”爆”の章

第五部 破天荒ビートにぶっとび軍団

39時限目「これからの日々【クロード達の一日】」


「……これでよしっ、と」


 ___拝啓、家族の皆様方。

 ___僕がディージー・タウンにやってきてから、早数週間が経とうとしています。


「今日も頑張るからね……おばあちゃん」


 ___正直言うと、この街にやってきて良かったのか、まだわかりません。


 ___母さん達の事は凄く心配だし、友人のイエロのことも気になっている。

 ___自分のやりたいようにやれ。なりたい自分になれ。その答えはまだ見つかりそうにありません。


「おーい! 早く行こうぜぇ~!」

「はーい! 今、いきまーすっ!」


 ___先は遠いかもしれないけど……いってきます。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 クロードが学園にやってきてから数週間が経過した。

 シャドウサークルへ入ったり、ソルダ率いる不良集団と仲良くなったり、それ以外にも色々な事があった。初日から波乱ばかりの日々を過ごしてきた。


「あぁ、そうだ! よぉ、クロード。俺の貸した本、読んだかよ?」

「この前薦めた店、どうだったよ? 美味かったろ?」

「俺の教えたストレッチの効果はどうだ? ちょっとは身が軽くなったろ?」


 ソルダ率いる不良集団との登校。

 三人から一斉に質問攻め。当然、クロードは頭の中がこんがらがる。


「おいおい、三人一気はやめてやれって」

「ううん、大丈夫です」


 何とか話を纏め、質問を返していく。

 貸してくれた本は非常に興味深く面白かった。多少、官能表現が多かったのが非常に気になるが。


 オススメされたパン屋さんも気に入った。カレーパンが本当に美味しかった。

 ストレッチに関しては効果的で助かっている。最近、重くなりつつあった肩から重荷が外れたような軽さになった。


 それぞれ質問に返し、笑いながら寮の門を出る。



「おっすー、今日はテンションあがってる感じ~?」


 寮を出てすぐに待っていたのは、アカサ・スカーレッダだった。


「あれ? 珍しい出迎えじゃね?」

 ソルダもアカサがこの場にいることを珍しく思う。

「スカーレッダさん、いつも直で教室にいるのに」

「いやー、気分転換ってやつ。ダチと一緒に登校かまして青春やっちゃいたいって思ってさ」

 手を振りながら不良集団を出迎える。男子相手でもこの距離感、流石のコミュ力と言ったところか。図々しすぎて敵作るのが多いのは相変わらずだが。


「でも、ここまでくるの遠回りだし、疲れるんじゃ、」

「そう冷たい事言うなよ~っ! 私とアンタの仲だろ~?」


 気遣っているのか、距離を離したいのか分からないが……変に離れようとするクロードを逃がすまいとアカサが彼の肩に手を伸ばしてくる。

 ぐっと身を寄せてくる。性格はどうであれ、何処か柔らかい感触と髪から漂うシャンプーの匂いもあって、相手が女の子であることを多少は意識させてくれる。


「私も混ぜろよ~。お話しようぜ~?」

「……まぁ、僕はいいです、けど」


 何処か距離はありながらも肯定する。

 ソルダ達もその点に関しては大歓迎である。男だらけで汗臭いこの輪の中に女の子が混じるのは。性格がどうであれ、アカサは一応美人なのだから。



 女性メンバーも加わり、学園へと向かう。



「やぁ、クロナード君」

 かなり賑わった輪の中に、また新たな客人が。

「奇遇だねっ。良かったら僕も一緒にいいかな。はっはっは」

 ポッチャリ貴族。市長の息子さんであるマティーニ・フィナコラダだ。

 初対面の時と比べてかなり紳士的な対応だ。全く似合わないキザな笑顔にキリっとした表情。声もいつもと比べてハスキーに上げている。


「……どうする?」

 ソルダとアカサはクロードを挟んで聞く。


「まぁ、向こうが怪しい事しない限りはいいんじゃね? これだけ人がいる中で何かしてこないとは思うし」

「それに、パパの市長さんにすっごく怒られたらしいからね。流石に反省してるんじゃね? どうする、クロード?」

「ど、どちらでも……」


 無理に断る方も面倒になりそうな気がする。

 ソルダの言う通り、これだけ人がいる中で何か仕掛けてくるとは思えない。それに向こうが何か企んでいるという証拠もない。変な行動をさせない為にも監視、という名目で問題ないだろう。



「じゃあ、お邪魔するよ。はっはっは」


 ハスキーボイスのまま笑い、輪の中に入る。





(……随分と舐め腐った態度をするじゃないかっ、コイツらっ!)

