の初日、話題をかっさらった二人の生徒が残ることになった。


「……次は、ちゃんとした問題が出ることを祈ります」

「そうだな。その時は勝負と行こう」


 あてずっぽうクイズだけは出ないことを祈る。しっかりと、その頭に蓄えた知識で勝負したい。それだけをクロード達は祈るばかり。



『最終問題!』


 真剣勝負となれば、そこからは正真正銘の早押しクイズだ。

 クロードとジーン。二人とも身構えスタンバイする。



『……我らがディージー・タウンの市長の名前は!』

「!!」


 クロードは途端に頭に手を伸ばす。



(市長の名前……つまり、マティーニさんの父親の名前だ……!)


 この問題、急いで思い出さなければ、ジーンに解答兼を奪われる。

 一般知識はもちろんの事、この街の事も網羅している彼の事だ。時間をかけすぎると先に答えられる。その焦りが、余計に答えを遠くへと押しのけていく。


 このままでは負ける。クロードは焦りのあまり過呼吸にもなり始めていた。



(名前は、えっと……!)

「ブランデイ、だ」


 思い出そうとした瞬間、小さな声が隣から聞こえる。


「……え?」


 クロードは思わず、ジーンの方を見る。


「ブランデイだよ」


 ジーンは手を上げていない。独り言であるかのように、答えを漏らす。


 いや、たまたま言葉が口に漏れたというよりも___

 “わざわざ、クロードに答えを教えているような素振り”だった。



「ブ、ブランデイ・フィナコラダ!」

 

 クロードは手を上げ、市長の名前を叫んだ。



『正解だーーーッ!』


 先に応えて見せたのはクロード・クロナード。

 この地点で……シャドウサークルの勝利が決定したのだった。



「あちゃー、先に答えられたか……今までの疲れが出て、集中が切れたかな」


 わざとらしく。

 ジーンは申し訳なさそうな表情を浮かべながら、頭を掻いてステージから離れていく。


「おめでとう。景品のチケットは後で司会者から渡されるから、そのまま指示に従ってくれたまえ」


 チームの元へ戻っていくジーン。

 待機場所では、マティーニにゴォー・リャン、そしてエキーラの三人が残念そうに項垂れている。もうすぐ、あと寸前で勝利を取りこぼしたことにショックを浮かべているようだった。


 一方、モカニは特に何の興味もない表情を浮かべているようだった。

 ただ……“子供のお遊び”が終わったことに軽く反応を見せるくらいの、薄い反応だ。




「……」


 去っていくジーンの背中をクロードは眺めている。



「やったぜクロード! 優勝だ!」

「信じてたぜーー!!」


 ソルダとアカサが、二人同時板挟みにするようにクロードを左右から抑え込む。



 ……観客席からは歓声の声。

 第一回クイズ大会は___シャドウサークルが勝利という形に終わった。

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