40時限目「優しい薬と燃える薬【タビレ草とハッカ草】」
四時限目まで終わり、昼食を終えてからの午後の部。
サークルメンバーであるアカサとクロードは五時限目の参加をパス。外部協力者であるソルダ達も五時限目には参加せずに、森の薬草集めに協力することになった。
夕方からでは時間が限られる。薄暗くなった山奥ほど物騒なものはない。
何せ、ここ最近、魔物の数が増えているという報告まであるのだ。あまり長居をするのもよろしくなかった。
「んで、全員集合したのは良いけどサ」
点呼がてら、メンバーを見渡していたアカサがふと呟く。
「……なんで、市長の息子さんまでいるわけ?」
そこには見慣れないメンバーが一人。
マティーニだ。彼もまた、五時限目には参加せずに山奥の薬草集めに参加していたのだ。
「はっはっは。困っている市民がいるのなら放っておくわけには行かない。市長の息子として当然の事じゃないか。いつか市長になることを約束されている、このマティーニ・フィナコラダも手を貸すだけの事だ。おかしいことはあるまい」
今朝と変わらず、ハスキーボイスのまま。わざとらしすぎる高貴な笑い声をあげながら、参加表明をしたではないか。
漫画のようなキラキラのエフェクトが見えるようだ。ここまで胡散臭い貴族が他にいただろうか。アカサは感じている、薄気味悪い危機を。
(……ソルダパイセン。私がクロードと一緒に行動しますわ)
(大丈夫かよ?)
(大丈夫っす。さすがにデブ相手になら喧嘩は負けないんで)
アカサとソルダはヒソヒソ話で再び打ち合わせをした。
デブと言ってやるな、ポッチャリと言ってやれ。会話の聞こえていた不良の数名が微かにそう思っていた。
「それじゃ! レッツラゴー!」
それぞれ班に分かれ、散開。
今日のサークル活動(というよりはロシェロのおつかい)、スタート。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クロードはアカサと共に行動。
そして、その後ろからは当然のようについてくるマティーニ・フィナコラダ。
「……えっと、市長の息子さん?」
「同い年じゃないか。僕の事は親しみ良くマティーニと呼びたまえ。はっはっは」
顎に手を置きながら笑い続けているマティーニ。
「結構、こういう薬草探しとかには慣れていらっしゃって?」
「あぁ。ハイキングやピクニックにはよく爺やと顔を出していたからね。これくらいの薬草探し、御茶の子さいさいさ! はっはっはっ!」
山登りも、森林探検も。下手をすれば遺跡探検なども手馴れていると口にする。
彼の言う通り、この不安定な足場や時折見かける虫に怯む様子は見せない。見た目に反して、アウトドア活動にはそれなりの経験があるようだった。
「……クロード。あのデブが怪しい行動を取ったら、すぐに私に言うんだぜ? ロープで縛って焚火に晒してやるから」
「当分、肉に対しての食欲失せそうですね、それ……」
ドストレートに無礼なことをクロードも呟いてしまう。
無理もないと言えば無理もないか。クロードはマティーニに一度ひどい目に合わされている。その全貌を知っているアカサも、胡散臭い行動を取り続けているマティーニを信用していないようだった。
「ほらっ、見つけたぞ。タビレ草だ」
散開してから既に数十分近くが経過している。それなりに森の奥へ移動したこともあって、例の薬草の発見にもそう時間はかからなかった。
メモに張り出されている写真通りのモノ。マティーニはさっそく経験を生かして薬草を見つけ出したのだ。
「おおっ、早っ」
これにはアカサも素直に驚く。
「意外……」
クロードもやはり本音は“似合わない”と思っていたようだ。アウトドア経験の差を早速見せつけてきたマティーニに彼も驚きを隠せなかった。
「こういうのは得意だ。是非とも頼ってくれたまえ。はっはっは」
マティーニは胸を張って自慢する。
(ハハハハッ! どうだァッ! 薬草探しや魔物退治は魔法使いの基本だと、幼い頃からスパルタで受けてきたんだ! これくらいは経験の差が出てきて当然なんだよっ! 当然ッ!!)
謙遜なんて態度は毛頭ない。心の奥底では、意外そうな表情を浮かべていた二人を嘲笑うかのように見下ろすようだった。
(そこの小娘は当然。クロナードは魔法の技術こそ磨いていても、そちらの経験は浅いと見える……俺をもっと見るがいい。そして、崇めるがいい。信頼させ切って、油断したところをやらせてもらうからなッ! ハハハハハーーーッ!!)
傲慢な態度。アカサの予想通り、反省などしてはいないようだ。
登校してこなかった数日。説教とその罰により登校を許されなかった。それだけの懲罰を受けてもこの態度。あれだけ痛い目に合っても懲りない根性は逆に褒め讃えるべきかもしれない。
……そんな経験を見せたところで。
この二人が警戒を解くなんて早々ないとは思うが。
「ついでにハッカ草もだったな。だとしたら、直ぐ近くに生えているはず……」
マティーニは堂々とした面構えでハッカ草を探す。
「……あれ?」
しかし、その表情は途端に真顔になる。
疑問符を浮かべたような表情。首をかしげながら、タビレ草の生えていた地点の周りを確認している。
「変だな?」
おかしそうにあたりを見渡す。その地点で何があったのかは明白だ。
「“ハッカ草が一つも生えていない”?」
ないのだ。目的の品が。
マティーニは入念に辺りを調べるが、やはりそれは見当たらない。
「妙だ。おかしい」
「ハッカ草って、必ずタビレ草の近くに生えてるもの?」
名前こそ違うし効能も違う薬草だ。常にセットで生えているものなのかとアカサが問う。
「あぁ、ハッカ草とタビレ草は効能や効果こそ違えど、同じ魔素によって生まれる薬草なんだ。タビレ草の近くに必ずと言っていいほど生えているものなんだが……おかしいな」
「あっ、タビレ草あった」
クロードは草木を素手でどけていると、別のタビレ草を発見する。
「ちょっと見せてくれないか。ふむ……」
タビレ草を見つけたというクロードの元へ近寄り、あたりをまたも確認する。
「妙だ。やはりない……」
しかし、その周辺にもハッカ草はなかった。
タビレ草を発見することはあれど、ハッカ草の発見が何故か出来ない。それからも幾度かタビレ草を回収したが、ハッカ草は一つも回収できなかった。
「ないね。ハッカ草」
「どうしてだ……?」
考えられるとしたら二つ。
何らかの地表の変化があって、ハッカ草が生えてこないのか。或いは―――。
「誰かに取られて、」
「「「ギャァアアアーーーーーッ!?!?」」」
悲鳴が聞こえる。
「「「!?」」」
クロードとアカサ、マティーニの三人は目を合わせる。今の声は甲高くはあったが、裏返った声。ここまで一緒にやってきた不良生徒達の声だ。
何があったのか。
三人はタビレ草を持ってきたバッグの中にしまい、悲鳴の聞こえた方へと向かった。
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