 ハッキリと聞こえたヒソヒソ話に対し、胸の奥でマティーニが吼える。

(見てろよっ……! 隙を見せた瞬間に、その表情をいつの日かの泣きっ面に変えてやるからなぁっ……!)

 当然、諦めてなどいない。

 コケにされ、笑いものにされ、そしてクラスメイトにも舐められるようになってしまった惨めな目。その恨みを晴らすため、マティーニはクロードに再び近づいたのだ。仲良くなりたいと装って。


 何度も言うがハッキリ言わせてもらう。

 


___理不尽。自業自得。因果応報。恥知らずも甚だしいと。


 おそらく、この場にいる数名が思っている事だろうが、気にしないようにしておく。



「そういや、ロシェロ先輩とブルーナ先輩は?」

「ロシェロ先輩は相変わらず寝てると思う。ブルーナ先輩は先に登校してるんじゃないかな? 勉強熱心だし、頼まれごと多いらしいし」

 

 ロシェロは相変わらずガレージハウスで眠っているのだという。サークル活動以外の時間で会ったことが早々ないので、予想は出来ていた。

 ブルーナに関しては流石エリートと言うべきか。ジーン・ロックウォーカー同様、ファンも多い。人気者はいつも忙しいというわけだ。


「今日もガレージに行くのか?」

「あぁ、それなんだけど。男子達に頼みごとがあるって、先輩が」


 アカサは思い出すように、胸ポケットからメモを取り出した。

 随分とクシャクシャである。おつかいの紙なのだから、もう少し綺麗に保管できないのかと呆れそうになる。


「森の方で取りに行ってほしいものがあるんだって。タビレ草っていう薬草らしいんだけど」

 メモを見ながら、ロシェロからの頼まれごとに耳を通す。


「それも、あのゴリラって巨人に、」

「ゴリアテ」

 いつも通り、クロードは訂正する。


「ああ、そうそう、そのゴリアテってやつに使うのか?」

「んにゃ。薬を作るんだってさ。タビレ草って安眠効果に良いらしくて、ストックがなくなったら回収に行ってほしいって」


「完全に野暮用じゃん……」

 ゴリアテも全く関係ない。会話を静かに聞いていたクロードは肩を落とす。


「というか、あれだけ眠っているのにまだ寝るんですか……」

「ほら、この前、スクラップタウンに買い物行ったじゃん? その日の前日もいつもより長めに眠ってはいたらしいけど結局、帰りに眠くなっちゃったらしくてさ。気持ちよく眠れてないのが原因だろうから、その薬を作りたいんだって」


 いくら睡眠が長くとも、体の疲れが取れないことは稀にある。

 満足のいく気持ちの良い安眠が出来ていない。疲れがとり切れていない。睡眠による体力の回復をより効果的にするための薬を作りたいというのがロシェロからの要望だそうだ。


「ロシェロ先輩って、いつもあんなに眠ってるの?」

「ん~……ブルーナ先輩が言うには、昔はあそこまでは酷くなかったらしいよ?」


 アカサはサークルに入ってからまだ三か月近くの身。寝坊助ロシェロの姿しか知らない彼女も、やはり気になってブルーナに聞いたことがあるようだ。


「ゴリラがあのハウスに来たのは五か月前らしくてさ。それから研究バッカやってて、そこにばっかり時間割いてからはよく寝るようになったって聞いたよ?」


 ゴリラではなくゴリアテだと言いたいが、変に口を挟まないようにする。


「まぁ、夢中になりすぎてるんでしょ。分からなくはないけど、自分のライフスタイルくらいはしっかりさせようぜ、先輩……って思ったね」


 研究に取り掛かりすぎるせいで毎日疲労。体力を日消費してるから寝るようになった。というのがブルーナの推測だそうだ。


「まっ、要はその草を搔き集めればいいんだろ? 暇だし、付き合うぜ」

「ああ、それとそれと……タビレ草の近くにはハッカ草っていうのもあるから、出来ればそれも取ってきてほしいって。ゴリラに使うんだって」


 ___おつかい多すぎないか、あの人。

 自分の脚で向かうことは出来ないのかとクロードは心の何処かで溜息を吐いていた。











「ハッカ草、か」


 校舎へ向かうクロード一同。


「任せられる?」

「ああ、任せておくれよ……」


 それを遠目で眺める人影が“一つ”。


「それと、もう一つ仕事だけど」

「だから、任せなさいって」


 影はもう一つある。

 しかし、それは人の形はしておらず……ボール状。宙に浮いている。



「今度こそ、二度と森に近づけない体にしてあげるさっ……!」

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